冬脈を越えて

紅葉が地に臥した。


こがらしが吹き荒ぶ冬の初めのことだった。


青々と茂った緑葉の

脈を辿って病に染め上げ

赤く変色した生を死に至らしめ、

冬枯れ色の脈だけがそこに残る。


人はそれを冬脈とうみゃくと言った。


冬脈、それは不治の病。


月が流した琥珀色の涙は

いつしか鈍色にびいろの海に流れ着き

高く昇ったはずの陽は西に傾いている


冬脈、それは荒野の薔薇。


神に見放された心臓に、突き刺さる棘のように

真紅に染まるその花は、君の帰りを待つように

ただ一人、その地に立ちすくんでいる。


嗚呼、この死の季節、君は何を想うだろう。

無彩色の荒野を往く、君は何を想うだろう。


白雪が額を掠め、冷たい風が吹いた。

冬脈を撫でる時、そこに小さな蕾を見た。


冬脈、それは再生の沈黙。


色めきすぎたこの世界を凪に還し

肥えた大地に無彩色を与え

薄桃色の未来を待つ希望を与える


冬脈、それは存在の証明。


鈍色の海に佇む生は、海が鈍色なればこそ

無彩色の中に己の色を知り

そこに生の息吹を受けるのだ。


冬脈を越えて、僕は往く。


無彩色の荒野の、その先の晴るを見るために。


(2024 12/9 休養中に撮った写真から)

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忘れじの路紀 心星 文琴 @mikoto_polaris

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