第14話花の大学生活酒池肉林満開計画もしくはほとぼりが冷めるまでは透明人間計画
「と、言うわけよ!」
スキンヘッドの怖いツラをした男が、話の締め括りのそう言い放ちドヤ顔を決めた。
陽太は終始その話を笑みを絶やさず、たまに相槌を打ちながら話を聞いていたが、話を聞き終わった結果、思ったことがある。
――話が違う!!
何で!?
すごい優秀な人達かと思って蓋を開けてみれば、ただの阿呆じゃないか!
しかも長いこと話してたけど、さっきと同じことの焼き直しをしようとしてるだけじゃないか!
俺の尊敬の念を返してくれ!
と思いつつも、同意したらより面倒くさい未来が見えるため、どう断ろうかと思案していると、横の二人がやれやれと首をすくめてスキンヘッドに苦言を呈した。
「だからさ、そんなサクセンじゃダメだって言ったろ?」
「もう少し客観的な視点で考えろよな?」
と、まともな事を言い始めた二人に陽太は心底ホッとした。
「そのルックスを活かした『花の大学生活酒池肉林満開計画』がいいにキマってるだろ!いい加減にしろ!」
「お前らは本当に馬鹿だな?『ほとぼりが冷めるまでは透明人間計画』が妥当。そうだろ?」
お前ら本当に馬鹿の集まりじゃないか!
嘘つき!
俺の純真な心を返せ!
バーカ!バーカ!
陽太は微笑みながら、心の中で叫んだ。
「やれやれ呆れるぜ全く。お前らはホントバカだよな。俺の計画が一番まともなのによぉ。ま、ここは黒河に決めて貰おうぜ。誰がいいかなんて言わずもがな、だけどな」
チラッとドヤ顔をかましてきたスキンヘッドに、流石の陽太の我慢は限界を迎えた。
「ちょっといい加減にしてくれ!」
テーブルをバンっと叩き立ち上がった陽太に、3人組はビクッとなった後、まぁまぁ落ち着けよみたいな顔で陽太を見つめて来た。
「おいおい、まぁ落ち着けよ。確かにどれも魅力的な作戦かもしれないが、選ぶ権利はあんたにあるんだ」
「そうそう。あんまアツくなんなって」
「まぁわざわざ選ぶ必要もないがな?」
陽太が熱くなったところで、まるで自分たちの方が大人な対応をとっているかのように振る舞う態度に、陽太の我慢はとうとう臨界点を超えた。
普段なら耐えられたところだが、最近の陽太は嬉しい事、悲しい事の感情の波の落差が酷く、そのため感情的になりやすかった。
情緒不安定だったとも言っていい。
基本的に感情を表に出さないように気をつけている陽太も、この対応にはもうエンジンフルスロットルである。
感情のブレーキを踏むのをやめ、エンジンをベタ踏だ。
まあ、わかりやすく言えば。
陽太は昨日に引き続きキレた。
「お前らの作戦のどこが完璧なんだよ!ただのさっきの作戦の焼き直しのマッチポンプだろうが!このスキンヘッド野郎が!」
「え?あ、あの……はい……すみません」
「そこの金髪!お前の作戦は話聞かなくても碌でもない作戦だと言うことが見え透いて分かるわ!」
「イヤ、でも」
「うるせぇ!口答えすんなっ」
「はい!!サーセン!」
「そんでそこのデブ!お前のが一番酷いぞ!つまりはただの現状維持だろうが!作戦でもなんでもねぇぞ!よくそんなドヤ顔出来たなぁ?あぁ!?」
「はい!すんませんしたっ!」
「俺は返答を求めてんだ!訳もなく謝ってんじゃねぇぞ!」
「え、理不尽だな?」
「揃いも揃ってしょうもない作戦立てやがって!…だが、さっきのは良かった!生徒が集まりやすい時間帯を選び、謝罪アピールをしてイメージを変えた!その後の淡墨さん呼んだのも含めてとてもいい作戦だった!誰の作戦だったんだ?」
「「「淡墨さんです!!」」」
「お前らなんもしてねぇじゃねぇか!!ふざけんな!!」
久しぶりに、クロとシロ以外に感情的になった陽太は、そのままガソリンが尽きるまで加速し続けたのであった。
♦︎♢♦︎♢
「以上だ」
「「「はい!ご指導ありがとうございました!」」」
割と早めに冷静さは取り戻した陽太だが、構うものかと約1時間もの間喋り倒した結果、いつの間にか従順な3人組がそこにはいた。
というか、慕われていた。
陽太は基本人間関係を作る際、猫を被る。
それは陽太の処世術であり、周囲の反感をなるべく買わないように生きてきたためだ。
自分の立場のバランスを保つために陽太が出した一つが、『優等生』である事だ。
優秀であれば、結果を出せば、魅力的であれば学校という狭い環境はなんとかなる。
しかし一度そのバランスが崩れれば、幼い日のように居場所がなくなり、毎日が地獄に変化する。
簡単に。
あっという間に。
しかし大学生という環境は、学校という枠から社会を意識する枠に変化する。
大人になる。
だから陽太はそこまで猫を被るつもりもなかった。
同時に、こんなキレるつもりもなかった。
どうしてこうなったのか。
目の前の頭を下げる3人を見て、陽太は頭を抱えた。
「いや、でもすげぇな、
「オレも思った。特待生に選ばれるイミ、よくわかった。実力だけじゃなかったんだな、
「全く、こんな若い
「とりあえず、その
強要したわけでも無いのにいつの間にか先生呼ばわりされた事で、陽太は居心地が悪かった。
しかし同時に、居心地も良いとも感じていた。
学校という狭い環境において、ここまで感情を露わにしたのは初めてだ。だからこそ、彼らには何一つ隠す事なく、猫を被る事なく、素の黒河陽太でいることが出来る。
それは陽太にとってとても楽だった。
「普通に名前で呼んでくれよ。それでさ、計画とかもうそういうのどうでもいいから、君たちの名前を聞かせてくれない?」
陽太は少々照れ臭くなり、頬をかきながら言った。
「それで、友達になってくれないかな?」
3人はキョトンとした顔をした後、笑って応えた。
「ダチなら遠慮はいらねぇな。俺は巻尾嵐だ!」
スキンヘッドが応える。
「オレは熊谷鳴矢!ヨロシクな!」
小さなチャラ男が笑顔で言う。
「俺は笹野銀河。忘れんなよな?」
太った男が、不敵にニンマリと笑ってそう言った。
陽太も同じように笑って言った。
「では改めまして、黒川陽太です。特待生の枠は土下座で奪い取りました!」
そう言うと笑いが起こった。
陽太も笑った。
大学で友達が出来た瞬間だった。
その後、意気投合した3人を連れて訓練室に向かい、クロとシロの能力確認にを手伝ってもらうことになったが、シロはそうでもなかったが、クロは3人を威嚇しまくっていたため、厳つい3人がクロにビビりまくっていた。
陽太はそれが妙に面白かった。
途中で合流した霧島が、4人が楽しそう(クロにビビって陽太を先生呼びに戻っている)にしているのを見て、感極まっていた。
しばらく陽太達の様子を見ていた霧島が、ふとしばらく思案した後陽太に言った。
「陽太くん、次の授業で僕の
♦︎♢♦︎♢
この大学の授業は、専門的な授業が多い。
授業の内容は“魔石狩り”と言う資格を取るために必要な授業、プロとしての心構えや盾術と、多岐に渡る。
その中で霧島が担当してるのは何かというと、総合科目だ。
特に縛りはなく、何をやっても良いし何かを教えなければならないというものがない。
一括りに魔石生物と言っても、その種別や能力は千差万別。
つまり、平等に教えると言うことは無理に近い。
力のあるもの、能力に特化したもの、多種多様に魔石生物はいるので当然だ。
そのため魔石生物学部は、大学の中の一つの学部となっているが、内容は専門学校に近い。
専門学校にほぼほぼ近いが、自分が習いたいもの、必要な教科を自分で履修登録をする形式を採用している。
受講内容は、魔石生物学関連から戦闘分野までと本当に幅広く、真面目な生徒は週6で受講している。
しかしそれが良いかは別で、最低単位数さえあれば卒業は出来る。自分に必要な、または興味のある授業を受け、未来の自分に繋げるための場所。
生かすも殺すも自分次第。
自由であり、そしてその結果も全て自己責任。
周囲の環境や人間に振り回されてきた陽太にとって、それはとてもやりやすい場所だった。
大学とは自由であり、その選択には未来がついて回ることを言外に教えてくれる場所だ。
必須科目はもちろんある。
そしてそのうちの一つが霧島の授業だ。
霧島の授業は人気があるのは元々プロで活躍していたから、と言うのもある。
実際はプロではないが、
しかし、有名なのは事実である。
“ナナシ”の英雄としてではなく、ある一点において、霧島は超の字がつくほど有名だ。
霧島の授業は、総合部門の名の通り満遍なく教えていく。
魔石生物の歴史、敵対魔石生物との闘い方、進化論などなんでもやる。
この学部の生徒のほとんどは熱心に聞く生徒の方が多い。
それは当然の話で、命をかける仕事だからだ。
しかし中にはファッション感覚や、簡単にお金が稼げるからという不純な理由でこの学部を選ぶ人間も少なからずいる。
不純な動機が悪いわけではない。しかしそこには熱意や本気度による圧倒的な差がある。
ちなみに。
陽太は後者である。
もちろん、本気度が他者を圧倒してはいるが。
そんなタイプの人間は、大学を辞めるか、もしくは魔石狩りになれたとしても早々に命を落とす。
それを少なからず減らすのが、霧島の仕事でもあった。
話を聞いてもらい、理解してもらう。
それは至極単純で、至極難しい。
人間とは楽な方に流れやすい。
友人と楽しくおしゃべりしていた方が楽しい。
ゲームをしていた方が楽しい。
好きな人と一緒にいる方が楽しい。
当たり前の感情であり、致命傷な理論。
この学部に所属する意味を、楽な方に流れて見失ってしまうものは普通にいる。
それは日本だけでなく世界中にどこにでもいる。
それが命を賭す職業であっても、やる気のない人間にはいくら言ったところで届かないし、響かない。
しかしインパクトのある授業なら。
興味のある授業なら。
人気のある講師の話なら。
人間は熱心に耳を傾けて、話を聞く。
その心に響き届く。
それは今、陽太の前で起きている授業が証明している。
そう霧島の授業が人気な理由は、以上の全てを網羅しているからに他ならない。
生徒が興奮し、声を上げている。
それは無理もない。
陽太も同じで、目を輝かせて今目の前にいる魔石生物を見つめていた。
歓声が止まない中、霧島が人差し立てて指を口に当てると、波が引くように全員押し黙った。
しかし、興奮は収まっているわけではない。
霧島に、その隣にいるパートナーの動きに、ここにいる全生徒が注目していた。
それは赤い鱗を持った生物だった。
ワニの様な口と牙を持ち、頭上には成人男性の腕と同じくらいの大きさの角が生えている。
前足の4本の指からは鋭い爪が、後ろ足は前脚よりも太くガッシリしていて、その頑強で重鈍そうな肉体を支えている。
その尾も太く、軽く振るだけで大の男が吹き飛ぶことが容易に想像出来る。
背中には大きな羽付いていて、コウモリの様な飛膜の羽は羽ばたくだけで風を起こした。
その生物の体高は3メートル近くもあり、見るものを圧倒させる。
しかし学生達は、圧倒されながらも興奮していた。
目の前にいる生物は、人間が物語の中で想像していた生物。
その名はドラゴン。
霧島が最強とうたわれる所以である。
陽太は今目の前にいる幻想的な生物に、興奮を隠せなかった。
物語上にしかいなかった存在に、心が震えた。
しかし興奮冷めやらぬ頭は、ある事を思い出し陽太を戦慄させる。
――え、俺今からこの化け物と戦うの?
_________________________________
『魔石生物の形態変化』
ポストアポカリプス前の人類曰く、魔石生物とはかっこいいと可愛いを兼ね備えた完璧の存在である。
というのも、赤ちゃんに近い愛らしさを見せてくれる『赤子モード』と、成長した格好良さを見せてくれる『進化モード』。
こんな姿を見せてくれる生物は、当然いなかった。
赤子から成長して、そして老生する。
それが生物の基本だ。
しかし魔石生物は、それを見せてくれる。
「そんなもん、可愛くて仕方なくない?愛さざるを得なくない?」
とは、有名な『魔石狩り』のセリフだ。
可愛くて、格好良くて、強い。
そんな完璧な生物が、私達の新しい家族。
どうか、カタストロフィ前のペットと比べないで。
今私達の隣にいるのは、新しい家族です。
昔の家族に、想いを馳せるのは構わない。
しかし、それを比べ、魔石生物に当たるのなら、私は許さない。
魔石生物は賢い。そして情が深い。
それに甘えるのなら、然るべき措置を受けてもらいます。
どうぞ、新しい家族と手を取り、生きていきましょう。
参考文献
『筧誠』の新時代の過ごし方
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます