第6話 恋と資本

#1 バス中

 バスは環状線を南下した。

志田と隣り合って立つ車内。

バスが揺れるたび吊革にぶら下がる様にして身体を支える。

他の女子の中には両手に鞄を持って器用に立って居るコもいた。

志田はリュックを前に右手を携帯に滑らせていた。

何となく気不味い。

話しかけようにもヘッドホンで耳が塞がっている。

志田の顔の前で手を振ってみる。

「何?栗町さん」

「どっか寄る?」

「井荻寄る?」

「井荻だっけ」

「荻窪」

「進路の話しようよ」

「秋野とすれば」

「委員長素っ気無い」

「委員長は在校中」

「下校したら関係ないと」

「そ」


バスが井荻を通過する。



#2 自宅

栗町を巻いて帰ると、時刻は8時過ぎだった。

公営住宅は何だかひっそり静まり返った感じで本当に他所に人が住んでいるのかどうか怪しい気がした。

集合ポストの郵便物を確かめ階段を上がる。

自宅のドアの前に立って、ノブを握る。

鍵は掛かって居る。

財布から鍵を取り出して開ける。

玄関には靴が数足。

リビングからテレビの音が聞こえる。

「只今」

小さな声で帰宅を告げる。

自室に戻るにはどうしてもリビングを通らなければならない。

リビングのテレビは国営放送でニュースを流していた。

「おかえり」

母はソファーに横たわっていた。

「来てるの?」

「寝てるよ」

「……」

「着替えて出かけな」

「そうする」

靴は無かったのに、やはり油断できない。

着替えに自室に入る。

机の上に鞄を置いた。




#3 荻窪

「お呼びに参上しました」

荻窪駅近辺、ビル一階のファーストフード。

「ご苦労である」

「何?」

「あんまり来たこと無かったから」

「ああ」

知らない街は何だか物騒な気がするものだ。

「——何で荻窪。」

「志田さんこの辺なんだって」

「……」

「何?」

「いや一寸」

「進路の話してた」

「委員長何処?」

「就職だって」

「進学じゃないだ」

「だって」

「苦労してんのかな」

「委員長だしね」

珈琲を飲み終わる。

この辺に。

「あの」

「帰ろうか。」



#4

街中歩くにしても、時間帯がある。

取り合えず外に避難してきたもののもう高校生が入るような店?は看板。

お酒も入るような飲食店かさもなくば夜の部しか開いてない。無難な店、と検索すると自自動的にファーストフードかファミレスに焦点が合う。

第一候補にファーストフードをあげる。

アーケード商店街に面したファーストフードに入ろうと思ったら、結構な行列だった。

余り立って待っている気もしない。

通り過ぎて左に回り、バス通りに出る。

ファミレスに行くと其れほど混んでなかったので夕食がてら入る事にした。

今日の夕食代は、貰っていた。


どうせ十時迄しか居られないが、元を取る為ドリンクバーを注文した。

鞄は持ってきていないので自由に席を立つ。

オレンカルピスコーラソーダカクテルを口にしながら窓の下の街を見る。

会社帰りの人と思しき大人がゾロゾロ歩いている。

「就職か……」

推薦に落ちた。

手痛かった。

後の望みは奨学金狙いだが、其れでも学費が。

成績に自信はあったのに。


窓の下の街を南東に行けば街の夜の部。

此のままいくと。

役所の親父の説教の理不尽さが忘れられない。



携帯を見る。

帰ったら掛かって来るはずだった。



if 広宣流布 then 国立戒壇建立仏国実現。

else

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

毎週 日・木 20:00 予定は変更される可能性があります

他国侵逼~「異」の侵略と”アポカリプス”~ 一憧けい @pgm_T

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ