第10話:ヤニカス、ドワーフの街に着く。

「着いたな」


なんだろう、三時間程の出来事だったはずなのに、なぜか2ヶ月間も盾で敵をしばき続けていたような気もする。


「ここが……『ドワーフの街:インコネル』」


巨大な山をそのままくり抜いたようなエントランスに、それを伸ばしたように直線的なトンネルには、忙しない野郎の大声と、硬質な物同士が織り重なり、ぶつかり合う音が騒々しい。


一歩立ち入れば良質な炭と焼けた空気の匂い。幼少から夢見た光景に、年甲斐もなく目を輝かせる。


「おーいヤニ子、こっちだよ」


おっと危ない危ない、危うく逸れるところだった。


「………やっす! このクオリティでこの値段は安すぎるよ!」

「そんなもん、ここにしちゃあ鈍らさ」

「嘘でしょ、始まりの街から数時間でこんな良質な武器が買えるの!? これなんか星3クオリティだよ!!」


ミャーコがはしたなくはしゃぎ回るところを見て、少し恥ずかしいと同時に楽しそうな様子に笑みが溢れる。


「そういえば、肝心のアイラさんの知り合いはどこにいるんだ?」

「多分こっちだよ」

「多分ですか? 随分と大雑把ですね」

「大雑把で良いんだよ。それに、あいつが近いとだいたいわかる」


「それってどう言う———」


ニャーコが疑問を浮かべると……………




「———てくださぁぁぁぁい!!!」




「………いたね」

「ゑ? 今の?」

「追いかけるよー」


大声の主を追いかける。あれだけの叫び声が聞こえたのに、この街にいる一群は気にも止めず、ごく一部のまだ柄が馴染んでいない新入りだけが、強く好奇心を浮かべていた。


「助けてくださぁぁぁぁぁい! 師匠が、師匠が鬼ですぅぅぅ!!」

「誰が鬼じゃバッカモォォォン!!!」

「きゃぁぁぁあ!!??」

「あの五月蝿いのがそうだ! ヤニ子、捕まえて!!」

「お、おう!」


と言われてもどうしたら……………


「—————どッッッせぇぇぇい!!」


背中に背負った盾を投げつける。山なりに飛んだ鉄の板はその巨体を生かし、見事! 路地裏を塞いで見せた。


「これで逃げられんなぁ?」

「ひぃぃぃぃぃ!!」

「まぁまぁ、マスター、その辺にしてやんな」

「ふん、誰かと思えばアイラか! 小童が可愛いからって贔屓するで無いわ!!」

「アイラくぅぅぅん!!」


鬼の形相を浮かべたドワーフの横をすり抜けるように、アイラの腰に抱きつく少年。


「ジャラシ、あんたにお客さんだよ」

「ええ!? お客さん!!?」


ハッとした表情を浮かべた彼は、俺たちに向き直り一礼、挨拶をする。


「インコネル鍛治ギルド所属、達人級鍛治師マスタースミス:タングスの弟子、金級鍛治師ゴールドスミスのジャラシです!!」

「ヤニだ、よろしく」

「はわぁ、女騎士! 本物の女騎士初めて見ました!!」


すみません、違うんです。不正九蓮宝燈なんです。


「……………ん? おいジャラシ、あんた今金級鍛治師ゴールドスミスっていったよな? たしかあんた、達人級マスターになったとか言ってなかった?」


そのツッコミに肩を跳ね上がらせると、油を刺していないブリキ人形のような動きでアイラを見る。


「も、」

「……も?」




「申し訳ありませんでしたぁぁぁぁぁ!!!」




おお、流れるような綺麗な土下座。この歳で習得するとは、中々社会人適性があるじゃないか。


どうやら、この騒動はもう少し続くらしい。




「なぁ」

「はぁ、なんだいヤニ子」


「盾、引っこ抜くの手伝ってもらえない?」


さっきから試しているけど、深々と刺さって抜けないんだぁこれが。


「……………締まらないねぇ」

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