第21話 政略結婚、夫が好きになってきた…これって恋?
政略結婚、夫が好きになってきた…これって恋?
グユウと結婚して半月。
シリは新しい環境に少しずつ慣れてきた。
城の家臣、侍女、女中、馬丁、庭師と顔馴染みになってきた。
馬が好きなシリにとって馬の世話をする馬丁と話をすることが楽しかった。
優しい目をした馬をブラッシングをするたびにエマは不平を漏らす。
「馬ではなくご自分の髪を手入れしてください」
父親と同じ瞳を持つ赤ん坊のシンは、シリと目が合うたびに笑ってくれるようになってきた。
例え、それが生理的な反応だとしても、
その笑顔を見るたびにシンの母親がわりになろうと心に決めた。
シュドリー城では女性らしく振る舞おうと我慢をすることが多かった。
レーク城ではやってみたいことを気にせず行うことができた。
それは“そのままで良い“と話してくれたグユウのお陰だった。
そんな訳で、今日も昼下がりにグユウ、家臣と共にりんごの木を見に馬を走らせた。
乗馬をするシリの姿は近くに住む領民たちの話題になっていた。
凛々しく馬を操るシリを見て、この地域の女の子たちは乗馬に憧れを抱くようになってきた。
1週間前まで満開だったりんごの花は半分以上散り、緑色の葉っぱが濃く繁るようになっていた。
ここからどうやって赤いりんごの実になるか想像ができない。
グユウに問うと短い返事がきた。
「秋になればわかる」
シリとグユウとの会話はシリが話すことがほとんどだった。
グユウから話題を提供することもない。
それについてはシリも承知の上なのでグユウはシリからもたらされる他愛のない話題を
聞いては時々、「ああ」「そうか」と相槌を打つだけだった。
シリが話す、レーク城での日々の細やかな出来事、
シンがいかに可愛く成長しているかに耳を傾けてくれる。
上手な切り返しや会話の応酬ができないけれど、
グユウは優しい目でシリを見つめることが増えてきた。
シリはグユウのわずかな表情や眼差しで何を考えているか。
何を思っているのか察するようになってきた。
シュドリー城で、気が短く気性が激しいゼンシと暮らしていた事で培われていた観察眼だった。
結婚式で直感した通り、グユウは話すことよりも瞳で気持ちを表現することが多い。
真っ黒の瞳が薄いまぶたの動きにあわせてて、長いまつ毛が揺れる。
グユウの感情を読み取ろうと瞳を見つめるたびにシリは頬に血が上るのを感じた。
そうやって日々を重ねることで、2人の空間、そして城の中では絶えず優しい空気に満たされていた。
シリはグユウの姿を見るたびに胸の奥が痛むようになってきた。
(これが恋というものだろうか)
まさか自分が恋をするなんて。
それも政略結婚の相手に。
恋をしたら幸せな気持ちになるだろうと思っていた。
現実は違う。
胸の奥が絶えず痛くなり、顔を赤くなり、動悸がうるさく、癇癪を起こしたり、涙が出たり感情の制御ができなくなる。
わからないことは何でもエマに質問する癖があったけれど、
この疑問は口にせず、宝石のように胸にしまっておくほうが素敵に感じた。
ーーーーーーーーーー
夜になると、
シリがそっとグユウの袖を控えめに引っ張り、口づけを求めることが多かった。
少し照れた表情でグユウはシリの求めに応えてくれる。
グユウの清涼な木のような香りに包まれる。
シリが1番好きな時間。
ふと、不安に思うことがある。
(グユウさんは私のことが好きなのだろうか)
結婚は家と家を結びつけるものであって、愛情は芽生えない。
それは理解している。
でも、グユウの優しい目を見ると勘違いしそうになる。
(子を成すために、こんなに優しいのだろうか。政略結婚なのに…勘違いしてしまう)
目を閉じると、柔らかいものが頬をすべった。
それは唇であることに、すぐ気がついて、
押し当てられた柔らかさに思わず笑ってしまう。
嫌ではなかった。
それどころか、どうしようもなく胸が震えて、もっと触れてほしくなる。
(私だけがこんな想いをしているのだろうか)
目を開けると、黒い瞳をそのまま捕まえ視線をからめる。
シリの方から唇を寄せる。
一度、触れ合ったそれは音を立てて何度も重ねられた。
(グユウさんは私のことをどう思っているのだろう)
シリはそれが気になった。
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