第27話政略結婚から2ヶ月 妊娠 子供の父親は…?

政略結婚から2ヶ月  妊娠 子供の父親は…?


「シリ様。ご結婚以来、月のものがありません」

エマの発言にシリはポカンとした。


そういえば・・・生理が来ていない。


この2ヶ月の間、慌ただしい日々を過ごし無我夢中だった。

すっかり忘れていた。


エマにしては珍しく歯切れが悪そうに伝えた。

「・・・おめでたではないでしょうか」


(おめでた・・・妊娠?)

妊娠していても不思議ではない。


現にグユウとは・・・。

でも、その前に不本意とはいえゼンシとも交わっている。


その瞬間、足元がスッとなくなり地に落ちる感覚になった。


指先が震える。

「エマ・・・最後の生理はいつだったか覚えている?」

シリは震える声で聞いてみた。


「最後の生理は・・・ワスト国に嫁ぐ前の半月前です」


シリはヘナヘナと床に座りこんだ。

エマが慌てて駆け寄る。


「違う。妊娠しているわけない。私は元気なの・・・妊娠すれば気持ち悪くなったりするはず・・・」


「シリ様。つわりは人それぞれです。感じない人もおられます。お医者様を呼びましょう」


「私、妊娠をしているの?」

エマにすがりつく。


「それを知るためにお医者様を呼ぶんです」

「エマ、城のものには風邪ということにしてほしいの」

「承知しています」



忙しい時で良かった。

通常なら、風邪を引いたと知られれば皆が心配する。

・・・もちろん、グユウにも。


医師を城に呼ぶとグユウに伝えると、グユウは予想以上に心配した。

「・・・大丈夫か」


「大丈夫ですよ。ちょっと風邪を引いて・・・念のためです」

「その・・・無理をさせてしまった。昨夜は・・・」


昨夜の行為を思い出してシリはかあっと顔を火照らせた。


グユウも無理をさせた覚えがあり、気まずげに目を泳がせ小さく詫びた。

「すまなかった」


んんっ、と咳ばらいをした後にシリは口を開く。

「謝らないでください」

「そうか・・・すまない」

(言えない。グユウさんだけには知られたくない)



「おめでとうございます。ご懐妊されていますよ」

医師は診断後に朗らかに伝えた。



それを聞いた途端、女性としての喜びではなく、冷たく、凍りつきそうなほどの不安と恐怖にとらわれた。


(父親は・・・グユウさんであってほしい)

そうあってほしい。


何度もグユウと愛しあった。


その一方、

(父親が兄上の可能性もある)

その疑いも払拭できなかった。



真っ青な顔で布団を握りしめる。


医師には、体調が悪いので安定してから発表したいと伝えた。

エマは通常より多くの支払いを渡した。


医師が帰った後、シリは深い絶望に見舞われた、

(どうしたら良いの・・・?誰にも相談できない)



無意識に何度もお腹を触る。

涙が溢れてくる。



「シリ様・・・」

エマがそっと声をかける。



エマの問いにシリは何も答えられない。


嫁いだ時に清い身体だったら、すぐにグユウに報告できただろう。


グユウだって喜ぶに違いない。

あの無表情がどんな風に顔を崩すのだろうか。


けれど・・・けれど・・・。


「グユウ様には妊娠したと告げれば良いだけです」

エマがキッパリと言った。



「お子様は・・・もし、恐れている事だとしてもシリ様に似ているはず。何の心配もありません」

後半、エマの声は震えていた。


(エマは知っているのだ)

シリは悟った。嫁ぐ2日前に起きたことを。


(あぁ優しいエマ!気づかないふりをしてくれた)


子供の父親がゼンシだとしたらシリにそっくりな子供になるはず。

シリとゼンシは兄弟なので顔が似ている。


母親似の子供と皆が納得してくれるだろう。


けれど・・・。


グユウはシリに誓った。


“約束する。オレはシリに嘘をつかない“

この上なく優しい瞳でシリを見下ろして言ってくれた。



シリは手のぎゅっと握りしめる。



「グユウさんは私に嘘をつかないと約束してくれた・・・。私も・・・正直に話さなくてはいけない」



「いけません!!シリ様!!」

エマは叫ぶように否定した。



シリの手を握り、エマは乳母というより母のような目でシリの瞳を覗き込む。


「お子様の父親はグユウ様の可能性もあります。

例え、真実だとしても言って良いことと良くない事があります。

グユウ様と・・・長く一緒に過ごしたいのなら本当のことは言わぬべきです」



(グユウさんのそばにいたい・・・そのためには、この秘密は打ち明けぬままにしよう)



「わかったわ。グユウさんには秘密にする。妊娠は・・・兄上が帰って落ち着いたら話すことにするわ」

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