10.恋の応援
――昼休み。
みすずがお弁当を持って私の席の向かいへ座り、ペットボトルを置いてからお弁当袋に手をかける。
「石垣くんとうまくいってる?」
「毎日散々……。朝は家まで迎えに来るし、学校ではぴったりくっついてくるし、夜は電話の嵐。自分のことなんてなに一つできないんだから。それに、みすずの提案をことごとく打ち破られちゃったし」
「アピールが強いね。まぁ、いいんじゃない? それに、あやかも楽しそうだし彼女の貫禄がでてきたじゃん」
「どこがよ。まぁ、余計なことをしなければスムーズにことが進むのがわかったから、これからはなにもしないことにしたよ」
などと話していると、横から「美坂さん」と男子生徒に声をかけられた。
見上げると、そこには梶くんの姿が。
「梶くん。どうしたの?」
「あのさ、少し……」
梶くんがそう喋ってる最中、その横から言葉をかき消すように藍が「おっじゃまっしまーす!」と椅子を持ってきて間に割って入る。
「ちょっとちょっと、藍と一緒に食べるなんて言ってない」
「俺も仲間に混ぜてよ。飯が100倍美味くなるかもしれないよ?」
「ならないっつーの。……あっ、で? 梶くん、私になにか用?」
藍のせいで話は一旦中断されてしまったけど、再び梶くんの方へ。
だが、彼は首を横に振る。
「あ、あぁ……。何でもない」
「そう? 私になにか話があったんじゃ……」
「大した話じゃないよ。じゃ、また」
「うん……」
梶くん、私になにか言いたいことでもあったのかな?
なんて思いながら彼の背中を見ていると、みすずがお弁当をしまい始めた。
「お弁当は二人で食べなよ。私はさやかチームに入れてもらうからさ」
「みすず、わりぃ!」
「えっ! ちょ、ちょっと……みすずったら! 一緒に食べようよぉ〜」
「邪魔者は消えま〜す。じゃあねぇ〜。ごゆっくり〜」
みすずは、私が藍に興味がないことを知りながら二人きりにする。
一応恋人だから藍に気を使ったのかもしれないけど、これが下旬まで続くかと思うと……。
藍は購買で買ってきた焼きそばパンの袋を開きながら口を尖らせる。
「あのさ……。梶に音色変えてんじゃねーよ」
「こっ、これが普通なのっ!! ほら、早くそのパン食べなよ!」
「へーい……」
これがいつも通りの藍なのに、川嶋さんが話しかけてきた時は別人のようだった。
なんか、トゲトゲしいと言うか、話しかけて欲しくなさそうと言うか……。
どんな知り合いだったのかな。
まさか、藍の元カノだったりして……。
まっ、私には関係ないけど!!
「転校生と知り合いなの?」
気にしたくないはずが、自分でも驚くくらい無意識のうちに聞いていた。
期間限定ではあるけど、一応彼氏だから気になるのかな。
「別に気にしなくていいよ。ただの幼なじみだから。俺の推しはあやかだけ」
辛気臭くなってた私とは対照的に、藍は私のお弁当箱の中から唐揚げを奪う。
「あ! また私の唐揚げ取り上げた〜っっ!」
「美味いんだもん。コレ」
「推しの好物を取り上げるな!」
「鶏だけに、鶏揚げるなって?」
「バカバカ。そんなダジャレどうでもいいからっ!!」
二人で言い合っていると、川嶋さんがレジ袋をぶら下げながら私たちの横を通った。
今朝から彼女の様子を見ていたけど、クラスメイトと喋ってる様子はない。
少し人見知りなのかな。
だから、背中に向けて言った。
「川嶋さん!」
「えっ」
「良かったら私たちと一緒にご飯食べない?」
藍の彼女としては不正解かもしれないけど、クラスメイトとしては正解だと思ったから声をかけた。
転校初日に一人ランチはさみしいだろうし。
「いいの?」
「うん、藍と幼なじみでしょ。だったら私も友だちだよ」
「……ありがとう。じゃあ、お邪魔します」
ニコリと返してくれた笑顔に少しホッとした。
でも、隣の問題児は納得がいかないようで……。
「俺はあやかと二人で食べたいんだけど」
「こぉらぁ。川嶋さんは転校初日なんだから緊張してるの! それに、藍の幼なじみならよけい仲良くしてあげなくっちゃね!」
私は「こっちへどうぞ」と、先ほどみすずが座っていた席に手のひらを向けると、川嶋さんは着席する。
「……たしか美坂さんだよね」
「あ、うん。川嶋さんはどこから引っ越してきたの」
「オーストラリア」
「えっ、海外から? 帰国子女なんだぁ」
「そうなの。藍もね、ついこの前までは……」
彼女がそう言いかけた瞬間、藍は机をバシンと叩いて椅子から立ち上がった。
「ひまり。いい加減にしろよ」
「藍……」
「俺、一人で飯食うわ」
「ちょ、ちょっとぉ……」
藍はレジ袋に食べ途中のパンを突っ込んでからその場を離れて行った。
また川嶋さんとは接点を持ちたくないような雰囲気に……。
どうしてだろう。
私に知られたくない過去でもあるのかな。
「もぉ〜……。幼なじみなのにそっけないんだから。もしかして照れてるのかな」
「藍から私たちが幼なじみだってことを聞いたんだ」
「うん。少し気になったから」
「そっか。……ねぇ、私、美坂さんと仲良くしたいな」
「是非ぜひ! 入学してからまだ3ヶ月しか経ってないけど、わからないことがあったらなんでも聞いてね」
藍と川嶋さんの間になにがあったかわからないけど、私が川嶋さんと仲良くなる分にはいいよね。
「ありがと。あのさ、藍とは仲がいいんだね。もしかして、美坂さんは藍の彼女だったりして」
「あー……、うん。まぁ、そんな感じ」
幼なじみだけに本当のことを知ったらドン引きされるだろうね、きっと。
「そっ……、そうなんだ…………。二人は付き合ってるんだね……。ちょっと驚いた」
「付き合い始めたのは最近だけどね」
「そっか……。ねぇ! 私、あやかちゃんたちの恋を応援するよ」
「えっ」
「だって、幸せになって欲しいもん。あっ……、いきなりちゃんづけはまずかったかな?」
「ううん、そんなことない。嬉しいよ」
「私のことも、ひまりって気軽に呼んでね」
「うん。じゃあ、ひまりちゃんで」
彼女と話した感じでは全然普通っぽいのに、藍はどうして素っ気ないんだろう。
私は藍の考えてることがわからないまま他のクラスメイトと同じような感覚で彼女と接した。
「あやかちゃんは普段友達とどんな遊びをするの?」
「カラオケとか、コスメを見に行ったりとかかなぁ。全然普通だよ」
「普通……か。実は私、カラオケに行ったことないんだ」
「そうなんだ。今日みすずと行く予定だから良かったら一緒にどう?」
「えっ、いいの?」
「もちろん大歓迎! 後でみすずに伝えておくね」
この時は、オーストラリアにはカラオケがないのかなぁ〜なんて思う程度で、どうして藍に関わりのある私に近づいてきたのか考えなかった。
話したばかりの相手に恋の応援をするなんて明らかにおかしいのに……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます