第15話講義②
「さて、鎮まったかな?それでは今日の授業を始めます。今日の授業は魔石生物の能力と盾術についてだ」
霧島は目線を動かして生徒を見回してから、口を開く。
「皆も知っているだろうが、魔石生物は色によって違う能力を持つ。青なら水系、緑なら風系、そして僕のパートナーの様に赤なら火系」
霧島が言い終わると、ドラゴンの口から火炎がメラメラと燃え盛る。生徒が再び歓声を上げた。
「この様にね。しかし、色によって能力は千差万別。同じ赤でも火系だったり、溶岩系だったり爆炎、熱系などと本当に多くの種類がある。緑でも色の濃淡では自然を操る能力もあり得る。風系だとしても、その風は果たしてどんな風を起こすのか。つむじ風の様な風を起こすのか、それとも刃の様な鋭い風を起こすのか。パートナーと訓練してみなければわからないし、新たな発見はいくらでもある。この様な広い訓練施設がこの学校にはあります。せっかくだからどんどん活用して自分とパートナーの能力を自分で発見していって欲しい」
雰囲気に飲まれたのか、生徒は一様に頷いた。
「この学校には自分と似た系統の魔石生物を持った講師がいると思う。だけど良いアドバイスが出来るかはまた別の話だ。土系統の能力が一緒でも、パートナーが犬型の魔石生物と象型の魔石生物だとしたら話が噛み合うことはない。僕ら講師は相談にはいくらでも乗るし助言もする。ネットで似た能力の人を参考にするのも良いし、友人知り合いに相談するのも良い。しかし、その結果は全部自分に返ってくる。君たちはこれから、“魔石狩り”という国家資格を取得するために勉強していくことになるけど、資格を取るも取らないも自分次第。やはり自分の命が大事、パートナーの命が大事だと思うのであれば引く事も大切だ。それは決して恥ずかしがることではない。それを軽んじる様な人間がいるのなら今すぐこの学部を辞めることをお勧めする。命を大事にすることが大事だとわからない人間に、魔石狩りは務まらない」
霧島の静かな重い言葉に、陽太を含め全生徒が黙り傾聴していた。
「だからこそ、この大学で精一杯自分を磨きなさい。ここにはその環境が揃っている。時間の許す限りパートナーと語り合いなさい。ここには有能な講師が揃っている。周りにどんどん相談して自分の力を、パートナーの力を高めていって欲しい」
力強く頷く者、戸惑う者、大きい声で返事をする者がいる中、陽太の緊張はピークに達していた
自分の出番が近いことを陽太は感じていた。
♦︎♢♦︎♢
時間は遡り、一週間ほど前。
霧島にあるのお願いをされた日のことだ。
「たまにあばれ……じゃなくて、運動させないとストレスが溜まるんでね。僕のパートナーの相手をしてくれるかい?」
「「「マジすか!!」」」
少々不穏な事を言った霧島に怪訝な顔をした陽太だが、嵐達が全く違った反応をしたので、陽太は戸惑う。
「受けろよ黒河!こんな機会滅多にないぞ!」
「いや、ちょっと待ってくれ。話が見えないんだけど」
「……もしかして霧島先生のパートナー知らないのか?」
「うん、知らない」
「お前マジか!先生のパートナーはなぁ……!」
ニヤッと笑ってその先を口にしようとしたところを、霧島が遮った。
「あ、ちょっと待って。知らないならそれも良い。むしろ、それが良い。全く初めての相手をどう対処するか、それも良い勉強になるからね。3人とも教えるのは禁止で」
「「「はい」」」
「陽太くんも、僕のことを誰かから聞くのは禁止で」
「わかりました。ですが、相手をするって言うのはどう意味ですか?俺とクロとシロで模擬戦すると言うことですか?」
「いや、来週の授業で盾術を扱う予定だったからね。基本は盾術で対応してもらうが、僕のパートナーはそこそこ強いんだ。クロくんか、シロくんどちらか一体を選んで貰って戦ってもらおうかな。どちらを選ぶかもその時に考えるといい」
「盾術、ですか……」
正直に言えば、陽太は盾術はそんなに自信はない。
と言うのも練習できる環境が陽太にはなかったからだ。
命を守る盾術は、中学生からの体育の授業の一環の一つで、それこそ授業内ではそれなり以上の成績を残したが、プロの目線から言わせれば生温いだろう。
“タイミングゲーム”と言わしめる盾術だが、ゲーム感覚で何となく出来るだけで、実戦ではそう上手くいくはずもない。
特待生が決まってからは、家族のパートナーの魔石生物で訓練はしていたが、その程度の経験しかなく、人前に見せるレベルの腕前ではないと陽太は思っていた。
「陽太くんはこれから盾術の訓練が必須になってくる。少しでも経験は積んだほうがいい。それに、丁度いい訓練相手がいることだしね」
そう言って霧島は銀河を見た。
「俺の出番だな?」
霧島に促された銀河は、キラッと歯を輝かせて笑ってみせた。
♦︎♢♦︎♢
「魔石生物の訓練。そしてそれに加えて、これからの君達に必要な技術のうちの一つが“盾術”だ」
霧島は自身の身体を半分も隠す程の大きい盾を持っている。
細長い楕円形で、無骨な銀色の盾だ。
「中学生から盾術を教えることは義務教育の一環になっているから、少なくとも最低限以上の経験はしてると思う。人間の攻撃は魔石生物には当たりはしない。当たっても効果がない。銃器など使用した場合、真っ先に人間が狙われる。“死の十日間”において爆発物や、ミサイル、戦車、様々な最新鋭の兵器が用いれられ、そしてその
霧島はその大きな盾を片手でコンコンと叩いた。
「次に人間は旧来の武器を取る。剣や槍、槌や棍棒など、それこそ人類が使ってきた武器をほとんど使用した。そしてまた多くの人間が死んだ」
そう言った後、霧島は少し黙る。
「そしてようやく思い知る。人間では敵う相手ではないことを。多くの犠牲者を出してやっと出せた答えだった。そして産まれたのが盾術。命を奪う手段ではなく、命を守る手段。パートナーと共に前線で戦う人間の新しい技術だ」
霧島がドラゴンを撫でる。
満更でもない顔で、ドラゴンは目を細めた。
「攻撃はパートナーに任せ、人間は指示を出したり、相手の注意を引いたり、命を守ることに集中する。これが結局1番の戦果を産み、主流になっていった」
もちろん例外もあるが、と一言霧島は付け加えた。
霧島は目の前の生徒にボールを渡し、盾を前に構える。 その半身は見えなくなり、その盾の大きさがよりよくわかる。
「基本盾術は、AIの指示通りに動かすことを教えられてきたと思う。AIが相手の動きを予測し、構える位置、構え方、どう対応すればいいかを教えてくれる。人間はそれに合わせて動くだけでいい。これが現代の盾術の基本概念だ。さぁ、投げてみてくれ。思いっきりね」
その生徒が振りかぶって投げると、霧島は自分では見えないはずなのに、しっかりとその盾の中心に捕らえた。それどころか、勢いを綺麗に殺して受けたため、ボールは霧島の目の前に軽く跳ねてそのまま止まった。
「このように例え前を見ずに構えても、盾は透けて見える。
その言葉に応えるように、ドラゴンはその鋭い爪を振りかぶって降ろした。
ブォンと音が鳴り、軽い風圧が起きるほどその攻撃は重く早かった。
「今の攻撃を盾術アプリを起動したら男性なら受け流せ、女性なら躱せと言われるだろう。まともに受ければそれだけで怪我もしてしまう。咄嗟に反応出来るか、それが人間に求められる。決断力、状況判断力、経験、その多くを求められる。練習ですら上手くできないのなら、本番では上手くいきようがない。このことから“魔石狩り”の資格を取るに当たって重要視される技術の一つだというのはわかってもらえたと思う」
こほんと一つ咳払いをし、霧島は切り出した。
「そして、今からこの子と戦ってもらおうと思います」
ざわっと生徒がざわめいた。
「それじゃあ特待生の黒河くん。お願いできるかな?」
「…はい」
少々強張った声で返事をした陽太が、前に歩き出そうとする。
ふと視線を感じ、横をみると嵐達が無言で拳を出していた。
それを見て、陽太は緊張が和らぎ少し微笑む。
そうだ。今日この日のために、この三人は夜遅くまで付き合ってくれた。陽太の練習に長時間もの間、文句も言わずに。
励ましてもらったり、煽られたり、応援してもらったり。
特に銀河は、パートナーが無機物種の人型で3メートル近い大きなゴーレムタイプだったので、模擬戦相手に都合が良く一番負担をかけた。お世話になった。
この三人に不甲斐ないところは見せられない。
だから陽太は三人に向かって不敵に笑ってみせた。
釣られて三人もニヤッと笑う。
陽太は歩きながら三人のそれぞれの拳にコンコンコンと、拳を合わせて前に出た。
声をかける必要はない。
後は結果で語るだけだ。
中心に出ると、ざわついた生徒達が、陽太を見て何かを言っている。貶すような、呆れるような、そんな雰囲気を感じる。
しかし、そこに心が揺らぐことはない。
陽太は今、自信を持ってここに立っている。
特待生として、見本となる技術を持っていると自負している。
これは霧島がくれた陽太の名誉挽回のチャンス。
霧島は陽太のためとは言わず、自分の授業のためだと言ったが、どう考えても、霧島がくれた汚名返上の場だ。
そしてそれは後ろにいる3人のためでもある。陽太がこの状況をうまく乗り切れば、3人の罪悪感も少しはおさまるだろう。
それに、こんなチャンスを貰ってそれを掴めないのであれば、今後陽太は何も為すことは出来ないだろう。
緊張はしている。
口の中が渇いていくのがわかる。
しかしそれ以上に。
自分の力を、仲間の力を試してみたい。そんな気持ちの方がはるかに強かった。
霧島が陽太を真っ直ぐ見る。
そんな霧島を、陽太も真っ直ぐ見つめ返した。
「やる以上、容赦はしない子だ。やれることを全力でやりなさい」
「…はい!」
霧島から盾を受け取り、陽太はドラゴンの前に立つ。
「今から黒河くんにこの子と戦ってもらう。が、一応実戦形式でパートナーを
霧島が淡々とルールを語っていく。
「行くぞ、シロ」
陽太がそう呟くと、陽太のペンダントの青白い魔石が輝き、その姿を梟に変える。
バサバサと羽ばたき、そのまま陽太の頭上を旋回する。
「それじゃあ始めるよ、黒河くん。さぁ、暴れておいで、レグ」
そう呼ばれたドラゴンはけたたましい雄叫びをあげ、陽太に襲いかかってきた。
陽太の闘いが始まった。
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『唯一種』
この世界で、ただ一体しか存在を確認されていない魔石生物。
文字通り、オンリーワン。
世界で100種ほど確認されているが、どの魔石生物も強力な能力や身体能力を持つ。
貴重な魔石生物のため本人の意思と関係なく、その多くは“魔石狩り”になることを余儀なくされる。
運が良いのか、果たして悪いのか。
それは本人達にしか知る余地はない。
参考文献
この広い世界で
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