第4話 体育

「ねぇねぇ、お兄ちゃんは黒堂って名前だから、黒お兄ちゃんくろおにいちゃんって呼ぶね」

「……いいけど」

「混んでたから、相席してくれてサンキューね。黒堂くん、あとあーしの弟の面倒見てくれてベリーサンクス」

「……あ、そうですか」




 これは呪いか何かか。ゆっくりと味わって食べる俺の計画が崩れた




『まぁ、ええやん。この2人、魔力雑魚やから気にせんでええやろ。ワイ達の方が強いで』



 たこやきの声は俺にしか聞こえない。まったく……たこやきだけでも、五月蝿いのにここに人間が2人も追加されるともはや、ゆっくり食べると言う目的は達成できないと考えるべきか。



「黒お兄ちゃんって、サッカー下手だよね。僕が教えてあげる!」

「いや、俺は基本スポーツ好きじゃないから」



 全く、スポーツは基本好きじゃないんだ。小学から嫌いだった。特に団体活動が苦手なんだ。


 どのスポーツもチーム戦、同時に練習するには相手が必要。相手がいることが前提の物事は好ましくはない。



 特に異世界から帰ってくると尚更だ。魔物と言われる凶暴な動物と戦う際、協力をして戦ったことはあるが、背中越しに俺を殺そうとする存在がいた。


 サッカー? パスすると見せかけて、魔法を放ってくる可能性が……いや、ここは日本、だとしても基本人と信頼感が成り立たない俺は向いていないし、嫌いである。




「お姉ちゃんもそうだよね! 基本人間は足手纏いだから全部自分でやるって言うよね!!」

「こら、余計なこと言うなし」




 どうやら、土御門清子は人格に難があるようだ。自分で全部やるだとは……



『黒堂くんも人格に難あるやろ。ってか、よう言うてたやろ。俺が全部やると』



 そうか、人格に難があるのか。ならばうっかり、異世界に送還しても人格に難があるなら仕方あるまい



『冗談ですやん! 性格最高やと思ってるで』



 さて、お前の夕飯だが海老天を一つ追加しておくか。



『ぐへへ、ありがとございやす!』



 調教とはこうやるのか。今後はちゃんと頭に入れておかないとだ。手下だからな、下手に反抗心を持たれても困る、




「黒お兄ちゃん、お姉ちゃんは学校だとどんな感じなの。同じ学校なんでしょ!」

「あぁ……」

「お姉ちゃんはね、運命に人が高校にいるからわざわざ遠い場所に通学してるんだって!」

「おいい!! 余計なことはシャラップ!!!」





 ……うわぁ。変な人だぁ




『運命の人って何言うてんねん……占いでもしたんかね? 占いとか馬鹿馬鹿しいわ。現実とファンタジーの区別くらいつけておけや』




 異世界で神獣と呼ばれてたみたいだけど、どの口からその言葉が出てきたのか気になるな。

 


 ただ、占いをされたにしてもそれを間に受けて、わざわざ学校を変えるのはちょっとどうなんだろうか。


 教室内のスクールカースト一軍、変わった言動、やはり関わるべきではないかもしれない。




「お待たせしました! 天丼二つ、特盛天丼一つです!!」




 よーしよしよし、ここでようやく天丼の登場だ。1人で落ち着いて待てなかったからな、だいぶ長い時間を待たされる気がする。



「黒お兄ちゃんたくさん食べるんだね!!」

「……黒堂くん、ガンガン食べるんだ。あーし、沢山食べるのグッドでナイスガイと思ってるぜ」



 まぁ、俺だけでなくこっちの手下の分だけどね。さて、取り皿に分けてやるか。俺は、天丼の蓋の部分に適度に分けて、たこやきの前に置いた。



『きたきたきたきた!!!!! なんや! 最高にうまそうやんけ!

目の前に置かれた天丼は、まずそのボリューム感が目を引くやん!!

ご飯の上にのった天ぷらたちは色とりどりで、エビ、野菜、そしてキスなどの魚がバランス良く並べられてる!!!! 衣は黄金色に輝き、サクサク感が伝わってくるようです。揚げたての天ぷらから立ち上る湯気が、食欲をそそるわぁ!!!

──匂いはとても香ばしく、揚げ油のコクと、タレの甘辛い香りが一緒に漂ってきてる!!! 天つゆがしっかりとしみ込んでいるようで、ちょっと甘さも感じる香りが広がりつつ、野菜天ぷらのほのかな香りも、素材の風味を感じるわ!! 見ただけで、一口目を早く味わいたくなる一品やで!!!!』



 こんな美味しそうに食レポできる犬他にいる? しかもまだ食べてないんだが




『やっぱええ国やね。日本。こっから異世界召喚されて、あの地獄世界で勇者やる奴なんていたら不幸すぎて同情してしまうわぁ。ほんまに』



 さて、ここで嬉しいお知らせだ。たこやきという名前の犬が異世界召喚されることが閣議決定した。



『冗談ですやん!! しかも閣議て!? 大袈裟やろ!!』



 それはそれとして、海老天はやはりお前に渡すのはやめだ



『わああああああああああああああああ。わあああああああああああああああああああああああああ。じゃあああああああああああああああ!!!!』



 さっきの食レポの語弊力はどこにいったんだ? まったく……返すぞ、お前の海老天



『海老天は、天丼の中でも特に存在感がすごいわ!!! 衣は薄くて軽やかで、エビの赤みがほんのり透けて見えてるなぁ、衣の表面には、細かな気泡がサクサクとした食感を期待させるように散りばめられてる!! 天つゆがしっかり絡んでいる部分と、ほんのりと滴っている部分があり、程よいツヤを帯びてるわぁぁああ!!

──香りは、揚げたて特有の芳ばしさが立ち上り、エビの甘み、天つゆの甘辛い香りとエビの香ばしさが調和して、食欲を一層そそるわぁぁ!! 匂いだけでも新鮮なエビの風味が伝わってきて、口に入れた瞬間にそのプリプリとした食感が広がるのが想像できるわ!!!』



 食べ物でここまで変わるんだな、生物というのは。語弊力高まりすぎだろ。まぁ、俺もさっさと天丼を食べて変えるとするか。


 対面して会話しながら食べるのは好きではないのでな





◾️





 いやいやいやいやや!!!!



 な、なんなんだよ、この犬




 あーしの弟、土御門清丸が一緒に遊んでいた黒堂くん……そのペットの柴犬。


 柴犬は、つぶらな瞳と丸い顔が愛らしく、短い足でちょこちょこと歩く姿がキュート、忠誠心が強そうで人懐なイメージがした。ふわふわの毛並みが撫で心地抜群な感じもして、時折見せる笑顔のような表情がたまらなく癒される



 と思ったけど、霊力が尋常じゃない!!!!!???




 黒堂くんほどじゃないんだけど、やばすぎでしょ!? なんなのこの犬は!? 絶対普通の柴犬じゃない!!!



 っていうか、あーしが見てきた霊力ランキングでいきなりの2位に躍り出たんだけど!? 1位は黒堂くんだけども!?


 しかも、3位までに異様な差をつけてるし、2位と1位のさもすごいし?! な、何者?


 黒堂くんって……な、なんか凄い男じゃん



 ってか、名前もいいよ。勇雄、勇ましい雄いさましいオスって読むし。やっぱり現代最高って言われてきた陰陽師最高峰のあーしに並び立つ存在なんていなかった。


 霊力の多い奴ランキングはずっとあーしが1位だった。それが黒堂くんにあっさり抜かれ、2位になった。


 そして、謎の柴犬が現れて3位になった。



 しかも2位の柴犬は1位のペットだし……うーん、あーしより霊力が余裕で上か。やっぱりあーしって、強いやつが好きだなぁ……。自分よりすごいやつって見たことないし。



 今まで現代最高と言われてきて、どこか満足していなかったのは心のどこかで、自分を守ってくれるオスを探していた気がする……




「お姉ちゃん! 自分より強いやつが好きって言ってたよね! 黒お兄ちゃんにそういう人いないから聞いてみたらいいんじゃない!」

「ええ!? あ、いや」



 おい、余計ないことをさっきからペラペラと



「だって、僕に、友達にあーしより強くなりそうなオスいない? 将来的に強くなるやつでもまぁギリ許容するわって、聞いてくるじゃん」

「おおおおおおおおいいいいいいいいいいい!!!」




 うあぁ。こ、黒堂くんの眼がちょっと冷ややかになってるだろ!! 柴犬はバカにするような眼で見てきてるし!!




「あ、め。めんごね? あーしの弟冗談を判断できる歳じゃなくてさ……」

「あ、はい」




 絶対、変な奴って思われて……思われてないと信じたい!!!!



「あ、あーしがだそっか? 弟のお礼リターン的な?」

「俺、自分で食ったのは自分で出す主義ですから」

「あ、そそう?」



 やべぇ、この人に嫌われてくないって感じがモロにでちまってねぇか? こういう媚びるこびるの姿勢は余計に嫌われる理由になりそうな気もしなくもねぇ。


 いや、異性との恋も愛もしらねぇあーしには、どうもできねぇ。



 くっ、占いだとここまでは分からんのよ!!



 ここは、一旦落ち着いて……いや、それは雑魚ギャルの思考!! 攻めに出る。守って強い陰陽師がいないように、恋は攻めるべき……な気がする!!



 せっかく、探知術式でこの天丼屋を突き止めたんだから、攻める!!!



「あ、そうだ! 黒堂くんにはお礼あるし……こ、今度、お、おでかけとかさ……ど、土日とか?」



 くっ。おでかけ……デートって言えなかった。チキンだ、あーしはチキンだよ!!



「いや、俺基本的に用事がありますので」



 んで、あっさり断られた!!



「わわわんっ」



 んで、柴犬にも笑われてる気がする!?



 こんやろー、そう簡単には時間をくれないってか? ま、まぁ、いい。今回はこれくらいにしておくか……席も隣だしな!!





 天丼屋を出ると、黒堂は帰って行った。




「お姉ちゃん、黒お兄ちゃんと学校同じなんだ」

「まぁね。つーか余計なこと言い過ぎ」

「えへへ」

「褒めてねぇ……でも、さんきゅ」

「え?」



 

 清丸のおかげでなんか、接点できた気がする。しかも柴犬飼ってることがわかった。今後の話す時の話題に……いや、あれはどう考えても化け物だから、柴犬じゃない……?




「ん?」

「お姉ちゃん」

「ちょいまち、妖魔出たわ」

「え! まじで!」

「ちょっくら、退治してきますぁ? 現代最高の力見せてやんよ」





 今日は体が軽いから、いつもより退治が早く終わった。

















─────────


面白ければ感想、星などで応援してもらえると嬉しいです! 他にも連載がありますので要望等が多ければ続きを書いていきたいと思います!!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る