第2話 続・1杯のコーヒー
やっと時間ができて、久しぶりにあの喫茶店に行ってみることにした。
あれから何度行っただろう? お気に入りの喫茶店。
「久しぶりだなぁー……今日は何を食べようかなぁ?」
のんきにウキウキ気分でお店に向かうも、お店の前で愕然とする。
「嘘でしょ………」
誠に勝手ながら、2/28日を持って閉店いたしましたの文字。
「なんで?」
自分にとっては癒されて大切な空間だったのに、もっと通えばよかった。
「無理にでも時間作ればよかった……」
もうこのお店でコーヒーを飲むこともないのか……
「どうしよう……どこに行こうか……」
スマホで検索すればすぐに情報は得られるけど、自分の勘を頼りに散歩がてら探すことにした。
「あーあ、何やってたんだ。大事な場所だったのに……」
何が理由で閉店したんだろう……
止まることのない深いため息。
適当に歩いていると偶然発見した喫茶店の看板。
歩き疲れたし、休憩がてら入ってみることにした。
店内の照明は明るめで、お客さんも結構入っていて賑やかな感じだ。
案内された席はソファーにテーブルとその前に椅子が1脚のテーブル席。
座席の空間はそれほど広くもなくて、やや窮屈に感じてしまう。
ひとまずモンブランのケーキセットをホットコーヒーで注文してみた。
運ばれてきた渋皮栗のモンブランとコーヒー。
おいしいけど、他でも食べれそうな味だし、コーヒーも少し酸味が強めのコーヒーが私には合わなかったようだ。
お気に入りのお店って見つけるの難しいもんだなと、1軒目で諦めそうになる。
賑やか過ぎて落ち着かないので、30分もいないで店を出る。
「なんか余計に疲れたような気がする……」
そのまま家に帰ろうかとも思ったけど、今日は久しぶりに時間が取れた貴重な日。
この際今日はとことん歩き回って、あの喫茶店のようなお気に入りの喫茶店を自分の足で捜し歩くことに決めた。
でも、いざとなるとなかなか喫茶店自体を見つけることができない。
もしかしなくても、さっきの喫茶店は貴重な1軒だったのだろうか?
公園の前を少し通り過ぎたところに、やっと1軒の喫茶店を発見。
「結構歩いたなぁー……こんなところにもあるんだ」
店内は、モダンな感じでスポットライトがたくさんある。
カウンター席もあったけど、テーブル席に座ることにした。
さっきケーキを食べたから、とりあえず1杯のコーヒーを注文した。
お店の雰囲気も悪くないけど、自分の中にあるここではないという感覚。
運ばれてきたコーヒーの香りもいいし、さっきのお店で飲んだコーヒーよりも酸味もなくマイルドで飲みやすい。
「でも、ここじゃないんだなぁー……」
特に不満もないけど、やっぱりここじゃない。
お気に入りのお店。心が休まる空間って見つけるの難しいな。
出会いかな。いつか出会えるかな? あそこのお店に出会った時みたいに、また出会えるかなぁ……
2軒目のお店を後にして、公園のベンチで休むことにした。
「まだ、2軒しか行ってないのに諦めるの早すぎるでしょ、自分」
でも今日はもう家に帰った方がよさそうだ。
きっといつかまた出会えるだろう。
その日からまた忙しくなり、日々は過ぎていった。
自営だし、忙しいくらいがちょうどいいのだけど……
「やっと軌道に乗ったから、あそこのお店で一人でささやかなお祝いしたかったのにな……」
相変わらず、すぐにいっぱいいっぱいになってしまう私は落ち込む日も多くなり、メンタルも不安定になっていく。
「ダメだ。気分転換しないと……なんかダメだ」
たまらずに外に飛び出した。
この間歩いた方向とは、真逆の方に向かって歩いてみた。
相変わらず自分の勘が頼り。頼りになるのかならないのか? 疑問だ。
歩いていると右手に細い路地があるのが見えた。
何となくこの細い路地の先が見て見たくなって、その細い路地に入って歩いてみることにした。
「こんなところに喫茶店なんてあるわけないよね」
分かってはいるけど、なんだかこの道の先がどうなっているのかが、気になった。
歩いてみると、その路地は入り組んでいて迷路みたいだった。
自分の勘だけを頼りに歩き続けていると、小さな1軒の喫茶店が見えた。
「あっ!」
この間行った喫茶店にはない感覚。
このお店だよ、きっと。
「こんなところにお店があるなんて……」
絶対このお店だ。
外観は昔ながらの純喫茶という感じで、レトロ。
看板には喫茶まーぶるの文字。
なんかお店の名前までツボだ。
ワクワクする気持ちを抑えながら、喫茶店のドアを開けた。
本当にレトロという言葉がぴったりで、昭和にタイムスリップでもしたかのような感覚になる。
お店に入るとコーヒーのいい香りが店内に充満している。
「いらっしゃいませ」
そう笑顔で迎えてくれたウエイトレスは、中年の上品な感じの女性だった。
「お好きなお席にどうぞ」
カウンターもありカウンターの席と迷ったけど、窓際にある3つの席のうちの真ん中の席に座ることにした。
「ご注文お決まりになりましたら、お声がけください」
「はい、ありがとうございます」
カウンターの席は、厨房も見える感じで作っているところも見える。
手動のコーヒーミルで、コーヒー豆を挽いている音が心地よい。
店内の照明は、少し暗めで落ち着いた感じで、席と席の間はゆったりとスペースが取られていて、テーブルとテーブルの距離が近くなくて、とても居心地がいい。
席と席の間が近いと、隣のお客さんが気になってしまう瞬間があるが、きちんとゆったりとしたスペースが取られていて、とても落ち着ける空間になっている。
もうすでに注文するのは決まっていた。
手を上げて声をかける。
「お願いします」
「お決まりですか?」
「ホットコーヒーとプリンをお願いします」
「はい、少々お待ちください」
思わずカウンター席に目が行ってしまう。
次はカウンター席に座ってみよう。
今入れているコーヒーは私のかなぁ……
「楽しみ……」
探している時には出会えないのに、出会える時は出会えるんだな。
「お待たせいたしました。ホットコーヒーとプリンです」
「いい香り……」
「うちのコーヒーはオーナーのオリジナルのブレントなんです」
「そうなんですか……」
「はい、どうぞごゆっくり」
コーヒーのいい香り。もう期待しかない。
まずは砂糖を入れないでそのまま飲むことにした。
ブラックコーヒーは基本飲まないのだけど……
まろやかでコクがあって、とてもおいしい。
砂糖を入れるのがもったいなく感じてしまうから、そのままブラックで飲むことにした。
「本当に、おいしい……」
癒される。この感じだよ。欲しかったのは……
コーヒーがこんなにおいしいと、プリンも自然と期待値が上がってしまう。
白い少し大きめのお皿の真ん中にプリンとたっぷりのカラメルソースにプリンの横に生クリームが添えてある。
「あーもう、絶対おいしいヤツだ……」
スプーンですくってひとくち食べる。
「あー……おいしい」
もう、おいしいしか出てこない。
でもおいしいものを前にして、言葉などいらないのかもしれない。
少し苦めなカラメルと固すぎず柔らかすぎない口当たりの良いプリンと、甘すぎない生クリームがバランスが良い。
とても良い!
もうまさに迷路の中であると思っていなかったところで、宝箱を見つけた気分だ。
こんな目立たないところにあるなんて……
なんかずるい。
こんな隠れ家的な感じ、もう通い詰めるに決まってる。
「これで、また頑張れる」
次はスパゲッティでも食べてみよう。
ここなら絶対においしいはず。
満たされた気分でお会計を済ませる。
「ごちそうさまでした。とてもおいしかったです」
今までそんなこと言ったことないけど、言わずにはいられなかった。
店員さんはにっこりと微笑んで言ってくれた。
「ぜひ、またお越しください」
「はい、また来ます!」
もう絶対に来ます!明日にでも来たいくらいです。
「ありがとうございました」
お店のドアを開け一歩外に出ると、一瞬で現実の世界に引き戻される感覚があった。
でもまた見つけてしまった。また見つけることができた。
家を出る前の自分が嘘みたいに、今ではなんだか体中にパワーが満ちている感じがする。
「よーし、やってやる!」
今日外に出て良かった。
今度はもっとたくさん通うんだ。
新しい出会いに嬉しくなり、家に帰る足取りも自然と軽くなった。
1杯のコーヒー 月白 蓮 @ren_tsukishiro
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます