第9話 予想外にバズってた件

「は、え、ちょ、伴侶って……はぁ!? 君、それ意味わかって言ってる!?」

「もちろんじゃ、心外じゃぞ」


 シャルは、少し不機嫌そうに眉根をよせる。

 しかし、俺をつがいと決める要素なんてどこにあった!?


「まさか――《契約》とかいうスキルのせいか!?」


 確かキスをして、《契約》が発動したのだ。

 たぶん、その権能の中に《契約》した相手とは問答無用でになるトラップが仕組まれていたり――


「いいや、妾が勝手に決めた事じゃ。レベル1の矮小なる人間に、あんなにも熱烈に助けられたら、惚れない方が無理という話じゃ」

「うぇ……」


 そう言われると、なんだか照れくさいんだけど。

 ――て、思わず流しそうになったけど、ちょっと待てよ!?


「ちょっと待って。シャルが勝手に僕を伴侶と決めたって、それ僕は合意してないよね!?」

「ちっ、気付きおったか。まったく、女子に言い寄られたんだから、黙って鼻の下を伸ばしておればよいものを。据え膳食わぬは男の恥じゃぞ?」

「よくそんな言葉知ってるね!」


 この子、本当にモンスターなのかよ。

 こうして話している分には、本当に人間と変わらない。

 それが嬉しくもあり、厄介でもあった。


「とにかく、僕はシャルのことは好きだけど、その……そういう関係にはまだ早いと思うんだ。その……いろいろすっ飛ばし過ぎちゃってると思うから、申し訳ないんだけど僕は君の旦那様にはなれない」


 僕は、シャルにはっきりとそう告げた。

 シャルを悲しませてしまうかもしれない。それは辛いし、シャルのことは好きだ。

 けど、だからこそいろんな関係をすっ飛ばしていきなり夫婦みたいな、そういういい加減なことはできない。


 それが伝わったのか、シャルはふと力の抜けた笑みを浮かべて、


「仕方ないのう、まあ、ドラゴンと人間では在り方が違うじゃろうし、構わぬよ」

「シャル!」


 僕は感極まって、シャルの名を呼び――


「じゃが、妾の旦那様はおぬし以外いないからのう? 今後も全力で正妻力を見せつけるつもりぞ?」

「……ねぇ、僕の話聞いてた?」

 

 どうやら、僕はシャルのお眼鏡に適ってしまったらしい。

 僕がシャルのことを妻と認められないのは許してくれたが、彼女自身は勝手に妻を名乗り続けるようだ。

 なんというか、とんでもない厄介ファンが誕生してしまった。


「だいたい、正妻力なんてどこの誰に見せつける必要があるのさ 僕、恋人なんていないよ?」


 当たり前のことを聞いた僕だったが、しかしシャルは意外そうな顔をした。


「そんなわけがなかろう。既に旦那様は、注目の的じゃよ」

「?」


 シャルの言うことがわからず、僕は頸を傾げる。


「まあ、旦那様は気絶していて知らなかったじゃろうから、仕方ないかの。旦那様を取り巻く環境がどうなっているのか、実際に見た方が早いじゃろうて」


 そう言うと、シャルはテレビのリモコンの電源を、器用にしっぽの先で押す。

 すると、テレビに映ったのは――


『続いてのニュースです。昨夜、ダンジョン冒険者の経験値獲得数ランキングにおいて、まったくの無名冒険者――「神結絆」さんがランキングトップに躍り出たことで、日本中が騒然となっています』

「はぁああああああああああああああッ!?」


 ニュースキャスターのお姉さんが淡々とした口調で話すのは、間違い無く僕のことだ。

 え? うそだろ、なんでニュースになってんの!?


『レベル1から一気に20までレベルアップを果たしたことで、疑念の声も上がっていますが、それ以上に驚きと賞賛の声が多く――』


 開いた口が塞がらない僕をちらりと見て、シャルが言った。


「のう? Sランクモンスターを4匹も単独撃破したせいで、おぬしは今や好奇の的じゃ。これから注目を浴びることは免れぬ故、しっかりと粉を掛けさせて貰うぞ」

「…………」


 シャルが何やら言っているが、正直僕はそれにツッコミを返す余裕などない。


 ――ど、どうなるんだ。僕のこれからの生活は。


 一気に食欲が失せた僕は朝ご飯を半分ほど残し、戦々恐々としながら学校へ向かった。

 

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