第27話 ヒーローの条件

 屋敷の中で困っている者を見つけて、親身になって力を貸してやった。洗濯をするメイドには道具を上手く使う方法を教え、訓練をする兵士とは一緒になって効率的なトレーニング法を試した。みなが深く感謝をしてくれる。物欲を満たすだけとは違う何かを確かに感じることが出来た。


 少し、愛というものが分かった気がする。

 やはり愛と感謝はセットなんだ。

 だが何でもいいわけじゃない、最初の世界の様に数を掻き集めてもそれは愛情には育たない。

 であれば大きな感謝が愛情?それでもない、近い物ではあるが、二度目の世界では生まれていた感謝はネガティブな状態から生まれる感謝。愛情に近いと言っても、それはただただ純粋な感謝だ。


 愛情を伴う大きな感謝。相手を思いやって大きな感謝を引き出せばいい?だが母上の愛は俺から何かを与えたわけではない。ただ勝手に子を愛し、喜びに包まれていた事で生まれた感謝だ。


 何度も繰り返し考えて答えに行き着いた。愛とは、一つじゃない。それぞれの心の中で生まれる物なんだ!

 共に居る家族への愛、自分に無い物を持つ他者を求める愛、喜びの中で生まれる愛、悲しみの中で生まれる愛、ただ綺麗な顔を見て生まれる愛。純粋な物も、無意味な物も、下劣な物も、全て愛だ。

 そして俺が求める愛とは?



「なんだっていいさ、集めやすい愛を集めよう。どうせ俺には愛の形なんてわからないんだから」

「集めやすい愛ですか?」

「そうだ。感謝と愛がセットなら今までやっていた事と大して変わらない。なら、愛が生まれやすいように工夫しながら感謝を集めればいい。感謝ならポイントが分かるしな」

 感謝ポイントを知るのはデフォルト機能だが、愛情を測る機能はこの能力を持ってしても実現できなかった。呪殺が1Pで愛情を測るのが不可能とかある?あの方の性質がこえぇよ。


「ポイント交換発動・美形に変身」

 希望の姿に変身 5時間まで 5P

 希望の姿に変身 永続 50,000P

 変身魔法 5,000,000P


 ずっと昔に検索した事があるな。今なら迷わず変身魔法を取得できる。まずは見た目で稼げる安易な愛情を確保するんだ。

「よし、変身だ」

 光が全身を包んで俺の体が変体した。


 長いまつ毛、大きく潤んだ瞳、やや細身で華奢な体型、儚げな微笑み。美しくも弱々しく、どこか危うさを感じさせる優男になってみた。

 ゆるく波打ち肩にかかるミルクティーブラウンの髪を少しだけ崩し、大きな瞳はやや伏し目で潤んでいて光を映したような透明感、どこか寂しげな表情でアリアを見つめた。


「どうかな?ボクを愛してくれるかい?」

「セイヤー!」

「がはぁぁ!」

 突然のビンタ!下から掬い上げるような強烈なビンタで体が浮き上がり、下顎骨を粉々に粉砕して歯が吹き飛んだ!

「ぎざまぁぁぁ!」

「すみません、アレルギー反応の様です」

「えぇぇ……、あんなにかっこよかったのに」


「ぐぐぐっ……!この姿では愛情は引き出せないか」

「ダメですね、元の方がマシでした」

「私は凄くいいと思います。悪魔の知識からですけど」

「そのままだと見る度に拒絶反応が出そうです」

「なんなのそれ、暴力ヒロインなの?」

「妙齢の女性の愛が欲しいならいいかも知れませんが、対象が限られてしまうんじゃ無いですかね。愛を求めるなら男性を切り捨てるのもアリだとは思いますけど」

「ふむ」

 潤んだ瞳の優男が好きな男なんていない(断言)。もうちょっと広く愛されそうなのがいいな。



「では改めて変身」


 今度はカリスマ美男子を意識してみよう。

 高身長、端正な顔立ち、鋭い眼差し、堂々とした立ち姿。流れるような美しい銀髪、貴族のような威圧感と共に冷たく怪しげな雰囲気を醸し出す。

 細身だが、胸を少しはだけさせてガチガチ細マッチョを見せつけておこう。


「どうだ、私を見た感想は?」

「とぉー!」

「ごばぁ!」

 スカした俺の水月にめり込む鉄拳!硬い!鉛を打ち込まれたかの様だ!(未経験)

「な、なぜ……!」

「アレルギー反応です」

「えぇぇ……」



 この後3回変身したがどれもアリアには物凄く不評だった。メグは全部かっこいいと言っていたんだがなぁ。


「いつものままでいいじゃないですか。ルカ様は貴族だしおこちゃま可愛いので大丈夫ですよ」

「大人の方が愛情を引き出しやすいと思うんだが」

「まず騙して愛情を引き出そうとするのがダメです。ずっとあの格好で騙し続けるんですか?」

「うっ、まぁそれもあるか」


 変身は断念した。




「うーん、さっさと感謝集めを通して愛情を集めるか。それが俺の原点だしな」

「はい、今までもルカ様は愛されていました。今までに通りにしながら、愛されている事に気づける様にするのがいいかと」


 感謝を集めるのは慣れたもんよ、後は愛情が含まれやすい感謝であればいい。数打ちで行くぞ。

 愛のある感謝。俺を絶対な存在として崇めさせても愛は感じなかったし、極限状態から引き出した大きな感謝は純粋ではあっても愛は感じなかった。他に思いつくものは……献身?


 人々に分かる形で俺の何かを削る。財であったり時間であったり、または自分の身を削る。自分のために献身してくれる、犠牲になって守ってくれる。

 考えてみるとこれはやった事がないな。配給は財を削る物ではあるが、俺自身が犠牲になっている事を明白にしないと大きな効果は見込めない。痩せ細った母が僅かな食料を子に与える姿は感動的だろう、そういう物を演出しないといけない。


 人々に食料を配る場合は、俺はその影で貧相な物を食べてそれを目撃させる?

 人々の病気や怪我を治療し続け、疲労で倒れてみるか?

 いや、これだと実験としては悪くないが、規模を大きくすることが出来ないな。同じ犠牲なら、もっと派手な物がいい。


 そうだ、これまでの経験を活かそう。

 人々が常に感謝を捧げる状況、そして危機に瀕した状況から生まれる大きな感謝、それらに加えて危機に瀕した者への献身と犠牲を見せつける俺。

 これらを全て満たすにはどうすればいいか?簡単だ、大きな敵がいればいい。


 絶対に敵わない脅威を生み出し、人々のために自らを捧げることで、圧倒的な感謝を引き出す。

 強大で、恐ろしく、醜い悪魔。人々は恐怖の中で一心に救いを求める。

 そして俺が英雄として戦い、皆の感謝の応援が力になると伝えるんだ。




 愛する人々の為に戦う俺を、多くの人々が愛してくれるだろう。

 俺が傷つくほどに、戦いが激しくなるほどに、恐怖が膨らむほどに。


 ようし!張り切って最強の悪魔を生み出すぞ!でも搦め手されて被害が増えると俺を愛してくれる人間が減るから、頭は微妙でいいな。

 まず強く、目立つ為にクソでかくして、恐怖を掻き立てる姿にしよう。吠え声も工夫しておかないとな。俺の想像する最強の敵を創り出すぜ。

 大丈夫、誰も傷つけたりしない。俺がみんなを守るから。

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