第6話 バスケ

俺はスポーツが嫌いだ。なぜなら、集団でやることが多いからだ。根本的に根暗な俺には合わないのがスポーツだろう。



「さて、今日はバスケをするぞ。男子は準備運動だ」



 高校では当たり前に男女で分かれて体育の授業をする。体育館を二つに分けて、手前側を男子、奥側を女子にて授業をしている。



当たり前だが、俺は極力目立たないようにしている。単純に目立つのと、悪目立ちは紙一重と言えるし、というかほぼ一緒だし。


 俺も勇者として暗殺をされてから、余計なことはしないという方向、普通で目立たないことに尽力している。




「ほら、準備運動が終わったら試合するぞ」




 俺のクラスは36名。男子18名、女子18名。バスケは大体5名でチーム戦。しかし、余ってしまうので3チーム、そしてそれぞれに補欠として1名ずつ入れることになっている。



 ちなみに俺は補欠である。



 補欠なら目立たないから良いことこの上ないが、俺のチームメンバーが少々面倒なんだ。所謂、1軍メンバー、陽キャである。



 天童広てんどうひろし樫木勝利かしきしょうり大空太陽おおぞらたいよう善明寺華人ぜんみょうじはなと蘆屋桜花あしやおうか


 もう名前からして、勝ち組メンバーである。もうちょっと控えめの名前にしてくれよと言いたいくらいだ。


 それに加えて、全員がそれぞれに個性がある。超リア充、金持ち、マジで色々と面倒だ。


 関わるべきでない存在とはまさにこいつらなのだ。しかし、まぁ、体育メンバーなら仕方ない。それに補欠だからなそれほど目立つことはない。



「おいおい、あいつらが固まったら勝てないだろ」

「バランス悪くね」

「あーあ、女子の前いいところ見せたかったな、具体的に土御門清子だけど」




 反対方向に女子がいるからな、やはり良いところを見せたくなるのが男の性というのものなのかもしれない。


 まぁ、俺は基本的にそういうのは消えてしまったが。異世界において女性はハニートラップ的なのでこちらを暗殺してくる存在だから、



 良いとこを見せよう、ではなく、隙を見せない



 という生き方が刷り込まれてしまっている。ここは、補欠でジッと何もしない植物のような形で体育をやり過ごそう。





「うあ、天童すげぇ」

「ダンクしてるじゃん! ありゃ勝つの無理だわ……」

「善明寺もさ、うますぎだろ! あいつら全員身長高いし、イケメンだし、運動もできるのかよ……」

「人生勝ちゲーすぎだよなぁ」




 他の男子たちが、天童達を褒めている。


 全くその通りだな。人生勝ちゲーすぎる。異世界に召喚をされていない時点で、危険な生物がほぼいない、暗殺されない、飯が超うまい、暗殺されない、魔族に襲われない。



 俺からしたら、全員勝ち組だな。まぁ、勝ち組の中でも、この五人が更に勝ち組なのは否定しないけども。



「高木先生、すいません。ちょっと予定ありまして女子の方も」

「わかりました。よーし、女子もこっち来てくれ」



 どうやら、女子の体育担当の高木先生が用事ができてしまったようだ。そのため、男子体育担当の斉藤先生が全員をまとめて見るらしい。



「ってか、潔子ちゃんまじ強すぎでしょ」

「あーし、天才だからさ」

「男子にも勝てるんじゃね?」

「まぁ、いけるっしょ。例外はあるとおもけど」




 一瞬、眼が合った気がしたが気のせいだろう。それにしても土御門清子は本当に運動神経が良いらしな。少しだけ見たが確かに天才の名に恥じない動きだった。中学はバスケ部かもな。


 俺は帰宅部だったが。



「女子はしばらく見学にするか。よし、次BとCチーム!」



 俺達はAチームだ。俺は補欠だがな……



「善明寺くん、おつかれさま!」

「天童くんも!」

「やっぱかっこいいよねー」

「あの五人は勝ち組だわ、蘆屋くんはちょっと不良っぽいけどそこもいいね」




 BチームとCチームが試合をしているんだが……少しは応援してあげたらどうなのだろうか?


 まぁ、別にどうでもいいんだが……




「おい、鈴木、遅いぞ」

「鈴木、パスしろ!」

「ご、ごめん」





 女子と一軍男子は放っておくとして、Cチームの鈴木二郎すずきじろうは大分足を引っ張っているな。



 背が156センチ、と言うのもあるだろうが彼は優しすぎるのだ。敵からボールを取れない。


 多分、怪我をさせたらどうしようとかあるのだろう。



 中学はバスケ部だったと聞いたことがあるが、如何せん、遠慮な正確なのだろう。思っているような動きができてないように見える。



『ほんまに人間って嫌やわぁ。優しくて甘い人間が上手く行かんやからなぁ』

「おい、なんでいる」

『ほな、ちょっと見学に来てん。でも、迷彩魔法で透明になってるで』




 全く、家から勝手に出るなと言っているんだがな。まぁ、迷彩魔法で透明になっているなら問題ないがな。




『あの、鈴木言うたか? そんなに悪くない動きやね、まぁ、遠慮して一回一回ブレーキがかかってるわ』



 同じ感想だ。ボールと床に叩いて、手に戻ってくるまで、バウンドの威力も申し分がない。


 しかし、相手が前に来るとどうしても、遠慮するのか迷いが見えて、止まる。敢えて止まるとかは戦法としてあるのだろうが、彼に場合は違うだろう。



「鈴木、頑張れよバスケ部なんだろ」

「わ、わかってる」

「あいつ、下手くそだな」






 誰かがそう言った。見ている女子か、補欠で見ている男子か、俺にはそれを判断することはできなかった。




『身体強化魔法でもかけてやったらどうや? ボコぼにするの見たいやろ?』

「余計なお世話はしない、面倒だしな」




 結局、鈴木二郎は遠慮するだけで何もできないのだろう。優しい、のか、どうなのか知らないがな。




「次AチームとCチーム!」





 また、天童達と鈴木次郎のチームが戦うようだ。毎回のことだが、俺は補欠である。




 試合が始まると、才能による蹂躙が始まった。天童がジャンプボールでボールを奪うとそれを、蘆屋にパスしダンクが決まる。頂上的な身体能力とバネを持っているようだ。



 リングごと破壊をしてしまってもおかしくない。



「やっべ、かっこいいわ」

「ありゃ、理不尽だわ」

「陽キャチームの輝き具合よ」

「身長高くて、顔かっこよくて、運動もできる男子が五人もいるのか。このクラス最高」



 人の評価とはいつも無常だ。



「ほい、悪いね」

「あ」




 鈴木二郎もなんとかパスをもらうのだが、ドリブルに入る前にボールを奪われてしまう。


 デカい相手に萎縮したのか。




「鈴木って、天童とかと一緒だと本当に小さいよね」

「ねぇー、ちっこい」

「中学からバスケしてても、やっぱり才能とかに負けちゃうんだ、遺伝子ゲーだよね」



 試合観戦してる女子からの評価はだいぶ冷たいようだ。




『好き勝手言ってるやん。ほんまに……これやから人間は下等種族やねん。もうちょい、あるやろ。聞こえてらどうするんや』




 まぁ、仕方ない、人間は常に誰かを比べるものだ。俺からしたらどうでもいいことなんだ。


 しかし……



「……全く」

『おお!? あの鈴木に何か魔法かけたやん! どうしたんや?』




 勘違いするなよ。俺は陰キャだからな。あまり陽キャがチヤホヤされる現状が気に入らなかっただけだ。



 それに、鈴木にかけた魔法は……精神を強くする奇跡リオソウルだけだ。



『あぁ、精神を一度だけ強化する魔法やね』



 簡単に言えば、心から自信が湧いてくるみたいなもんだ。味方をするのは嫌だが、あっちの天童とかがあまりに女子にキャーキャー言われているのでな。



 少し腹が立った。




『嘘下手やん、黒堂くん、恋愛興味ないやん。そもそも暗殺されるか心配してるし』



 いや、実は前々から興味あったんだ。だから、陽キャが気に食わないんだ



『面倒な性格してるわ。普通に応援したくなったとかでええやん? あれやろ、弱い方を応援したくなるのは人の性や言うやろ?』



 いや、単純に陽キャが気に食わないだけだ。



『ほんまめんどいわ』





◾️◾️





鈴木次郎。



どこにでもいる普通の少年。優しく、人に迷惑をかけるのを何よりも嫌っている。


そんな彼は優しすぎて、強くなれなかった。



中学の時から、誰よりも練習をしていた彼だが如何せん本番に弱く結果が出なかった。



それは、今でも改善することはなかった。相手に怪我をさせたら、傷つけたら、どうしようと常に考えている。



だが、しかし、



彼の心は唐突に……



「なんか、行ける気がする…」



鈴木二郎は自分に言い聞かせるように深く息を吐いた。さっきまでのミスが頭をよぎるものの、「俺にできないわけがない」と心の中でつぶやいた瞬間、急に視界が開けた気がした。


「うお!?」


 

天童が思わず、感嘆の声を上げる。



ボールを床に叩きつけると、いつものように手元に戻ってくる確かな感触があった。ドリブルのリズムが体に染み込むように自然と刻まれていき、指先の一つひとつがボールを操っているような感覚が蘇ってきた。


「急になんだ!?」



目の前には天童が立ちはだかるが、動じることなくステップを踏み、流れるようにボールを左右に切り替える。相手の動きに反応しながら、どこか冷静で、けれど確信を持ったまなざしが彼の顔に浮かんでいる。鈴木の心はもう迷いが消え、ただ前へ進むのみだった。




「──俺、結構できるんだ」




 本来のポテンシャルを引き出した彼は……




──もしかしたら、彼は、いずれ、バスケ部のエースになるかもしれない





◾️◾️




「全く……陽キャがやられるのはスッキリしたな」

『その演技まだするん?』



 結果だけ見ればCチームの勝利だった。鈴木二郎が覚醒をしたからだろう。以前、たこやきの散歩をしている時、彼がバスケの練習をしているのを見た。


 随分と、熱心にしており体に染みついた動きをしていたから相当打ち込んでいたのだろう。


 まぁ、どうでもいいが




「さっさと、終わらせて教室に帰ろう」



 今日俺は先生に頼まれ、体育館の片付けをしていた。大量のボールが入ったカゴを倉庫に持っていく簡単な作業だ。


 全員帰ったので1人でやるか



「おっす」

「……どうしましたか?」

「別に……手伝おうかなってさ」



 土御門清子、なぜここに……? 他のと帰ったと思っていたが



「あーさ、バスケ得意?」

「苦手ですね」

「ふーん、鈴木くん凄かったね」

「そうですね」

「……あのさ、いや、なんでもない」



 何かいいたげだが、どうしたのか。まぁ、深ぼる必要もないだろう。




「黒堂くんってさ、結構、優しいよね」

「……どこを見てそう思ったのですか?」

「あー、なんとなく?」




 それ根拠になってなくね? この人、本当に変な人だ。あんまり関わるのはやめておこう。



「ねね、ちょっとバスケしよ?」

「……次の授業があるので」

「ちょっとだけ」

「いや、つぎの」

「ちょっと、ちょっとちょっと!」

「そんなツッコミみたいに言われても」



 なんでこんなにバスケしたいんだ、この子は?




『黒堂くん、全然授業でバスケしとらんかったし。ええんちゃう?』



 悪いが俺はしたくない。彼女とは接点要らないし



『でも、これ君がやるまで帰れんやろ』



 痛いところをついてきた。



「苦手なら、シュート一本打つだけ! ちょっとだけ? ね? いいしょ?」

「……一本だけなら」

「決まりー! ガチ熱展開舞子祭りだね」



 なんだその言葉。造語で話すな



「あーしはね、天才だから教えちゃる。シュートはね、スポットやて、左手そえたら入るわ」

「……全くわかりません」

「ほれやってみ」

「……一本だけ」




 ポイっとやった。まぁ、外れた



「ありゃ、惜しいね」

「じゃ、帰りましょう」

「そうねぇ……またやろ」

「えぇ……」

「黒堂くん、遠慮して全然授業受けてないっしょ。サボるのよくないくね?」

『サボってるのバレてるやん、ほんまおもろいわ』




 こいつ、俺のことを見ていたのか。うまい具合にサボっていたはずだったが……



「先生には内緒、シークレットっしょ? その代わり、あーしと勉強ね」

「……次から真面目に受けます」

「おお、可愛くない返事……まぁ、黒堂くん不良だからね」

「不良ではないです」

「サボってるじゃん。あーし、こう見えてクラス委員長だーしね?」




 そうだった、彼女がクラス委員長になったんだった。全く、妙なやつに目をつけられた。


 見た目的にはギャルな彼女の方が不真面目だが……意外とサボっている生徒には厳しいタイプの人間だったか。



「……今後はサボりません」

「さぼるっしょ。なんか、目立たないようにしてる感じあるし。またのらりくらりと、かわそうとしてる?」

「してません」

『この子鋭いやん、おもろいわー。魔力はカスやけど、勘はええんちゃう?』




 全く、面倒なやつに絡まれた。早く席替えとか起こってくれ、



 俺はそう願うしかなかった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2024年11月30日 11:00

恋愛異能戦 陰陽師ギャルVS異世界陰きゃくん!! 流石ユユシタ @yuyusikizitai3

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ