11.二人の関係



 ――6時間目の体育の授業中。

 バスケットボールでドリブルシュートを決めた藍は外野で体育座りをしている私の方を見て笑顔で言う。


「あやかぁ、いまのシュート見てたぁ?」

「見てたよ〜。凄いね!! ナイスシュート!」

「あやかのことを考えてシュートを打ったよ」

「バーーカ! 純粋にスポーツに打ち込んでよ!」


 彼のアピールが強すぎて周りから笑いを誘う。

 でも、彼の本気度が伝わってる分、冷やかす人なんていない。

 藍は勉強もできるし、スポーツも万能。

 しかも、甘いルックスに人懐っこい性格。

 いままではクラスメイトとしてしか見ていなかったけど、最近はいろんな面を持っているんだと思うように。

 すると、みすずは隣から肘で小突く。


「彼氏やるじゃん」

「彼氏といっても期間限定だけどね」

「こんなに愛されてるんだから早く気持ちに応えてあげればいいのに」

「好きならまだしも……。私の中では仲の良い友だち程度! ……ほら、人ってそんな簡単に好きになれないでしょ」

「なにか特別なきっかけがあれば好きになる?」

「そんなの、わかるわけないじゃん……」


 最近つくづく思う。

 恋とはなんだろうかと。 

 梶くんを見てドキっとしていた感覚は、最近藍の勢いに負けてるというか……。


「なんかさぁ、こんな中途半端な時期に他の学校に転校ってどうなんだろうね」


 急に話題が変わったのでみすずの方に目を向けると、目線の先はいまコートの中に入って練習試合をしているひまりちゃんへと向けられている。

 だから、彼女を指してるとすぐにわかった。


「ひまりちゃんのこと?」

「そうそう。しかも、転校先に幼なじみってなんか臭わない?」

「偶然だって。みすずの考えすぎ」

「そうかなぁ。なぁ〜んかひっかかるんだよね。…………うひゃっ!!」


 急にみすずの上部からタオルが降ってきて二人でその方向を見上げると、そこには坂巻くんが立っている。


「みすず、そのタオル持ってて」

「うん、いいよ! これから試合?」

「そ。行ってくる」


 と、コートの中に向かう坂巻くん。

 どうやら選手交代の時間が来た様子。

 私は彼が”みすず”と呼び捨てしていたことが気になっている。


「なになに、坂巻くんといい感じじゃん」

「そんなことないよ〜。あやかたちには敵わないって」

「そ、それは……。藍が近づいてくるからノリでというか」


 口を尖らせていると、ひまりちゃんは練習試合が終わったようで手を振りながらこっちへやって来る。


「二人で楽しそうに喋ってるけど、なんの話?」

「川嶋さんは石垣くんの幼なじみだったんでしょ? 昔はどんな感じだったの? 彼女とか好きな人とか」

「ちょ、ちょっと! みすずったら。やめなって!」


 ムキになったままみすずとの間に割って入ると、ひまりちゃんから笑顔が消えた。


「藍は昔から好きな人なんていないよ。……人を好きになっちゃいけない人だから」

「……それ、どういうこと?」

「だって、藍はね……」


 と言いかけてる最中、藍が背後から現れて「お前、いい加減にしろよ」と明らかに不機嫌な口調を浴びせる。


「いいじゃない、別にこれくらい……」

「ちょっと、話あるから来い」


 藍はひまりちゃんの腕を引っ張って体育館の外へ連れて行く。

 当然、その場に残された私たちは不穏な空気に包まれたまま。 


「石垣くんが人を好きになっちゃいけないってどういう意味だろうね」

「さ、さぁ……」


 藍はひまりちゃんが来ると不機嫌になる。

 それに、ひまりちゃんは藍の秘密を握ってそうな雰囲気に。

 本物の彼女じゃなくても気になる。

 二人は一体どういう関係だったんだろう。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る