第8話
チラチラと渚に目を向けては外してを繰り返し、時はあっという間に過ぎ去った。
放課後、ホームルームが終わってすぐに横に掛けていたカバンを手に取って、昨日と同じように彼女と帰ろうと顔を合わせる。
「白沢さん一緒に」
「ねー白沢さん、この後カラオケ行かね?」
京子が言い終えるよりも先に、被せてくるように声をかけにきた男子生徒。
「……えーっと、あなたは」
「俺は涼太。でさ、どうかな」
ツラの良い、モテそうな男だ。積極的に誘うその様子から、自分に自信があり、すぐに仲を深めようと美人な彼女と画策しているふうに感じた。
でも、大丈夫。渚ならきっと断るはず。友だちのあたしを優先して、こんな誘いを蹴るだろう。
熱い視線を送り、願うようにそう訴える。
彼女はそれに気づいて、京子を一瞥した。
「二人きりで行くつもりなんですか?」
「し、白沢さん……?」
何を、言ってるの? 何でそんなこと聞くの? それじゃあまるで行くのに乗り気みたいじゃないか。
心臓がギュッと掴まれる錯覚に見舞われた。
「ああいや、他の奴らと行くつもりだったんやけどさ、どうせなら歓迎会的な? そーゆーのも含めて白沢さんもどうかなって話になったんだよね」
「そうですか」
あたしの想い人は悩む素振りを見せた。
「ねーどう? 転校してきたばっかで友だちいないと思うんだよね、だからさぁこの機会にみんなと仲良くならない? きっと楽しめると思うし」
隣に立つ京子の存在を無視して話を進める彼は、甘言を並べて渚を誘惑する。
「確かに、お友だちが増えるのは良さそうです」
早く否定して。あたしと帰るって言い切ってと叫びたい。
縋る瞳が彼女をしがみついて離さない。黒く渦巻く感情は力を増すのみ。
「だよね! じゃあ一緒に──」
「ですがお断りします」
黒い霧が綺麗に晴れた気がした。きっぱりと断言したその佇まいは、禍根を残さないと思わせるほどに強かった。
「……あの、なんで? 行く流れだったと思うんだけど」
「私、友だちにはもう困っていませんので。それでは失礼します」
京子の手を引き、素早く教室外に出る。立ち尽くす彼の後ろ姿が、今の状況が理解できていないと語っているみたいだった。
「あ、あのさ、よかったの?」
京子は不安を含めて聞いた。
「はい、もちろんです。私は京子さんと帰りたいですから」
「白沢さん……」
「あんな知らない人とどこかに行くなんてありえません。京子さんの方がずーっと大切ですし、何よりも優先しますよ」
「え、えぇー? あたしのことが好きなんてそんなぁ」
嬉しさのあまりにやける顔が止まらない。
いや冷静になれと自分に言い聞かす。さっきの件もあるし、油断はできない。悪い男に誑かされて変な方向に向かってしまう可能性も捨てきれないからだ。
チョロくなるなあたし。
「まあ、とりあえず帰ろ?」
「そのことなんですけど、今日は一人で帰ってもいいですか?」
「え」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます