第4話 鎧袖一触
刹那、斜め上からの容赦ない一撃が迫る。
ほぼ反射的に、僕は腕で頭を守り、ガードの姿勢を取った。そして――暴威が頭上で弾けた。
バキィイイン! と鋭い音を立て、粉々に砕け散る。
ひ弱な人間である僕の身体――ではなく、相手の棍棒が。
「……へ?」
まるで紙吹雪のように辺りを舞う棍棒の残骸を見て、僕は目を丸くする。
「くっくっく。流石じゃのう。妾達と同じ鉄壁の《
隣に座って、得意げに笑うシャル。
え? 《
見やれば、僕の腕に鮮やかな玉虫色の鱗がびっしりと生えていた。
おそらく、「ガードしなくては」という意志に応じたのだろう。
「凄い。あの一撃を受けて、全く痛くないなんて」
ガードの意志を解くと同時に、まるで皮膚の奥に吸い込まれるように消えていく鱗を見つつ、僕は呆けたように呟いた。
それに、よくよく身体の感覚を探ってみれば、基礎的な力が跳ね上がっているように感じる。
もしかして、と思いステータスを開いた僕は、驚愕した。
――
名前:神結絆
種族:人間(?)
性別:男
レベル:8
HP(体力):220→2200
MP(魔力):180→1800
STR(攻撃力):35→350
DEF(防御力):24→240
DEX(命中):30→300
AGI(敏捷):99→990
LUK(運):36→360
魔法:《ファイア・ボール》《バーニング・ブレス》
固有スキル:《契約》《龍鱗》《
所持アイテム:――
称号:ドラゴンの主人
――
「す、ステータスが十倍!? はあっ!?」
僕は思わず叫んでしまった。しかも、レベルは8のままだ。
どうやら、《契約》という固有スキルでこのドラゴン娘と契約したことで、大幅にパワーアップしたらしい。
ていうか、種族:人間(?)ってなんだよ! シャルと契約したら人間辞めちゃいましたってか!?
なんか、ドラゴンのスキルまで使えるようになってるし、マジで人間やめちゃった説はある。
『グォオオオオオオオオオッ』
と、僕の思考を打ち切るように“キング・サイクロプス”が雄叫びを上げる。
武器を壊されたことで、相当怒り狂っているらしい。
「気をつけろ、来るぞ!」
「うん!」
シャルの警告に頷いた瞬間、敵の豪腕が僕の方へ迫る。
僕は足に力を入れ、思いっきり地面を蹴って飛び上がった。その衝撃で地面にヒビが入っていた。
当然のように、敵の攻撃は僕を捕らえ損ね大きく空ぶる。
僕の身体は、ドームの天井付近。“キング・サイクロプス”の遙か頭上へと飛び上がっていた。
『グァアアアアアアアアアアッ!』
“キング・サイクロプス”がたまらず声高に吠える。
頭上に移動した僕を叩き落とそうと腕を伸ばす“キング・サイクロプス”。
その巨体を見下ろしながら、天井に着地した僕は、眼下にいる敵を見据え――思いっきり天井を蹴って急降下した。
「いっけぇえええええええええ!」
僕は新たに手に入れた固有スキル《
刹那、鋭い3本の鉤爪が僕の右手から生え――すれ違い様、“キング・サイクロプス”の大腕を、肩の付け根からバッサリと切り落とした。
『ガ、ァアアアアアアアアアアアアアアッ!?』
たまらず絶叫をあげる“キング・サイクロプス”。
いける! この力なら、なんにだって勝てる!
まるで、自分自身が神にでもなったかのような感覚。その万能感に、僕の頬は思わず緩む。
『ゴガァアアアアッ!!』
残った左腕を振るい、着地した僕を狙って我武者羅に攻撃を仕掛けて来る“キング・サイクロプス”。が、僕はそれを躱しきって、再び空中へ飛んだ。
そのまま、ガパリと口を開いて敵の胴体へ狙いを定める。
同時に、口の正面に積層型魔法陣が展開され、低い駆動音とともに赤い光が駆け巡る。
少々格好は付かないかもしれないが、おそらく強さは折り紙付きだ。
何せ、魔力切れ寸前の少女でさえ、Sランクのコイツを追い詰めかけたほどの魔法なのだから。
「喰らえ! 《バーニング・ブレス》!」
――閃光が、空間を焼いた。
口の正面に展開された魔法陣から、一条の極光が放たれたのだ。
熱と炎をあまりにも凝縮しすぎて、もはや破滅の光と言った方が正しい。
圧倒的な一撃は、狙い過たず“キング・サイクロプス”の胴体に突き刺さり、貫通した。
後には、胸部に大穴を開け、その周りがドロドロに溶け落ちている“キング・サイクロプス”の無残な姿が残されていて。
『グ、ォ……』
“キング・サイクロプス“の身体がぐらりと傾いだかと思うと、そのまま地面に倒れ込んだ。
――。
着地した僕は、倒れ込んだ“キング・サイクロプス“に近寄る。
身体から煙を吹き出し、その巨体は完全に沈黙していた。
“経験値の取得を確認。レベルアップしました。消費分のMOが全回復しました。”
頭の中に直接声が響く。
「やった……のか? 僕が、このモンスターを?」
「ああ、そうなるな。見事であったぞ」
足を引きずりつつ、いつの間にか僕の元へ近づいていたシャルが、不敵に微笑む。
そうか。この子も、無事で済んだのだ。
「……よかった」
「妾の力を使ったんじゃ。勝ててよかったなんて言うでないわ。勝てて当然じゃろう?」
「いや、そういう意味じゃない。シャルが無事でよかったって意味だよ」
「ふぇえ!?」
急にシャルは顔を赤くして飛び下がる。
「な、ななな、なんじゃ急に! そ、そんなにキザな台詞を言っても、何も出んぞ!」
何やら慌てているシャルを前に、極限状況を乗り越えたことでほっと息をついた――そのときだった。
――ゴゴゴゴ。という低い音が響いてくる。
天井からパラパラと土が落ちてきて、まるで空間そのものが悲鳴を上げているかのようだ。
「な、なんだ!?」
「――まあ、ここはダンジョンの深層じゃからのう。モンスターの空間認識能力も桁違いじゃ。これだけ派手に暴れれば、近くにいる凶暴なモンスターは異変を嗅ぎつけてくるわな」
シャルは、やけに落ち着いた声色で呟く。
が、僕は気付いてしまった。たぶん、無意識だろうが――僕の袖を握るシャルの手が、微かに震えていることに。
そのただならぬ雰囲気に、僕の額から脂汗が吹き出して頬を伝う。
「く、来るぞ!」
シャルの言葉と同時。
ドーム状の空間の壁が、けたたましい音を立てて砕け散った。凄まじい威圧感が、ドーム内に流れ込んできた。
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