第4話 露見 プラス


翌日、部活練3階、超研部(仮)

「る〜〜る〜〜大きくな〜〜れ〜〜」

後ろで茶髪メガネが、窓辺のプランター達に水をやっている。

「はやく、ご主人様、戻るといいでちゅね〜〜」

ブツブツと、とても鬱陶しい。


「あんな〜友樹。今のうちにそれ、取っ払っちまおうぜ。」

「あんだと!きさま!しずくちゃんとの楽しい思い出を

消そーてか!ふざかんなーーー!バカやろーーー!」


ああ、もう、こっちは、それどころでは、ないのだ。

我がエロデーターの流出元を、見つけなければならない。

可能性があるとしたら、部室に置いてある、このパソコンだけだ。


しかし、いくら調べても、ハッキングの痕跡。ファイルの異常はなにもない。

どうなってるのか、サッパリだ。

自宅のパソコンだろうか。いやそれは、もっとありえない。

セキュリティーはここの比じゃなく厳重。人の出入りはほぼ無い。


「う〜〜〜〜ん。」

いきなり、行き詰まってしまう少年。

(は、、、もしやコイツが犯人!?)

疑惑を悪友に向ける、しん。


「しずくちゃ〜〜〜ん。カンバ〜〜〜ック〜〜〜」

メソメソと植物に語りかける、ショボくれた友樹。


(ないな、、、、)

眉間を揉む、コイツはそれどころでは、なさそうだ。


カチャリ。


唐突に隣の天文準備室に続くドアが開く。


「えいっ。」

指がなる。


ズッッドオォォン。


「ぎぃやああああああ!」

ひっくり返る少年。

部室、中央の空間が突然、暴発、弾ける。

指向性対人地雷のように、少年たちいる方向、半分が見事に吹き飛ぶ。なぜ、窓ガラスが割れないかはわからない。

い、いや、吹き飛んだパソコンは、茶髪メガネを直撃して、被害が出なかったのだ!いや!そうではない!彼は、プランターを、植物達を守って死んだのだ!


「友樹!友樹ーーー!」

悪友を抱き上げる、しん。ありがとう友よ。そして、さらば。草木を愛する千葉県人!


「別に死んでないって。」

悪びれもせず腕を組み、コチラを眺める、爆弾魔。ブラウンのフワリとしたセミロング。

野川那智だ。

後ろには無口なプラチナショートボブ、冬木リンがいる。


「なあああにしやがる!この爆弾魔ーーーー!」

ある意味ここまで、威力の絞った爆裂をコントロールできるのも彼女ならでは、かもしれない。

「うーーーーっさい!この変態!すっとぼけんな〜〜〜あんた、だってのは、わかってんだから!」

激怒する、少女。昨日の事だと思う。

ま、そうだろう。しかし、当然、証拠は何もないはずだ。


「は?何の事です〜〜ボクチンにはわかりません〜〜〜可愛いウサギちゃん〜〜」


昨日の催涙ガスの影響だろう、少女の目はまだ赤く充血し、白うさぎの目のようだ。

若干、声もかすれ気味である。


「な、、、、な、、、、」

真っ赤になり蒸気を吹き上げる那智。

「ぶっっコロス!」

「ぷっぷくぷ〜〜」

執拗に挑発する彼だが、その実、気が気ではなかった。ひっくり返っているパソコンは何の隠蔽工作をする暇はなかった。今調べられたら、アウトなのだ。

いや、この思考をリンがサーチしたら、、、、、


コツン、

「那智、、、、ステイ」

「あう、」

驚く事に、リンが少女の頭を叩く。

この前の失態の原因は、那智の暴走が大部分だ。普通なら簡単にしん達は、一網打尽にされていただろう。

昨日の今日では、さすがに反省しているらしい。

おとなしく、引き下がる少女。


「憶えてろ〜〜〜あんた絶対、捕まえてやるから〜〜!」

頭を押さえて捨てゼリフの那智。

何しに来たんだ。コイツは。


しかし、よくよく見ると、赤い目のリンは、なんとも言えずかっちょいい。

ぜひ綾波コスプレをしてくれないものか。


「な、、、何の音!?どうしたの?」

そこへ、爆破音を聞きつけて、久しぶりに、となりの天文部。ポニテの地味子さん。みず希しずくが姿を現す。


大喜びするだろう、只野友樹は、ひっくりかえって気絶している。ドンマイ。


「ん、、、んん、、、、?」

目を細めて、記憶の照合をする那智。彼女の方が、頭半分くらい背が高い。

「あんた、、、みず希しずくね。」

どうやら、生徒会会議室でしずくを見たのを憶えていたらしい。


「それ、前髪、、、重くない?」


(ぶーーーーーーっ!)

いきなり、なに核心、ぶっ込んでくんだ。この爆弾女。みんな知ってて、触れないでいる地味子さん最大の、ツッコミ所を、しょっぱな、えぐってくるなんて。

アンタさん傍若無人のAAAや〜〜〜〜!


「あ、ああ、うう、、、」

言わんこっちゃない、前髪で見えにくい表情を、真っ赤にして、ワタワタと挙動不審に落ち入る、しずく。

ウチの子に、なんて事言うの。許さなくってよ!


「ま、いっか。」

なにがいいんだ。

「気をつけなさい。こんな、ブァカ!の近くにいると、ろくな事ないよ。なにか、あったら、風紀に相談して。変態はすぐ殺虫剤で、駆除してあげるからぁ」

ニッコリ笑う、人を害虫扱いする女。


「行こう。リン。あ〜〜忙し〜〜〜」

言いたい事を言うだけ言って、帰っていく那智。なんて、迷惑なヤツだ。


「ん?」

ジッとリンがしずくを見ているのに気がつく。


その表情からは、なにも読み取れないが。

しんが、どうしたのか、聞こうとした時、

彼女はクルリときびすを返して、出て行ってしまう。


「何でここ、他の準備室につながってるの!」

奥の方で那智が騒いでいる。

超研部(仮)にアクセスするには、廊下に面した天文準備室からか、突き当たりの化学部から回り込むしかない。面倒といえば面倒だ。


やれやれ。

とっ散らかった、部室の片付けをしなければならない。


「オレ、コイツを保健室に運ぶから。先に帰れよな。」

よっこらしょと肩で友樹を、引き起こす

「う、、、うん」

ショックを受けたであろうレディを、一人にさせてやる。

オレは意外に気配りができる男なのだ。


「し、、、ん、、、」

つぶやく、しずく。

その日、ポツンと一人残る少女は、ひどく、心もとなく見えた。

全身からあぶら汗が噴き出すような気がする。


彼女を見て、はじめて思い至る。部室のパソコンにアクセス可能な人物。

彼女にはパスワードを教えてある。


否定する。否定する。

胃の内容物が逆流するような悪寒が湧き上がる。

彼女が何故、そんな事を。何のメリットがある。


ありえない。ありえない。ありえない。絶対にあってはならない事だ。


何か言いたそうな少女から、逃げるように、保健室に向かう少年。

時間が必要なのは、彼の方かもしれなかった。


学園の広い廊下を、足早に行く、美少女ふたり。

「っったく。ふざけやがって〜〜。証拠つかんだら、ギっタンバッタンのドッタンバッタンに〜〜〜」

湯気を吹きそうな那智。

「那智、、、、那智、、、、」

さっきから呼んでいる、リンに気付かない。

「、、、、、、」

プニ、

耳たぶを掴んでみる。リン様はお怒りのようだ。

「あた、たたたた!な、なに?リン?」

やっと気がつく少女。


「あの子、、、何かおかしい、、、、」

「??。」

首を傾げる那智。

冬木リンは、受信特化だが、瀬里奈副会長に並ぶ、東アルカ、頂点のテレパスだ。

しかし、めったに人の心は覗かない。

むしろ、サーチを嫌がる傾向がある。

「みず希しずく、、、のぞいたの?」

とりあえず、聞いてみるが、案の定、首を左右にふる。


「むむ、、、、、、」

考え込む那智。

他ならぬリンが異常を感じたのだ。何かあるのは確実だ。

ふたりで調べてみて、報告する。

昨日の失態の、名誉挽回もできるかもしれない。


今日は朝から、わざわざ風紀にまで出向いた、瀬里奈副会長に散々お説教されたのだ。

なぜか、し巻先輩には、あまり怒られなかったが。

とにかく、なんとしても、風紀のオッチョコチョイキャラとして、定着するのは、避けなければならない。

「面白いじゃん。調べてみよう。リン!」


性懲りも無く、単独行動を開始する那智。



「ふざけんな!テメェ!」

ガシャン、


ひと気のない保健室に、倒れた折りたたみ椅子の音がひびく。

つっかかる友樹に胸ぐらを揺さぶられながら、

なんでこんなに、ここは、設備が整っているのか疑問に思う。


4つあるベットはみな、移動可能。バイタルセンサーから始まって、エコー、小型CTスキャナー、奥の部屋にはアルカにしか、存在しないだろう、MRIを完備する医療カプセルまで存在する。細胞再生活性剤液のプールと、医療用ナノデバイスシステムで、どんな、重篤患者も短期間の内に健康体に戻してしまうだろう。

下手な病院よりも、あきらかに、優れている。

おまけに、遠心分離器、自動水剤分注器、減菌器などがある。


どこかの研究室のようだ。

聞いてみたい所だが、

この部屋の主。天宮第一学園。オアシスの女神。野川智由は不在だった。


正直言ってなんで、こんな事になってるのか、わからない。

意識を取り戻した友樹に、エロデータの事。それが流出した事。その犯人がしずくだという事。

全部話してしまった。

こいつに言っても、なんになるわけでもないのに。


「あの子が、そんな事するワケないだろ!お、お前だってだ!部室やらなんやら、世話になってんのに、よくそんな事が言えるぅろらぁ!」

だんだんロレツが回らなくなっていく。

目つきも怪しい。

オレのヘビー級ゲーミングパソコンの直撃を、後頭部に受けたのだ。

もしかすると、こいつは、半覚醒状態なのかもしれない。


「てい。」

ビシ、

首の横、(頚椎3番、横、突起付近)を手刀で打ってみる。

(※注意、決してマネしないでください。)


糸が切れたように、再びベットに倒れ伏せる友樹。

意外とうまく、いくもんだ。


「ウハハハハ!しばし、待て。友よ!全てを白日の下に!真実はいつも一つ!

たまに何個か!」

ワケの分からない事を言いながら、去っていく少年。

いくらか、いつもの調子が戻ったようだ。


しかし、思いの外、自分が、みず希しずく。あの地味子さんと、近しい距離、関係になっていたのを自覚しては、いないようだが。


部活練 3階 超研部(仮)


ところが、世の中、そう簡単にはいかないようで、西日さす部室に、ひとり。

その少女が、彼を待ちうけている。


経験則というものがある。

彼の母親は、かなり特殊なスパルタで、彼をあらゆる状況で正確な判断ができるようしつけていた。

人為的にしろ偶然にしろ、あらゆるパターン。出来事。事件を経験させる。

結果、かなり濃厚な経験値を持った子供が完成する。

現在、一部、記憶の欠損、もしくは、封印がみられるが。


ともかくそれは、彼に自らを俯瞰する、第三者の視線を与える。

ドライでクール。と言うわけではない。

この少年ほど、欲と煩悩とエゴにまみれた俗っぽい人間は、そうはいないだろう。


趣味人で細かい。しかし、大雑把という変な性格を、獲得していた。

大抵のことは、笑って済ませてしまう。

先ほどの落ち込みは、実はかなり珍しい事だった。


「ウハハハハハ!どーしたのだ。しずくよ。まだいたのか!」

いつもの、軽佻浮薄だ。

その実、視点は上空。自らを見下ろし、身体をリモートしているような第三者視点に、自動で、切り替っている。

「な、なんでもないよ。」

パタパタと手を振る。いつも通りの少年に、安心したのか、なんとか笑顔を見せる少女。

「野川さん。どうしたの?いったい何をしに?」


「さ〜なあ。ワケわからん。」

まあ、いきなり、学園最強にへんなツッコミをいれられたのだ、気にはなるだろう。

「そ、、、そう。」

少女の様子を、俯瞰する。

気にしているのではないようだ。では、那智が、風紀委員だからか?


しかし、以降ふっつり、押し黙ってしまう、しずく。

常の彼女なら散らかった長テーブルや折りたたみイスを、整頓していただろう。

しかし、今回は起こしたイスに、ポツンと座っているだけだ。


ガタゴトと片付けをする少年。パソコンを繋ぎ電源を入れてみる。

てて〜ん、

という起動音とともに無事、立ち上がる。友樹がクッションになったおかげだろう。

ありがとう。友よ。


(しかし、、、、気まずい。)

彼女は依然黙ったまま。俯いている。こうなると、表情はほんと、わからない。


彼のスーパー賢者タイムは、長くは続かないようだ。

だんだんと、精神コントロール、客観性が失われていく。根がいい加減なのだ。

緊張が続かない。または、耐えられなくなる。


「そ、そーいや、最近来なかったけど、天文部。忙しいの?」


とりあえず、話題をふってみる。彼女の場合、天文関係だろう。次に料理か。

パソコンの話、

元はと言えば、彼女が天文部の古い赤道儀が壊れたと言って持ってきたので、パソコンに

繋いで、日周運動を追う、回転のプログラムを修正したのが、始まりだ。


バリバリの文系さんかと思っていた、しずくは、教えてみると、意外に熱心に色々習得し、簡単なパラメータの修正までできるようになっいた。

そんで、いつでも、ここのパソを使えるようにしたのだが。


「昔ね、、、」

ポツリと、懐かしそうに思い出話を始める少女。

窓から差し込む夕日のオレンジが、彼女の影を長く伸ばす。


「今は春の星座だけど、子供の頃、仲良しの子と冬の星座をよく見たの。」

彼女は昔、北海道、夕張山地の北部にある街に住んでいた。

冷たく清涼な空気、

何処までも澄んだ空

広大な大地の上、満天に広がる圧倒的な星の海。星の降る街とはよく言ったものだった。


「その子は、引っ越して行ってしまったけど、もう一度ね、、、冬の星座を一緒にみようって、約束したんだ。」

大切そうに、切なそうに告げる。

「大事な、、、大切な約束なんだよ。」


「そ、そそそそ、そうか!」

キョどる少年。彼にしては、珍しく閃く。


(な、なんてこった!お、男か!地味子さんのくせに!)

とか、失礼な思考を巡らす。


「そ、それで、再会できたのか?」

さらに、よせばいいものを、質問してしまう。


少女は何も答えない。

「う、、、」

うめくしん。

晴天に、墨のような雲が広がり、みるみる天候が崩れていく様な、イメージがのしかかる。

なぜか判らないが、まずい状態なのは、理解できた。


「やっぱり、、、、憶えてない、、、、」

小さくつぶやく、しずく。

しかし、聞いちゃいない、少年。バタバタとショルダーバックを引っ掴み、逃走に移ろうとしている。


「じゃ、じゃーな。しずく!オレ、帰るわー。一応、戸締まりよろしくーー!」

返事も聞かず行ってしまう。

ひとり残される、しずく。




同時刻 生徒会室

保健室に不在だった野川智由教諭が姿を現す。そして、副会長、瀬里奈Sフィールズを呼び出し、しばしの歓談。

そこへ、やって来る椎名 葵。

緊急の用件を伝える。



その少し後、学園、保健室

ベット周辺に広がる無数の、携帯電話による、全方向電影モニター。

電力の消費は最悪だ。一応モバイルバッテリーに繋いでおく。

  

画面には、超研部(仮)の室内の様子があらゆる角度から捉えられている。

当然、室内に残る、みず希しずくの姿もだ。


彼、山下しんは、賢者モードの際、部室を片付けるついでに、超小型ドローン18kカメラ

(はやぶさ君、1号から10号まで)を設置していた。しずくの監視のためだ。


「お前よ〜〜しずくちゃんが無実だったら、彼女に土下座して謝れよ〜〜」

ベットの上から意識を取り戻した友樹が、軽蔑しきった眼差しを向ける。


うっとおしい。もう一度、首、とーんをしてやろうか。手刀を用意する。

「て、テメェ〜〜!今度やったらぶん殴るぞ!それ、シャレになんね〜ぞ!」

ジタバタする友樹。

(ち、気がついてたか、、、)

冗談をやってる場合じゃない。そうそう動くとは、思えないが、彼女は最重要容疑者だ。

一挙手一投足、見逃せない。


しずくがスカートのポケットから、携帯を取り出す。

メールのようだ。内容は見えない。カメラを移動させれば、捉えられるだろうが、

やめておく。

彼女は、とても感がいい。普通の状態の彼がつく、しょうもないウソなどは、ことごとく、看破する。

視野も広く、たまに後ろに目があるのではないかと、思う時がある。前髪で隠れているくせに。

「動いた、、、」

思わず、つぶやく。

さっきのメールから、雰囲気が、変わってしまっている。ひどく苦しそうだ。

後ろで、友樹が息を飲む。


彼女がしんの席につき、パソコンを立ち上げる。

デイバックから何かを取り出し、接続、操作を始める。


「な、なにやってんだろうな。」

ひっついてくる、友樹。うざい。気持ち悪い。なぜ、声をひそめるのか。

「USBメモリーにエロデータを移してんだろ。新作、ローアングラーパラダイスがあるからな。」

「お前、死ねよ。後で見して。」

どっちなんだ、こいつ。


パソコンをシャットダウンし、携帯をとる、しずく。会話をしている。サウンドオンリー、マイクに拾いきれないほどの小声だ。

(共犯者がいるのか。)

手早くしたくして、部室を出るしずく。3機のドローン、はやぶさ君を、オートで追尾させる。焦っているのか気付いた様子はない。十分に距離を開ける。


足早に移動する、少女。共犯者に会うのかもしれない。


「こっちも、行こうぜ、犯人は断崖絶壁だ。クライマックスだぜ!」

テンションが上がるしん。電影モニターを落とし、携帯の液晶で、はやぶさ君を追尾する。

「サスペンスドラマかよ。」

ブツクサ言いながらも付いて来る友樹。


当たりの様だ。帰路につかない、しずく。

早足で部室練のハジまで行って体育館方向に向かっている。

位置、さらに、一階、保健室にいるこちらは、余裕で追える。鉢合わせに気を付けるくらいだ。


超小型ドローンの画像が、グングン接近して来る。

第一から第三までのシミュレーション、アリーナを含む、巨大な体育館エリアに向かう少女。

その姿が肉眼で確認できる。


非常階段の影から姿を現す、二人。慎重に後を追う、西日はすっかり傾き、辺りは暗闇に包まれている。とはいえ、過剰なまでに照明を完備した学園は、昼間のように明るい。

人影は、ほとんど無いのだが。


第一アリーナを折れ、第二、第三アリーナの間を抜けた、研究練の間、金網に隔たれた、狭い体育館裏、その人物はしずくを待っていた。


明るいイエローのツインテール、双眸に冷たい光をたたえた、少女。

天宮第一、鬼の風紀委員。そのトップ。し巻八重、だ。


「遅いよ。しずく。いいデータはあったの?」

蛇が舌舐めずりをする様に、しずくに迫るし巻。


小さなUSBメモリーを前に差し出し、震えながら首を振る、しずく。

「もう、、、もうやめて下さい。こんな事!」

勇気を振り絞り、必死に訴える。


「なんで、、、なぜ、こんな事、、、」

ゆっくりと、しずくに近づいて来る、し巻

「簡単だよ。目的は瀬里奈 Sフィールズだよ。他は、カモフラージュさ。」

(な、、、なに、、、?)

激しい耳鳴りを感じるしずく。


「理想はウワサの彼氏との、ラブホ帰りとかのスクープが良かったんだけどね。」

彼氏とは生徒会の葵の事だろうか。

「う、、、あ、、、」

耳を塞ぎ、片膝をついてしまう少女。

それを見下ろすし巻。


「知ってるだろ。来期の生徒会長に有力視されてるのは、あいつ、瀬里奈だ。でもね、そんなもん、まっぴらゴメンなんだよ。」


チロチロと青白い炎が灯る様な、し巻の瞳。凄まじい増悪が感じられる。

しずくには、その理由はわからない。


「まあいいさ。ともかく、まあ、あいつが赤っ恥をかきゃ、十分さ。あのクソチビを押さえてネタを使えなくするよか、泳がして利用した方がいい。そういう事だ!」


ゴウ、

強力な空気のカマイタチがしずくを切り裂く。

急激な気圧変動が頭痛の原因だ。Bクラス。風使い。暴風を自在に操る、それが風紀委員長、し巻八重だった。


悲鳴をあげる少女。外傷は無いものの、天宮の制服、白いブレザー、ラインの入った赤いチェックのスカートがズタズタに切り裂かれる。長い黒髪が乱れる。ポニーテールのリボンも風の刃に裂かれていた。


絶妙な能力コントロールだ。空に舞う、メモリーをキャッチするし巻。

「お前は大人しく、あのクズから、データを運んでいればいいんだ。その間、あのチビは見逃してやるよ。」

せせら笑う。


もういい。


「しっかし、わかんないね。なんであんなクズを庇うのか。ああ、そうか、あんた、、、」

嗜虐の喜びに顔を歪ませる、し巻。


もう十分だ。


彼女は裏切ってなどいなかった。

あまつさえ、自分は守られていのだ。


どんな

後悔も、

謝罪も、

彼女に報いる事はできない。

自分は、最悪だ。


「ウハハハハハハハハ!」


街灯に白衣がひらめく。

「そこまでだ!し巻先輩!今の会話は18Kで全て録画させてもらった!アンタはもう、おしまいだ!」

「し、、、、ん、、、」

うめく、しずくの前に立つ少年、

バサ、

白衣を彼女に、かける。街灯の光が彼のシルエットを滲ませる。

「ゴメン、、、」

聞いたことのない声の謝罪。

「どうして、、、、」

なぜ彼がいるのか、わからない。


「しずくちゃん!こっち、こっち!」

コソコソと後ろへ彼女を誘導する、茶髪メガネ。彼らでは到底し巻には全然、太刀打ちできない。三十六計逃げるにしかず、だ。

「友樹くんまで、、、」


「フン、山下か。」

まったく動じないし巻。

「そんな事をしたら、お前も終わりだぞ。」

冷たく言い放つ。

「知るかー。あんた、ムカつくんだよ。」

こちらも、軽く返す。

しずくと友樹には、どういう神経をしてるのか、理解できない。


「この、ゴミが、、、、例の小型ドローンか」

街灯にきらめく、周囲の反射を捉える、し巻。普通ではない視力だ。


ギャ、

一陣のカマイタチがドローンをすべて、破壊する。

手の内は、よく調べられているようだ。

「甘いわ!データはすべてこの携帯に、、、、」

笑う少年。しかし、

いつの間にかドローンをコントロールしていた、携帯が半分に切断されている。


「あ、あれ、、、」

まるで手品だ。


ギイイイイイン、

再び急激な気圧変動が始まる。

交感神経、自律神経が圧迫され、猛烈な頭痛、耳鳴りが襲う。


「さて、、、証拠が消えたとこで、いい子になるまで可愛がってやろう。」

し巻の周囲に凄まじい竜巻が何本も渦を巻き出す。金網、街灯、巨大なケヤキやイチョウの樹木がへし折れそうにたわむ。まるで、小型の台風だ。


「げ、、、」

頭がおかしいだろう、この女。こんなもん喰らったら、人間、ひとたまりもない。

相当頭に血が昇っているようだ。

実際、こんなクズ、死んでも構わないと、思っているのかも知れない。事故か何かでごまかすつもりだろうか。


「はあ!」

凶悪な笑顔のまま能力を解き放つ、し巻。

竜巻が絡まり火花を放ちながら、しんめがけて殺到する。


少年の絶叫が響く。

鼓膜が破れそうな爆裂音。凄まじい砂煙が辺りを覆う、


体育館の側面がゴッソリ削り取られてしまっている。バラバラと破片が落ちる。


「な、、、、な、、、」

腰を抜かす少年。

いつの間にか彼の前にブラウンのフワリとしたセミロング、炎熱系、最強を冠する少女が立ち塞がる。


「冗談はやめて下さい。し巻先輩。」

能力を行使した、右手を前に出したまま、真っ直ぐ、彼女を見つめている。


「な、、、、那智、、、、」


うめくし巻。わかってはいた事だが、それでも我が目を疑う。あれだけの自分の能力が、あっさり、一瞬の内に相殺、打ち払われてしまっていた。多分、彼女には簡単な事だろう。

ジワリと冷や汗が浮かぶ。


「やれやれ、何をやっているのやら。」

ヒョロリとしたノッポが街灯の下に、姿を現す。

どんよりとした瞳が無感情に、し巻を見つめている。

生徒会長、不知火あらた、だ。

他に瀬里奈、葵、リン、風紀、副委員長の和久井リラまでいる。


「にゃはははは、バレてたにゃ。八重、」

ひらひらと手を振る、リラ。先に捕まっていたのだろうか。


「ち、、、ちくしょう、、、」

ギリギリ歯がみするが、後の祭りだ。

「ほんとうに、仕方のないひと。」

眉をひそめる、瀬里奈。


この状況は、彼女とあらたの采配と言える。

なんて事はない、那智がひとり、先走りしないよう、瀬里奈が葵に彼女をマークさせていたのだ。凄い先読みだが、それが能力によるものかは判らない。

とにかく、それで、那智の動きを掴んだ、彼女のもとに、あらたが和久井リラを伴って現れ、他の風紀、し巻にだが、知らせないよう助言する。


どうやったのか、彼は盗撮、最新の販売ルートを辿って、リラを捕まえたらしい。

そして、現在に至る。


「瀬里奈くん、頼んだよ。」

あらたの指示で、瀬里奈の瞳が妖しく輝きだす。

それは、彼女の自白催眠能力だ。

「や、、、、やめ、、、!」

時すでに遅し。いつの間にか、すでに、し巻の身体の自由は、奪われていた。意識が白濁していく。Bクラスの彼女に、その拘束に抗うすべはない。


「さすがAクラス、、、、」

もう呆れるしかない、しん。那智もそうだが、あれだけ、猛威を振るった、し巻をあっさり

操り人形にしてしまう、副会長もそうとうだ。


「ウハハハ!ありがとう!生徒会諸君!助かった!また会おう!」

一件落着だ。さあ、帰ろう。

とりあえず、勢いでいってみる。


「ん〜〜なわけ、あるかぁ!!!」

後方から、ガッチリ、右手のヘッドクローを受けるしん。

那智だ。この女、能力ブーストかけてないか。頭蓋がミシミシ軋む。

「あだ!あだだだだだだだ!」

悶絶する少年。逃亡は失敗する。


狭い体育館裏。街灯のスポットライトの中、座り込む、しんと友樹。その後ろに、白衣を羽織ったしずくが、ペタンと座っている。


周りには、あらた、瀬里奈、葵、那智、リンが囲む。

こうなってはもうどうしようもない。観念する少年。


「さて、し巻君の不始末はともかく、盗撮データの所有者。事件の主犯は、山下しん。

あなたですね。」

なんの抑揚なく、淡々と事実確認をする、あらた。和久井リラからも聞いているのだろう。

「ハイハイ、そうでございますよ、」

とぼけてもしょうがなさそうだ。

退学か、警察に連絡され、めでたく犯罪者だろうか。

初犯、未成年という事で、ぜひ、情状酌量の線でお願いしたい。


ジッと感情の無い、ガラス玉の様な目が見つめている。

何を考えているのか。

視線は後方の少女に向く。


わけもなく、嫌な予感がする。

「そして、し巻君と行動を共にし、彼を秘匿していた、しずく君もこの件の関係者と

言えます。」

「な、、、、、!」

こいつ、何ぬかしやがる!

「ま、待てよ!しずくは脅かされて!」

カッと頭に血が昇る。


「君の部は廃部。しずく君も停学。天文部にも迷惑がかかるでしょうね。」

クルリときびすを返すあらた。

「処分は追って知らせます。それでは。」


(大事な、、、大切な約束なんだよ。)

夕日に中の少女の姿が見える。

何があろうと彼女は守らなければならない。

明確な殺意が湧き上がる。

「テッメェ〜〜〜!」

「や、ヤメロ!馬鹿!!」

ギリギリで友樹がしんを羽交い締めする。

「ぶっ殺、、、、モガモガ〜〜〜」

「黙れ!アホ〜〜〜〜!」

口を押さえる。ジタバタする二人。


ヒョロ長の影。街灯の光から消えようとした時、クルリと首が回る。


「どうです。取り引きしましょう。」

突然、もちかける黒い死神の影のような、あらた。

「モガ、、、、?」

うめくしん。


悪魔との取り引きの代償は、「魂」と言うが。

はたして、それは?

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