第3話 犬

高校入学から数日後、初めての土日休み。


土曜日、気分がいい。気分が良すぎてペットの犬の散歩に出てしまっているほどだ。




『なんや? また1人で考えことかいな? ほんまにいつも仏頂面やね』



 心の中に話しかけてくる1匹の柴犬。見た目は普通だが、もちろん普通の犬などではない。


 異世界から持ち帰ってきた手下である。




 元は神獣しんじゅうと言う大層な名前で俺に襲いかかってきたのだが、倒した際に命乞いが煩わしいので奴隷魔法を使って手下にしたのだ。その後、力を封印し、今に至る。



『なぁなぁ、黒堂くん? 勇者の力でワイと一緒にこの星を牛耳らん?』



 関西弁でかなり下衆なことを言ってくる柴犬。名を『たこやき』と言う。



『ほんまはこんな小さい枠組みで生きるのは窮屈やと思ってるんよね? ワイはわかってるで』



 見た目は可愛い柴犬のくせになかなかハードなことを言ってくる。それがたこやきと言うペットである。



『はぁー、この星はほんまにええ空気しとるわ。飯もうまいし、こりゃ侵略したいわぁ。下等な人間にこの星は勿体ないねん』



 基本的に可愛い見た目の柴犬だが、人間を見下しているのがたこやきである。たこやき、と言う名前は手下にしたときに俺が3秒で考えた名前である。



「……さて、散歩はこの程度はいいか」

『待てや!! この程度で散歩は終わらへんで!! もっと歩こうや!! 散歩しようや!!』

「一歩二歩、三歩……よし、帰るぞ」

『散歩と三歩かけてるやね! マジでつまらんねん! ごっつ、歩きたいんや!!!』



 基本的に学校ある日は家で留守番なので、出れる時にとことん外に出たい考えを持っている。



「……なら、近くの公園までだな」

『話わかる主人で助かるで! あと帰りにメンチカツ奢ってなぁ!』




 柴犬だが、元は神獣と言われる大層な生物なので人間と同じような物を食すことができる。それ以上に味覚も人間に寄っているらしい。



「図々しいやつだな。異世界に返すか」

『じょ、冗談ですやん、へへへ。ほんまに勘弁してぇなぁ?』

「……」

『ちょ!! ほんまに帰すのはなしやで!!! あんな飯不味くて、神獣だから狩られる残酷な世界は勘弁やで!!』




 俺がこいつを手下にしたのは、俺と若干境遇が似てたからである。神獣と言うのはかなりレアな魔物みたいらしく、神の如き力を持っていると言われている。



 だからこそ、狩った時は高値で売られ、余すことなく毛皮などを加工をされるらしい。肉もめちゃうまいらしい。



 非常食としても価値がある



「……非常食としても価値があるか」

『ちょ!? わ、ワイはお、美味しくないで……?』

「冗談ですやん」 

『冗談きつすぎですやん!?」





 公園に行くとベンチに座った。周りには小学生とかが沢山いる。俺にもあんな無垢な頃があっただろうか。



『ふーむ』

「どうした」

『あそこにいる子供全員、持ってるわ。って言うかこの世界の連中全員魔力持ってるんやけど』

「異世界でもそうだったろ」

『いや、そうなんやけど。こっちでも同じなんやなぁっと思ってな』



 俺は魔力感知とかが苦手だ。だからこそ、暗殺とかに気づきにくいと言うのがある。それにより、ソロを徹底していた。



 単純な攻撃とかなら得意なんだけどね。



『まぁ、こっちの人間は平和やからね。基本的に全員しょぼいわ。何人かそこそこ魔力持ってるやつおったけど、全員カスやね』




 らしい。




『ただ、あそこのこども連中の中の金髪の子供、あれはまぁまぁやね。ワイの10000分の1はありそうや』

「そうか。そろそろ帰るか」

『もうちょい、風を感じるで』



 


 あんまり分からんが、子供達は大体7歳くらいだろうか。全員で遊んでいるのかと思ったが、その中の1人は落ち込んだ顔つきで和から離れた。


 そのタイミングで他の子供は公園から出て行った。




『なんや、喧嘩か?』

「さぁな」

「うわぁぁぁぁぁぁぁんんん!!!!」




 あぁ、大声で泣き始めてしまった。




『ガキはうるさいねん、だから嫌いやねん。ほんま仕方ないわぁ。行くで? 黒堂くん。ワイの可愛さで笑顔にしたる』




 お前は良いやつなのか悪いやつなのか、ハッキリしてほしいぞ。




「わん!」

「……うぅぅぅ、わ、わぁぁぁっぁ」

「ワン!」

「わぁぁぁぁっぁぁぁぁ!!」

『全然泣き止まないやん! 黒堂くん、出番やで!! 魔法を使ってでも泣き止ませるんや!!』


 


 なんでだよ。人助けなどは大嫌いだ。俺は人を助けることは基本的にしたくない。なぜなら、善意に対して善意が返ってくるとは限らないからだ。このまま放っておいてそいつには泣き続けてもらう



『魔王やん! なんとかしようや。ワイは悔しいねん。下等な人間1人の感情を操れへんのが!!!』



 勇者ごっこは異世界で終わりだ。俺は荒事や面倒なことをしない、たとえその子が俺が助けないことで一生泣いていたとしても



『……』



 それはそれとして、このまま放っておいて帰ると……何か事件があった時、俺が疑われるかもしれない。


 昨今、物騒な事件が多い。人が行方不明とかな



 仕方ない、泣き止んでもらおうか



『……人間ってほんまに面倒やね!』





 泣き続けている子供は金髪の菫色の瞳を持っている男の子だ。



「どうかしたのですか」

「……う、うぐ、うぅぅ」

『どうするん?』




 面倒だが魔法を使うか。



 精神を回復する奇跡リジェウルソ。精神を回復する魔法だ。俺は暗殺をされかけた時、特に信じていた仲間が攻撃をしてきたときメンタルが不安定になる。


 まぁ、克服したがな1000回とかされればね。



 ただ、昔は不安定で泣いてしまっていた。そんな時に、これを使っていた。



 精神を直ちに改善し、元気がもりもり湧いてくる。気分がむくむく回復する。元気になりすぎて、すぐにサッカーしたくなるほどにな




「あ、あれ!! さ、サッカーしたくなってきた!?」

「サッカーやろうぜ……」

「やる!!!」

「ワン!!」




 この子供はサッカーボールを持っているようだ。はぁ、仕方ない



『下等な人間に教えてやるんや。ワイ、神獣の力をなぁ?』




 あの金髪の子供とたこやきは接戦をしている。子供がドリブルをしつつボールをキープするが、たこやきが奪い返す。



『はははは!! ワイは強いんや! やっぱり人間に格の差を見せつける時が1番興奮するわ!!』



 さて、異世界に送り返す準備をするか。こいつは危険だ



『冗談ですやん!? 黒堂くんが1番やで!!』




 なるほど、日本残留決定と……




『恐怖で支配しようとするとか魔王のやり口やん!』

「お兄ちゃんパース!」




 たこやきの隙をついて子供がボールを奪い、俺にパスをしてきた。




「……ほい」



 ぽんと蹴り返した。そのボールは遠くに飛んで木にぶつかった。サッカーはあんまり好きじゃない、って言うかスポーツは得意じゃない。体は強いけども



 木に激突した、ボールはあらぬ方向に飛んでいった。




 ぽんと、ぽんぽんと飛んでいったボールは……ちょうどそこに通りかかった人の足元へ。



「あ、お姉ちゃん!」

「清丸……なーにしてるの? あ、黒堂くん……」



 

 彼女は土御門清子、既にクラスでは一軍認定されている俺が関わるべきではな人だ。


 妙なことに彼女とは高確率でどこかしらで会うことが多い。




『ほぉ、あの女。ワイの魔力の1000分の1くらいあるで? 大したもんやわ。まぁ、下等な人間やし、大したことないけどな』



 どうでもいいな。さて、お姉ちゃんがきたのだから、問題ないだろ、さっさと帰ろう。



「こ、黒堂くん。お、お礼をリターンしたいんだけど」



 弟が世話になったから、礼を返したいと言う解釈であっているだろうか?



「あ、大丈夫です」

「お兄ちゃん! お姉ちゃん金持ちだから、ファミレスでポテト奢ってあげる!」

「大丈夫、お兄ちゃん。夕飯は決まってるから」




 そう、俺は外食を好む男、日本食が好きな俺は……沢山色んな物を食べたいのだ。今日の夕食は天丼と決めている。



『ええやん! 天丼かいな』



 しかも、ちょっとお高めのやつ。




『ええやん! 腹減るわぁ』




 お前にはないぞ




『冗談ですやん!?』




 ファミレスでポテトを食べる暇などない。




「あー、そっかぁ。お礼、い、いらないかぁ。あ、あーし、お礼をリターンしようと思ったけど」



 お礼をリターンするって言い方何? 今度国語辞書でひいてみる価値あるか?




「それじゃ、この辺で」

「あ、うん。また学校で……」

「じゃあね! お兄ちゃん」




 もう、あの子供に会うこともないだろう。今度からは面倒ごとは避けると決めたからな




















「天丼屋で会うとかまじ奇遇じゃん……うん、ガチでマジで奇遇で偶然、鬼偶然」

「お姉ちゃんが急に天丼食べたいって言うかからきたら、お兄ちゃんとわんこ居た!!!」






 神がもしいるなら、俺を嫌っているな。異世界の時から思ってたけど








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面白ければ感想、星などで応援してもらえると嬉しいです! 他にも連載がありますので要望等が多ければ続きを書いていきたいと思います!!


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