第6話 空中戦で圧倒します
『シャァアアアアアッ!』
金切り声と共に、残された二体の“ホッピング・デーモン”が動いた。
圧倒的な俊敏性を武器に、2人がかりで挟撃でも仕掛けてくるのだろう。
実際、さっきは1匹にカウンターを決めるので精一杯だった。ただ――今は違う。
“経験値を取得、レベルが上がりました。”
“天の声”が朗々と頭の中に響く。自分のステータスを確認している暇はないが、その瞬間、わずかに相手の動きが遅くなった。
いや、違う。レベルが上がったから僕の目でも捉えられるようになったのだ。
でも今度は調子に乗らない。力に溺れるようなヤツになるために、力を得たわけではないのだから。
ステータスが上がっても、相変わらず魔法で姿を捉えるのは難しそうだ。
であれば。
「固有スキル、《
シャルと契約して得た最後のスキルを起動する。
と同時に、僕の背中から二対の巨大な翼が生えた。コウモリの翼をより猛々しくしたような、深紅の翼だ。
空の覇者たるドラゴンの飛行能力。これがあれば、自由自在に跳びまわる“ホッピング・デーモン”を相手に戦えるだろう。
相手が“跳ぶ”なら、こっちは“飛ぶ”だけだ。
『『キシャァアアアアアアアッ!』』
不意に、僕の正面と背中側に移動した黒い影が雄叫びを上げる。
壁を蹴り、前と後ろから挟み撃ちにするように僕めがけて突っ込んできて――
「ふっ!」
その半瞬前に、翼の中に空気を溜めて大きく羽ばたかせる。
標的を捕らえ損ねて正面衝突する“ホッピング・デーモン”は遙か下。僕の身体は一気に飛び上がっていた。
そして、その一瞬のもたつきを見逃すつもりはない。
「《ファイア・ボール》!」
お団子状態になった眼下の《ホッピング・デーモン”めがけて、炎の玉を叩き込む。
シャルの持っていた《バーニング・ブレス》ほどの威力はないから、三度、四度と連続で叩き込んでいく。
爆炎が眼下で踊り、二体の“ホッピング・デーモン”を飲み込む。
『『ピギャァアアアアアアッ!!』』
爆炎の中から上がる苦悶の声。
たまらず1匹が炎をかいくぐって抜け出してくる。
その身に何発も火球を受けたことで、青黒い皮膚は焼けただれ、あちこちから煙を上げていた。
ダメージを負っているからか、これなら魔法も正確に当てられる。
「逃がさない! 《ファイア・ボール》ッ!」
両手の先に魔法陣を展開し、トドメの火球を叩き込む。
『グギャアアアアアアァッ!』
連続で炎を喰らった“ホッピング・デーモン”は、全身を眩い炎に貫かれて、消滅していった。
――残り、1匹だ。
『キシャァアアアアアアアッ!』
こちらも手負いの“ホッピング・デーモン”が、禍々しい口から唾液を飛ばしながら叫ぶ。
手負いで追い詰められたモンスターは恐ろしい。
炭化しつつある手足を強引に振るい、空中にいる僕めがけてカッ飛んで来る。
「くっ!」
翼をはためかせ、ギリギリでそれを躱す。
頬を掠めた黒い影は、背後の壁に着地し、壁を蹴ってまたも僕の方へ突っ込んでくる。
これは、空中戦をするしかなさそうだ。
幸い、二匹目を倒したことで更にレベルが上昇している。
これならば張り合える!
『キェエエエエエエッ!』」
”ホッピング・デーモン“が吠え、腕に風を纏わせる。
おそらく、
「はぁああああああああああああっ!」
目一杯翼をはためかせ、僕もまた《
瞬く間に彼我の距離が縮まり――爪と風が、交錯した。
『キァ……』
呻き声と共に、“ホッピング・デーモン”の身体が、風魔法ごと真っ二つに切り裂かれ――黒い霧となって消滅していく。
ここに、“ホッピング・デーモン”との戦いは終結したのだった。
――。
「ふぅ、なんとかなった」
地面に降りた僕は、周囲を見まわして呟く。
地面も壁も天井も、あちこちに破壊の跡が見られる。ダンジョンの自己修復能力で元に戻っていくのだろうが、改めて見ると本当に激戦だったなという感想しか出てこない。
「そうだ! シャルは?」
この戦いに巻き込まないように注意したかったが、とてもじゃないがそんな余裕はなかった。
慌てて彼女の姿を探した僕は――
「ここじゃよ!」
「え」
不意に後ろから聞こえた声に振り返り、次の瞬間どんっ! とお腹に重たい衝撃を受けてよろめいた。
シャルが、勢いよく僕の身体に突撃してきたのだ。
「っとと、シャル!」
「流石じゃのう! まさかSランクのモンスターを単独で4匹も撃破してしまうとは。やはり、妾が見込んだ旦那様だけあるのう!」
「そんな、君がいなかったら僕は死んで――って、え?」
お礼を言いかけた僕は、そのときシャルの言葉に引っかかりを覚える。
「ちょっと待って、旦那様って何?」
「ああ、それはじゃな――」
満面の笑みで説明しようとするシャル。
しかし、そのときだった。
ぐにゃりと、視界が歪んだ。
あ、あれ……なんか急に、視界がぼやけて……
「旦那様? どうしたのじゃ? 旦那様!?」
シャルの鬼気迫るような声も、どんどんと遠くなっていき――僕は、どさりとその場に倒れ込んでしまった。
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