第20話 枝豆チーズ

 初夏です。

 何時迄も続くような長雨の季節が過ぎると眩しいくらいの日差しと汗ばむ暑さがやって来た。

 学園の制服は夏物に変わり、晴れた天候と長期休みに浮かれた雰囲気でアデルハイド的には居心地が悪い。

 フェリクスにしてもそうだが、前世年齢が三十路前だったせいもあって周りがどうしても子供に見える。

 そんな子どもたちのはしゃぎ様はアデルハイドには少し、いやかなりついて行けない。

 何故だかよくわからないエネルギーを使ってしまった気持ちで疲れ切ったアデルハイドが居酒屋「花結び」の裏口を開いた。


 「夏の定番メニューを作りましょう」

 ポンと手を打ってアデルハイドが言えば、既に店内の掃除を終え課題を広げているアリッサが「新メニュー!素敵ですね!」と顔を上げた。

 「アリッサは課題をしなさい、期末の学力テスト落としたら暫く店に立たせないからね」

 「ええ?そんな……」

 「落とさなければ良いのよ」

 ガックリと項垂れているがアリッサは成績も優秀なほうでアデルハイドも心底からは心配していない。

 「さて、夏と言えば枝豆よね」

 塩茹では当然として、塩バターガーリックで茹でた後炒めたものはお通しに良いだろう、でももう一手間見栄えと食欲と酒の進む一品をとアデルハイドは袖を捲った。

 

 先ずはニンニクをスライスして油でカリカリになるまで素揚げしておく、油はキッチリと落とす様にしておけばカリカリのまま使える。

 このまま使うのも良いし砕いてパウダーにしても使い勝手がいい。

 フライパンにチーズを平らに敷き詰め、その上に茹でて剥いた枝豆を散らしフライドガーリックを乗せていく。

 塩胡椒をサッと振りかけフライパンに火を入れチーズの周囲が沸々とし出したら中火にしてチーズがカリッとするまで焼いていく。

 焼きすぎると焦げるので加減が難しい。

 縁からフライ返しをぐるりと回してフライパンから剥がし火を止める。

 皿に乗せて添えるソースはトマトをざく切りにしオリーブ油と塩胡椒、パセリを微塵切りにし混ぜ合わせたものだ。


 「へえ、夏メニューかぁじゃあこの枝豆チーズを頂こうか」

 そう言うのは騎士団長だ、連れて来られたのは学園でも顔をよく合わせる騎士団長の子息。

 目を白黒させながらカウンターの内側で接客しながら調理するアデルハイドを見ている、カウンターに座るフェリクスが何度か咳払いをするとそれに気づいたらしい騎士団長子息がヒュッと息を飲んだ。

 それを気にせず、枝豆チーズを出す。

 「枝豆ならやっぱりビールだろうか」

 ビールをアリッサに注文して出された焼き立ての枝豆チーズをパキッと良い音を立てて齧る。

 「これは旨いな、チーズのミルキーさと焼いた香ばしさに塩気が丁度良い、ホクホクとした枝豆にガーリックがピリッとして、ビールが進むぞ、ほら遠慮するなお前も飲め」

 そう言われた子息が目を瞑りビールを飲んで枝豆チーズに手を伸ばす。

 「え?美味しい、パリッとした食感だけじゃなく枝豆のホクリとした歯触り、それにこのトマトのソースの爽やかな酸味が絶妙じゃないか」

 キラキラと目を輝かせるのをチラッと見てアデルハイドが小さく笑った。

 「学園とは随分雰囲気が違うのですね」

 ポソリと言われてアデルハイドは首を傾げる、学園では誰と話すこともなく必要な話しかしない。

 「そう、でしょうか?」

 「ええ、少し驚きました」

 笑えるんだ、とかなんとか聞こえるが、楽しけりゃそりゃあ笑うでしょと思っても口に出さず扇子を口元に当てて微笑むだけに留めた。

 そんなアデルハイドを見て頬を赤らめた子息にフェリクスの咳払いが再び襲いかかった。

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