第5話 炎姫さまの、傾向と対策


翌日、天宮第一学園、第三シミュレーションアリーナ


ワアアア、

規模は一番小さなアリーナだが、観客は満杯だ。

ガヤガヤと、期待と好奇心を膨らませる生徒たち。

アリーナの映像エリアは若干狭い。それでも、80×80と十分だ。エンタメな学校である。


設定される電影のフィールドは渓谷。

周りを深緑に覆われた、広い川辺にゴツゴツとした、奇岩があちこちに並び、

美しい渓流が、間を縫っていく。

観客に心地よい風させ錯覚させる、超解像度の立体映像だ。


その岸辺に現れる、三つの影。

白衣の少年。ポニテの少女。そして茶髪のメガネだ。

「なんだろ〜ね。」

ブツブツとしん。

澄んだ渓流には、ヤマメやアユが泳いでいる。そんな物まで演算する意味があるのだろうか。

ノンビリとキャンプでもできたら、どんなにか、いいだろう。

フィールドに表現される彼らには、水辺を渡る、涼しい風も。深緑の香りも実際に堪能できる。


昨日のあらたとの、取り引きだ。

「君たち、三人でバトルゲームをやってもらう。我々の指定する相手に、勝てたら、

僕の一存で罪の軽減を約束しよう。」


「な、、、、無茶ですわ。」

あせる、副会長。

「いいんだ、瀬里奈君。能力第一主義はこの街のモットー。

チャンスは誰にでもあるんだよ。」

おおよそ、似合わない理想を語るヒョロ長ノッポ



「相手は、、、、?」

息を飲むしん。こちらは、多分、もう受けるしかない。


だが、そして、悪魔は大概、二枚舌だ。


「もちろん、学園最強。野川那智くんだよ。」


ワアアア!

場内のボルテージが一気に膨れ上がる。


上流、巨大な岩の上に現れる少女。ブラウンのフワリとしたセミロング。

第一学園、上位5本の指に入るだろう、美少女。

炎熱系アジア最強を謳われる炎姫。

野川那智。


「ど、どどどどど、ど〜〜しょうって!なんだよコレ!

どうにかなるわけね〜〜だろ〜〜!」

パニックを起こす友樹。まあ、仕方ない反応だ。

「友樹!」

両肩を掴んで前後にシェイクする。

「作戦は、話した通りだ!この作戦は一重にお前の、活躍にかかっている!」

もちろん、ウソだ。

アウアウうなずく茶髪メガネ。

「未来は君の双肩にかかっている!頼むぞ!友よ!」

ウソだけど。

「お、、、、おう!」

フラフラと岩場に、回り込んでいく茶髪メガネ。


何か、ジト、とした視線を、地味子さんから感じる。

どうしたのか、昨日から様子がおかしい。


「なんだよ。言いたい事あるなら、言っとけよ。」

ウチの最大戦力がこんな事では、まずいのだ。

「学園で会うのは、最後かもしんねーんだぞ!」


「なにが偉そうに、、、、」

ボソリとつぶやく少女。

「変態!変態!変態ーーー!」

「うえ、、、」

突如、カンシャクを破裂させる、しずく。

「あんなに、一杯、一杯、女の子のデータ!なのに、なのに、なんで一枚も、

私の写真、無いの!!」

「はあ?」

何を怒っているのか、さっぱり分からない。

彼女にこんなに、叱責されるのは、初めてかもしれない。


データに無い?

多分、しずくがパソコンで見たのは、商品ホルダーにあった、女の子データだろう。


「別ホルダーにあるぞ、いくらでも。」


商品化するには、イマイチの地味子さんだ。階層の深いとこに個人データとして、保存してある。ポートレートから、R指定まで。


ボン、

と音が聞こえるくらいに、真っ赤になる少女。

「変態ぃいい!変態!変態いいいーーー!!!」

今度は、両手を振り回して叩いて来る。


わけが分からんが、そろそろ、遊んでる場合じゃない。

「おーちーつけ〜〜〜!そろそろだぞ!」

両手を掴んで、引き寄せる。

さらに蒸気する少女。


「う〜〜〜!わかったよ!は、離して!」


「ああん、、、」

巨岩の上でヤサグレている那智。なにイチャコラしてやがる。あの二人。

瞬殺を決意する。


現在 日本時間13:30


同時刻アメリカ、深夜00:30

マサチューセッツ州、USAアルカ、エアズホウル高、女子寮。


若アユのような、滑らかな肌に水滴が弾ける。絹のような、金髪が肩にかかる。

バスルームから、頭を拭きながら出て来る少女。

身長は175、スタイルバツグン。金髪、碧眼、眩い、躍動するエネルギーを放つ美少女。

炎熱系AAA、アリコ マーレイ16歳だ。


「ヘイ、アリコ。例の子、また、ゲームやるみたいよ。」

シットリとした長い黒髪の少女がディスクのモニターを指す。


「ジャパニーズだっけ。後で見るよ。」

眠そうにあくびする、アリコ。

「いいから、見ときなさい。なんでも、勉強よ。」

柳眉を逆立てるルームメイト。


「ハイハイ。トバリはマジメだね。」

ルームメイトに抱きつくように、モニターを覗き込む少女。

パッと、花のようなシャンプーの香りが鼻腔をくすぐる。


「も、もう!まず服着て!」

真っ赤になっている、トバリ。からかいがいがある、子だ。

「ハイハイ。」

笑うアリコ。


同時刻ロンドン早朝05:30、U EKアルカ、郊外、放牧場。

暖かな朝靄の光の中、

美しい純白の白馬がゆっくりと歩む。

操るのは、長い黄金の髪を後ろで結った、地上に比類する者など、なさそうな、美少女だ。

輝く絵画のような、美しさである。

彼女は欧州、最強の名を欲しいままにする、姫騎士。ランシィフォンドリック。16歳。


飼育小屋のそばに、手を振る人影を見つけて、馬を寄せる。

「ランシィさまーーー!」

千切れるように手を振っている。


人馬一体。見惚れるような、手綱さばきをみせる。


「どうした。メリッサ。」

巧みに馬を操りながら、少女がたずねる。

「ジャパンのAAAがシミュレーションをやるようです!」

弾むように応えるメリッサ。


「そうか。ありがとう。朝食を取りながら、一緒に観ようか。」

そう言いながら、白馬を優しくねぎらう、ランシィ。

神話の1シーンのようである。

「は、はい!」

光栄で死にそうな少女。

「能力後進国の能力者なんて、たかが知れてますけど!」

これは至極一般的な海外の反応だ。


「そうではないよ。メリッサ。アダムのAAA判定は本物だ。軽視してはいけない。」


優しく諭すランシィ。実際そのレベルは彼女を含め、世界に20人いるかどうかだ。

しかし、その実、同じAAAでも、彼女は別格とされているのだが。


反省し恐縮しまくるメリッサ。柔らかい笑顔のランシィ。


同刻、天宮第一学園、生徒会室

ホワイトボードの液晶が、第三アリーナの様子をうつしだしている。


「そんなに、みず希さんを、引っ張り出したかったんですか?会長。」

会議テーブルに座る瀬里奈がたずねる。

彼女の後方には、影のように葵が立っている。

風祭と凪は、臨時で風紀委員の方に、行ってもらっている。あちらは、リーダー2人が停学中だ。


「かなり無理がありますわ。このマッチングは。」

続ける瀬里奈。


同じく、映像を見ながら、あらた。

「それでもさ、彼女の正体がわかれば、すごい事だよ。」

もしそうなら、彼女も彼の計画の障害になるかもしれない。ほんの少しでも。

「、、、、、」

能面のような、表情がほんの少し、動いたような気がする。


ゴソゴソと片耳にヘッドセットつける。電話だろうか。小声で会話している。

めずらしいことだ。会長にも友人がいたのだろうか。と、失礼な事を考える、瀬里奈。


『教えてくれて、ありがとう。あらた。やはり、ゲームは生で観戦しないとな。』

携帯の声が、妙に饒舌だ。

「飲んでますね。ジノ。まだ、昼間ですよ。」

ヒソヒソとなじる、あらた。


同時刻、スプロール スラム、ブルーラグーン

客のいない酒場で黒いハゲが、飲んだくれている。ジノ フィッシャーだ。今日は黒ジャケット姿だ。隣には赤いパンツルックのエイダもいる。

以前、那智のゲームを見逃したと、散々文句を言うので、教えておいたのだが。


「下で、昼間も夜も無いだろう。あらた。HA HA HA。」

以外と絡み酒のようだ。

酒場の隅に設置してある、小型モニターが第三アリーナの配信映像を映し出す。

以外と高画質だ。

観戦者は、他にはカウンターの中で作業している、女主人、アルマだけ。


エイダも結構楽しそうにしている。Aクラスの戦闘はなんだかんだ言っても貴重なのだ。

「がんばれ。なっちゃ〜〜〜ん!」


アルマは黙々と作業している。この二人が気に入らないのだろう。


第三アリーナ。


ペロリと人差し指を舐めて、立ててみる。


中々の気象条件だ。水辺で湿度のある状況を選らばせてもらっただけはある。

みず希しずくにとって、状況は若干だが、有利になる。

「行くぞ!」

彼女の手を掴み、己が唯一の力。能力増幅をかける。

Dクラスの 彼女の水流操作が、気象条件込みでCクラスに上昇。か細い勝利への可能性が

さらに、少し上昇する。


「は、はい!」

バシャバシャと後方の川に入っていく、しずく。


そして、戦端は唐突に開かれた。


「決着だ!しん!」

岩上の少女が叫ぶ。


「来いよ。相手になってやる、」

どこかの、カンフーマスターのように、

手のひらを前に、クイクイと挑発する。


多分、彼女が本気を出した場合、この戦いは、一瞬で簡単に、こちらの敗北で終わるだろう。

オレがC。みず希がD。友樹に至っては正体不明のEクラス。

元々、勝負は成立すらしていない。


成り立たせるなら、野川那智の特質を、最大限、利用しなければならない。


「肉弾戦?いいけどさ!」

岩上から、一直線に少年に飛翔する那智。

驚嘆すべき、瞬発力だ。足場の巨岩が砕け散る。


そう、彼女は相手に合わせて戦う傾向がある。別に相手を軽視しているのではない。

単に、付き合いがいいのだ。

瀬里奈に言わせれば、お人好しだが。


彼女のバトルに人気があるのはそのせいだろう。一方的ではなく、戦いに起伏が生まれる。

スター性があると言えばそうだが。

つまりは、甘さ、油断だ。

彼女が全力を使う前、その、ほんの少しのスキマを突くしか勝利はない。


「来たな!」

想定通り。進行コースに設置した催涙ガスが次々と炸裂する。

一瞬のうちに渓谷が白いガスに包まれる。

「同じ手を!」

足場の岩を砕いたのは、勢いよく見せるための、錯覚を狙ったものだ。彼女の感覚からしたら、ゆっくりとした接近だった。


そこへ、予想通りの催涙ガスだ。余裕で対応する。四方に小規模の炎弾を炸裂させる。

「ええ?」

かさなった爆裂音とともに、渓谷の催涙ガスが瞬く間に四散する。

冗談だろうと思う少年。


「てやーーーーー!」

ヒョローーーと、恐怖の那智チョップがしんを襲う。彼からしたら、目にも止まらぬスピードだ。破壊力は屈強な超能力空手家達を、簡単に吹き飛ばし戦闘不能にしている。


ズガアアアン、


砂ぼこりをあげ、岩を砕き地面に両手を突いている那智。

「な、、、、なんで?」

わけがわからない。

少年の位置は変わっていない。自分が別方向に吹き飛んでいたのだ。


ワアアアアア!

盛り上がるアリーナ。


「な、、、なんですの?今のは?」

あっけに取られる瀬里奈。

「ボクが、、、水上公園でやられた、多分投げ技だと思います。」

歯ぎしりする、葵。そう言う彼も正確には理解できない。


「にょほほほほ。クンフーが足りないよ。未熟者め。」

変なポーズで挑発を続ける少年。


「まったく、、、、めんどくさい!」

白いブレザーの上着を投げ捨てる那智。

なぜか、少し楽しそうだ。


姿が消える。


景色が凄まじい勢いで、後方にちぎれ飛ぶ。彼がユックリと反応する。

今度は見えた。自分の攻撃のエネルギーが、他方に逃され、体を別の方向に誘導される。

重心は崩され投げられる。

それが、自身のスピードの十分の一以下の速度で行われるのだ。まるで、魔法を見ているようだ。


身体コントロールと、身体各所からの小爆発で運動エネルギーを操り、受け身と衝撃のエネルギーを緩和する。

そうしなければ、自分のスピードで自滅するだろう。


両足が岩盤を砕いていく。今度はギリギリ、手は付かずにすんだ。


「へっへー。わかってきたよ。しん。」

少年を見返す少女


「おいおい、どっちも凄いな。これは、」

身体強化の体術を駆使するジノだ。この攻防の意味がよくわかる。


「ねえ、ジノ。あの子のやつ、軍の近接格闘術じゃない?」

エイダもその系統だ。知識は豊富にある。


「そうか?柔道とかが近くないか。」

スコッチを飲み干す、ジノ。


「いや、合気と柔術が混ざってるが、CQCで間違いない。」

ポツリとつぶやいてしまう、アルマ。

「パキスタンで見た事がある。」


「へえ、やっぱり、ママさんも、軍関係か。モルト、もう一つ。」

彼女と、話すキッカケができて、機嫌がいいジノ

「チッ、、、、」

舌打ちしながら、スコッチを入れるアルマ。


「ああ、日本のPKOだ!鬼の海条流!」

ある女性を、思い出すエイダ。

「オイオイ、それ、結構、昔だぜ。あいつ、何才だよ。」

ポリポリとナッツをかじるジノ。

「結婚して、子供がいたよ。短い期間だったけど。」

軍の女性格闘家の開祖など、滅多にいない。マニアだった、エイダはよく調べていた。


「英才教育か、、、それならあるかもな」

中々だ、酒が進んで、上機嫌のジノ。


「クソ。シャレになんねー」

鼻血を拭う少年。

神経を加速ブーストさせ、なんとか、視力のみは、少女の動きを追えるようにしているが、

限界があっという間に近づいている。

自分の能力では、増幅をループさせなければ、彼女には届かない。

そんな事を続ければ、ハウリングでアンプが壊れるように、自滅するだけだ。


必死の反撃だったのだが、初手で彼女は着地を決め、ノーダメージ。

能力だけではない、素の反射神経と運動能力が普通じゃない。

そして、次には正確に対応を見せ始めている。


ゲンナリしてきたが落ち込んでても仕方ない。

「どうしたい。来いよ!」

挑発を続ける。


「フンだ。どうせ、攻め待ちじゃない。」

痛いとこを突く。

「まあ、いいけどさ。」

軽くステップを踏み出す少女。


「じゃ、こんなのはどう!」

再び消える那智。


ギアを一段上げたようだ。はたしてどれだけ上がるのかは不明だが、まだ余裕がある様に見える。


彼の周囲を高速で移動する那智。姿がブレる。減速と加速を繰り返しているようだ。

ヤバイ、こんなもん、対応できるわけがねー


生徒会室

『正解です。海条リナが彼の母親です。』

普通に、感情の欠落した声が通話に割り込む。


『8年ほど、一緒に暮らしています。日本の軍属でしたが、途中から、PKOで紛争地帯を渡り歩いています。その後別れて、父方に引き取られてますね。』

「立夏、一応彼の経歴を追ってくれ。」

小声でささやく、あらた。

別に作戦の脅威と言うのではない、単なる、興味だったのかも知れない。

しかし、彼にとって、それはひどく珍しい事だった。

『わかりました。』

一拍の後、応える、アンバーTYPE01


「ねえ葵、あれ、加速の専門職のあなた並みじゃないですの?」

後ろの葵に尋ねる瀬里奈。


「そうですね。彼女、多分、もう一段階、速くなりますよ。」

なんとか、冷静に答える葵。


いや、まだ上がるかもしれない。

あのスピードでのストップアンドゴーがどれだけ大変か、彼には身に染みてわかっている。

相当な余力がなければ不可能だ。

「あの動きに対処するのは、僕でも苦労するかも、しれませんね。」

気がつくと、瀬里奈が面白そうに、見つめている。

「みえっぱり。」

笑っている。

テレパス以前の話だ。彼女の洞察力には、まったく、舌を巻く。


「スペシャルーーーローリングーーーチョップーーー!」

適当な技名を叫んで攻撃してくる少女。

手刀なのか、掌底なのか、抜き手なのかどれも適当だが、周囲からバラバラと

何十人もの少女が襲いかかる。


質量を持った残像とは、これの事だろう。

悪夢のような、光景が迫る。

すべて、必殺。それをフェイントに、何重にも織り交ぜての超高速時間差攻撃だ。

「あきまへん〜〜」

さすがに、凄いもんだ。ここまで差があると、笑えてくる。


しかし、こちらは、1人じゃないのだ。


「え、、、!?」

水しぶきが上がる。何人もの那智が、足を水流に取られる。

いつの間にか、少年の周りはくるぶしまで浸かる川の流れの中にある。

正確には、直径3メートルほどの水たまりか。

渓流は、少し離れた所を流れている。


「うそ!なんで!」

バランスが崩れる。

高速の能力演算。身体コントロール。

繊細な速度制御を崩されて、少女の挙動がほんの少し崩れる。

少年の片耳には、ヘッドセット。

ひそかに、水流操作をしずくに追加注文したのだ。


しかし、効果は絶大。残像が消えバランスを崩す少女。彼にとっては、格好のエモノだ。

「捕まえた!」

超高速をさらに加速させ、受け身を取れないよう、地面に叩きつける。


「わーーーーーー!」

渓流に突っ込み、川の水面を凄まじいしぶきを上げ、水切りの石のように滑空していく少女。


そのはずなのだが、跳ねる度に、勢いは減速していき、体勢が整う。

対岸に着く頃には、片膝を突くものの、きっちり戦闘体勢は崩さないでいる。

足場がゴッソリ削れ、凄まじい砂埃が立っている。

しかし、全くの無傷。

投げ技殺しのエキスパートだ。

「なんだかな〜〜〜」

等身大の美少女、起き上がりこぼしだ。笑うしかない、少年。


前日、超研部(仮)

「以上が作戦の概要です。なにか、質問のある人。」

ホワイトボードの前で、翌日の戦法を説明するしん。


長テーブルの前には左右に、しずくと友樹がいる。


「なんだよ〜〜鉄砲、使わないのかよ〜〜」

ごねる、茶髪メガネ

「訓練をしないと、実銃は、当たりません。それに、サバゲ部の二の舞になるだけです。」

「ぶ〜〜つまんね〜〜〜」

「いかにして、スキをつくか。これが、最大のテーマですね。はい、しずく君。」

そっぽを、向いたままの少女。

「聞いてますか? 我々の武器は、やる気と根性。なんとかの一念岩をも通すです!

ぜひ、敵と相対したら、一発かましてください。」

中指を、立てる少年。

「リピートアフタミー。ファクユー!アスホール!!」

頭痛がする。

まったくもって嫌になる。

バカなのも。

変態なのも。

記憶がないのも。何もかも頭に来る。


砂埃が散る、水面に幾重にも波紋が跳ねる。

那智のターゲットが変わる。

彼女からは、右手。川の中に、勝負に水を差したしずくがいる。


「前髪ーーーーーーーーーーーーー!」


こいつも、人の名前ぐらい覚えなさい。


「みず希 しずくです!!」

ぶつかる、視線。


刹那、叫ぶしずく。

「氷霧ーーー!」

しずくの周囲が、瞬く間に白い霧に包まれる。渓谷の気温が低いと言っても、実際の氷霧が発生するほどの、気象条件ではない。

水蒸気の飽和状態による、前線霧が近いだろう。

気象条件、ブースト、準備時間の長さなど、条件は必要だが、渓谷全体を包む、白い闇の構築に成功する。


「子供だましを!」

聴覚に神経を集中する那智。さらに、視界は見えにくい。のであって、見えないのではない。

彼女にとっては、こんな霧、ないも同然だ。


「うおおりゃああああーーーーーーー!」

後方より、複数の足音。

「声出しちゃダメじゃん。」

キッチリ迎え撃つ那智。念のため、小型の炎弾を放つ。


ドオン、

「ぎゃああああーーーー!」

吹き飛ぶ茶髪メガネ、手には、バトンタイプのスタンガンが火花を散らす。


「くそっ、、、、!」

後退するしん。

友樹は、致命傷を負ったとカウントされ、フィールド上から消える。


予想外の攻撃だった。友樹を盾にして那智に接近し、スタンガンの攻撃をかます計画だ。

名付けて友情の二段攻撃。

しかし、突如、彼女は、炎弾の攻撃に切り替える。

「なんで、、、、」


霧の向こうの少女の影が答える。

「足音だよ。セッコイ奴!」

仲間を捨てゴマに使う。ハッキリ言ってキライな方法だ。


しかし彼女にもわからない。

「なんで、あんた無事なの?」

2〜3人吹き飛ばすのに十分な、爆裂のはずだった。


「ウハハハハハ!聴覚ブーストか!さす那智だな!」

遠去かる少年の影の足音が弱くなる。革靴を脱いだらしい。驚くべきは、それが彼女でなければ、捕らえらないほどの、消音効果をはたしていた。この足場でだ。

「こいつ、、、、」

後方に回り込もうとしている。

「ウハハハハハ!それでは、お前にこのスーパー白衣の性能を、教えてやろう!」

「???」

「いいか!この白衣の特殊高分子耐久ポリマーは、衝撃を受けた部分が硬化しAPDS徹甲弾すら、跳ね返す強度を持つのだ!」


「こいつ、、、、」

眉間をもむ少女。なにやら、白衣の説明を得意げに始めるしん。位置が丸わかりだ。

一体何がしたいのか。

「これが!我が、父のかたみ!スーパー防弾白衣なのだ!ウハハハハハ!」

「いやいや。あんたの両親生きてんじゃん。」

だんだん、どうでも良くなってきて、突っ込む那智。


「な、なに!ここの風紀委員の情報網は、そんな事まで把握してんのか?お、恐ろしい!」

けっこう動揺しているらしい。足音が乱れる。

「智由姉に聞いたんだよ。」

「智由、、、、保健のチーセンセーか!肉親!やっぱり!お前、センセーの子供か!」


「う、、、」

なんとか、コケるのを踏みとどまる少女。

「姉貴だよ!言ってんじゃん!智由姉って!あんた、姉貴に殺されるよ。子供って、、、」


なにか、変だ。

まぶたが重い。

猛烈な眠気が襲ってくる。


「確かに。チー先生、異様に若いもんな。お前の歳からして、計算が合わねー。」


途切れ途切れに声が聞こえる。気のせいか少しこもった声だ。


「確か20代前半だろ。チー先生。養護教諭の資格もあって、分子生物学の博士号も、最年少でとってるはずだ。何者だよ本当、、、、で、やっと効いてきたか。那智。」


(なにが、、、、、効いて、、、)

なんで、智由姉の事、そんなに詳しく知ってるのかボンヤリ考えながら

ふと、思い到る。


(やられた!)


意識する間も無く、那智の能力が発動。


グワアアアアッ、

数発の炎弾が渓谷に炸裂する。


立ち込めていた霧が一掃される。膝をつく少女の目に、ガスマスクを着けた白衣の少年の姿が横切る。

「こ、、、この!」

意識が暗闇に呑まれていく。何かのガスだ。


「ウハハハハ!かかったな!那智!最初から霧に隠れた催眠ガスが本命だ!

油断したなーーーー!」


大笑いが聞こえる。催涙ガスからの霧、接近戦もさっきの会話も、全部オトリ、最初から何段階にも仕組まれた罠だったのだ。


負ける、、、このバカに。


「うぅぅううわあああ!」

マグマのような煮えたぎる灼熱の怒りが、全身を焼き焦がす。

人として、人間の、人類の全ての生ある生きとし生けるものの誇りと尊厳をかけて、このブァカには負けてはならないのだ。

真理の根源に突き動かされ、AAA、彼女の力が解放されていく。

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