第2話 入学式が終わる

 さて、無事に入学式を終えて、俺はホームルームも終えた。本日は入学初日ということであり、午前中で学校は終了だ。



 さっさと帰ることにしよう




「よーし! 全員でカラオケとか行こうぜ! これからクラスの仲間になるんだしさ!!」

「いいねー!」

「行く行くー!!!」




 ──正気か、こいつら




 カラオケボックスは狭い密室……


 隣に音も響きにくい。そんな密室は暗殺をしてくれと言わんばかりだろう? 俺は今まで異世界にて149回密室で暗殺されたことがある。



 教室も同じような密室だが教室はそれなりに広い。だが、カラオケは部屋が真っ暗である、視界が安定しないと暗殺の可能性がある。


 まぁ、日本は治安がいい、だけど、どうしても異世界での警戒心が抜けない。できれば学校が終われば家に帰りたい。


 知識では暗殺がないのはわかっているが、だとしても気分的には行きたくはない。




「行く行く!!!」

「あー、俺はパスするわ」




 お、どうやらあそこの不良生徒、赤い髪で高身長の彼はカラオケ不参加のようだ。



「馴れ合いなんてくだらねぇ」




 そう言って彼は教室から出て行った。今時、あんな分かりやすい不良生徒がいるだなんて。



「なんだよ、あいつ」

「空気読めねぇ」

「もういいよ、俺たちだけで行こうぜ」

「不良って……もう令和だぞ?」




 本当に令和なのに不良は珍しいな。クラスからの評価は低いが……俺からの評価は高い。


 よくやってくれた。不良生徒君。



 君が断ってくれたおかげで、俺も断りやすくなった。いきなり最初に断るとクラスでの立場が悪くなってしまう。


 かと言ってクラスカラオケは参加したくない。彼が断ってくれたおかげで断ると言う選択が生まれた。彼がいなければ断れない、と言う生徒が多かっただろう。


 無論、彼が居なくても断る生徒が居ただろうけど断りやすさは段違いだ



「あー、俺も断ろうかな」

「私もバイトあるし」




 よし、ある程度数が出てきた。なら、俺も断るか




「俺も申し訳ないですが……」




 よし、これで帰れる。教室の扉を開いて廊下を歩いていく。クラスは2階だから階段を降りて下駄箱で履き替える。



 学校から家までは徒歩10分ほどだ。



 転移魔法とか使えば一瞬だけど、だからと言ってこっちの世界では平穏に生きたい。普通の生活、下手に目立たない普通の生活をしたい。


 勇者然り、悪目立ちは自身の首を絞めるだけだ。



「帰るか……そうだ。喫茶店にでも寄って自身へのご褒美を与えよう」



 ──突然だが、俺は日本食が大好きだ!



 日本の食事のクオリティ、美味しさ全てがパーフェクトだ。やはり日本、日本はすらばらしい。


 異世界の食事は俺の口には合わない。香辛料がそもそも全然違うし、味覚の感覚も全く違う。



 だからこそ、日本に帰ってきた時に食べたレトルトカレーには感動した。こんな素晴らしい食事があるだろうなんて。




 そして、日本の飲食店も素晴らしい。どこもかしこも美味しい。異世界の飲食店は毒殺をしてくる場合もあったし、そもそも衛生的に問題ありそうな場所も多かった。




「前々からこの喫茶店は気になっていた……。特製プリンパフェ、これは食べないとな」




 中に入ると、客がだいぶ多い。平日の昼間なのにこんなに多いとはな。休日であれば座ることすらできなかったかもしれないな。


 その点、午前中で学校が終わったのは幸いだった。これは異世界での不運が日本ではプラスに働いている証拠かもしれんな。





「いらしゃいませ。お一人でお間違いございませんか?」

「はい」



 よかった、ちょうど席後一つだけ空いているようだ。相席もできるが俺は1人で座る。



「特製プリンパフェを」

「かしこまりました」





 楽しみだ。日本の食事は素晴らしいからな──





「いらっしゃいませ。申し訳ありません。現在満席でして」

「あ、あー、そうすかぁ……」





 どうやら、新たな客が来たようだな。背中越しに声が聞こえる。しかし、残念だったな。ギリギリ俺の勝利だ。


 まさにタッチの差、さっさとカラオケを断って正解だった。




「あ、あれぇ? こ、黒堂勇雄くん? あーし、隣の席の土御門清子……」

「お疲れ様です」

「き、奇遇じゃん? 黒堂くんも、カラオケ断った感じ?」

「はい、そうですね」

「──あれ? 知り合いですか? 現在店内は混み合っておりまして、これから沢山お客様もいらっしゃる予定ですから、宜しければ相席でもよろしいですか?」




おいおい、勘弁してくれ。出来れば1人で落ち着いて食べるのが好きなんだよこっちは。


だが、ここでいきなり断るのも角がたつ。高校の初日、しかも隣の席だ。断った出来事をクラスで風潮とかされると、俺のクラス評価が下がる。


クラスでの評価は出来れば平均、悪目立ちを避けたい。




「……構いませんけど」

「そ、そう? じゃ、席はシェアってことで? あーし、特製プリンパフェで」

「かしこまりました」




 彼女もプリンパフェとは。なるほど、この店の名物を食べにきたのかもしれないな。



「黒堂くんって、呼ぶね? ありがとね、席入れてくれて」

「いえ、おかまいなく」

「黒堂くんってさ、どこの中学校から来てる系?」

「……雷帝中学ですが」

「あ、そーなんだぁ」




 ふむ、意外と話しかけてくる感じか。どう考えても話しにくい系の雰囲気を出しているつもりだったが。


 しかし、ずっと無言なのも失礼かもしれない。



「逆にどこの中学から進学をされました?」

「あーしはね、帝門中学」

「そうですか……結構距離ありそうですね」

「あ!? ま、まぁ、そこら辺はねぇ? あーし、こう見えて早起きはベリー最強的な?」




 早起きはベリー最強……早起きは得意だから、通学時間が長くても問題はないという解釈で合っているだろうか?



 帝門中学はここから、かなり遠いイメージだったな。帝月高校みかどつきこうこうに通わなくても、別の高校がありそうだが。



 まぁ、通っていない生徒は居なくはない。だが、この高校って新学校とかでもない気がするが。


 部活は有名なのも特段ない気がするが……



「お待たせしました! 特製プリンパフェ二つです!」



 どうでもいいな、さっさと食べて帰ろう。




◾️◾️




 あーしはカラオケを断った。正直、行きたくないし、面倒だし。ってか、あの黒堂勇雄が行かないなら、興味ない。



 あーしとしては、正直彼は気になる。あんな霊力を持っている存在は見たことがない。


 かと言って、現代最高と言われているあーしがここまでの猛者を今まで見逃していたのも不可思議だ。



「つーわけで、彼を追いますかぁ。まぁ、陰陽術でパパッとサーチっしょ?」



 水晶を除くと……彼はどうやら特製プリンパフェが有名な喫茶店に入って行った。



 はーい、向かいーまーす




 ──その後は偶然を装って相席となった




 やっぱり、霊力が尋常じゃないわ……。あぁ、多分、この人があーしに向かってきたら一瞬でお陀仏っしょ。



 心臓が脈打ってる……、心臓を掴まれている感覚



 やべぇ……この感覚癖になりそう。つーか、あーしより強いってだけでピラミッドの頂点確定じゃん。


 運命の相手って黒堂勇雄なんじゃ……


 あーしって昔から感情が顔に見えないって言われてたけど、心臓が動いていないように見えるとかも言われてた……うーん、超テンション上がってるわ 



 まぁ、生まれた瞬間から世界の宝だったし? 陰陽界の至宝だったからねぇ? あーしより凄いやつとか見たことなくて感情が動かなかったんだよねぇ



 やっぱり、自分の想像を超える存在を見て初めて人はときめきを覚えるんだと思うんだよねぇ。持論だーけど?



「その点、黒堂くんはベリーグッド」

「……よくわからないですが、ここのパフェの味はベリーグッドですね。俺は食べ終わったので……」

「あー、ちょいまち、ちょいまち! こ、このあとさ、暇?」

「いや、犬の散歩とか」

「あ、そ、そう? 激仕事てんこ盛り?」

「はい、過剰に予定が入ってます」

「あ、そう」




 まぁ、今日はこの辺でいいかなぁ。隣の席だし、この霊力の塊を見てるだけで未知の気分を味わえるから、楽しいけども。




 明日から、これが隣なのは幸運だったわぁ……






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