第17話 西京焼きと鴨ロースト
特殊な注文が入ってしまったと頭を抱えたアデルハイドが珍しく頬を膨らませる。
「王妃陛下のお願いなら聞かないわけにいかないじゃない」
はぁと大きな溜息を吐いて、紙を出してデザインを描き起こしていく。
正方形の箱にマス目を全部で八個作るように仕切りを入れるデザインの内側を赤に外側を黒にと色指定を入れる。
金で蓋になる部分や側面に装飾を施すように書き足し、それを商会へ使いを出して持たせた。
数日後、出来上がった器を並べてアデルハイドは襷掛けをして腕捲りをしていた。
「先ずは玉子焼きね、今回は甘めにしましょう」
だし巻きとは違う甘めの玉子焼きは普段特別に言われない限り店では出していない。
今回は王宮でのアフタヌーンパーティー、花を冠する国らしくお花見のために開かれるパーティー。
今までは立食でワインやシャンパンに申し訳程度の軽食以外は甘いデザート類が置かれていたらしい。
「女性もお酒と食事を楽しめたら素敵でしょう?」と王妃陛下が発案した今回のパーティーは座って咲き始めの紫陽花を愛でながら酒と肴を楽しめるものにしたい、その肴をアデルハイドにお願いされたのだ。
甘い厚焼き玉子になった玉子焼きを冷ましてから仕切りのついた箱に詰める。
「メインの魚には西京焼きを入れるわ」
白味噌をベースにした味噌床を使って三日ほど漬け込んだサワラを取り出した。
味噌床は白味噌に酒と酒粕を混ぜた優しい甘さになるように作ってある。 切り身にして漬けておいたサワラを取り出し、余分な味噌を乾いた布巾で丁寧に拭き取ると一口大に切り分けオーブンで焼いていく。
味噌が残ると黒く焦げてしまう、折角の白い身の色を活かしたいとアデルハイドは添える茗荷を切り出した。
焼き上がり冷ましたサワラを仕切りのついた箱に盛る、サワラの上には刻んだ茗荷と白髪ネギを乗せた。
次に取り出したのは下処理を終えた鴨肉。
皮面には切れ込みを入れて身が反り返るのを防ぐ。
粗塩にローズマリーなどのハーブ、胡椒にすりおろしたニンニクを擦り込むように鴨肉に塗り一時間ほど寝かせて熱したフライパンに皮から焼いていく。
こんがりと焼き目が付くように両面を焼いて、白ワインと醤油を少し加える。
全体的に和食寄りになりそうなため、敢えて今回は白ワインでサッパリと貴族夫人が馴染みやすい味にした。
弱火から中火で蓋をしてコトコトと火を通したら蓋を開かずに火から下ろして熱を冷ます。
その間に玉ねぎをふんだんに使ったソースを作る。
玉ねぎをすりおろし鴨肉とは別のフライパンに入れ白ワインと醤油で味付けしたソースを煮詰める。
切った鴨肉にソースをかけ上にすりおろした山葵を添えた。
後はリクエストのあったしぐれ煮や箸休めになる漬物など全部で八品を詰めて弁当が完成した。
「仕出し弁当みたいね、ご飯は入ってないけど」
そう言いながら、受け取りに来た下働きに渡すとアデルハイドはやれやれと肩を窄めた。
概ね好評だったと後々王妃陛下から感想をもらった。
甘い玉ねぎのソースと鴨肉が山葵の刺激で食べやすく酒が進んだと聞いてアデルハイドは笑みを浮かべた。
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