第5話 出発
ユウキの聴取が終わった後、俺たちは驚くほどスムーズに解放された。署内の別室に連れていかれ、取り調べをしてきた男の部下らしき女性が魔法陣が書かれた紙を取り出し、俺たちの額にそれぞれ押し付けると、体が発光した。これが魔法なのだろうかとユウキの方を見ると、百億光年先の星にも届きそうなほどパッと目を輝かせて驚いていた。
「王都を出たいなら検問所で僕の名前を出せばいい」
最後に自己紹介と言うのは順序があまりにも逆すぎると言いたいところだけれど、ユーリ・アーバン・ルベルカなんて長い名前を覚えるのが先だった。
「どうしてだ?」
「行けば分かるよ」
その会話を最後に、俺たちは二人して異世界の街に放り出されてしまった。
「これからどうしよっか」
「ユウキはどうしてみたい?」
いつまでも憲兵が見張っている玄関口に突っ立ているわけにもいかないので、とりあえず当てもなく歩いてみる。こうして街を散策してみると、なるほど、ユウキが言っていた長崎のハウステンボスと言う感想も頷ける。
「うーん、折角だからこの街を見て回ってみたいなって思う……、かな。でもハルは反対でしょ?」
「何でそう思うんだ」
「だってハル、険しい顔してるもん」
「……多分だけどこの街にいると良くないことが起こると思う」
素直に言った。ただまぁ何でまでは言わなかったけど。
その話をするのはひとまずこの街を出てからだ。少し名残惜しそうな顔をするユウキには申し訳ないけど。
俺は靴紐とユウキに言ってその場に屈んだ。もちろん靴紐は解けてなどいないし、視線を悟られない位置からさっと周囲を見回す。やはりと言うか憲兵が二人、慌てたように会話を始めていた。
「わり、んじゃ急ごうか」
検問の列は確かに並ぶのを躊躇わせるような長さではあった。とは言え別口で案内されている人間もいたので全員が全員並んでいると言うわけでもないみたいだけど、身なりからしてあれがVIP待遇何だろう。
案内をしている人に近づいて、
「ルベルカさんの紹介なんですけど」
と声を掛ける。すると、この世界の、恐らくはこの地域のスーツにあたるだろう制服を着た女性は、こちらにどうぞ、と告げてきた。後を追い、二つの扉を抜け、長い廊下を渡ると来るときに見たそれなりの高さのある壁を抜けたらしい。眼前に広がるのは大きな平原と幾つかの道だった。
「今日中に歩いていける距離で大きな町ってありますか?」
と訊けば、三時間ほど歩いた先にそんな町があるらしい。ルベルカさんからですと渡された携帯瓶にはたっぷりと飲料用らしい水が入っていたので道中困ることはないだろう。まぁ最もこの世界に来た時に栄養補給がいらない体になっている可能性もあるけれど。
当面の飲み水は確保したところで3時間、1960年に発明されたウォーキングと洒落こもうか。
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