第9話 情勢

「あー……。ご、ごめん大福ちゃん。話すのは初めてだよね。えっと、創造主だぞっ、てへっ☆」


 痛々しい空気が流れる。


「え、えっと、ごめんねっ、騙すようなことして。何となくあなたの事を驚かせたいなぁって思って顔を隠して、声も変えてたんだ。あっ、声戻すね」


 ボイスチェンジャーの魔法も切って、彼女へと語りかけていく。


「……」

「ご、ごめん。怒った? 本気で戦う気じゃなかったの。ただ、創造主としてあなたのスペックってどのくらいなのかなぁって気になって……」


 黙り続ける彼女に焦ってしまい、そんな言い訳染みたことを述べていると、大福ちゃんは声を震わせながら涙を流し始めた。


「となりの、豚トロ様……っ!」

「うん、や、やっほー。げ、元気?」


 ヤバい、創造相手ってどんな風に話せばいいんだ。

 ただでさえコミュ障だから話しにくいっ!

 なんて思っていたら、大福ちゃんは号泣し始めてしまった。


「ずっと、ずっと……! お探し申し上げておったのじゃっ!! 生きておられた……っ! 本当にあなた様じゃ! こんな日がやってくるなんてっ!」

「お、おう。そ、そんな泣くほど?」

「心よりお待ち申し上げておったのじゃ!!! 再びあなた様のお姿をこの目にできる日を、我らはずっと……ずっと夢見ておったっ!」

「あ、う、うん?? えっと、死んだとでも思った?」

「あなた様がお隠れになられてからだいぶ久しい。我らはもう絶望しておったんじゃ」

「いやいや、確かに聖女の称号を取るために空けてたけど、三日くらいでしょ?」

「何を言うておる。となりの豚トロ様がいなくなってから、すでに五百年が経っておる。その間に世界は様変わりしておるぞえ」

「は?」


 五百年??

 何言ってんの?


「いやいや、え? それホント?」

「本当じゃ。プレイヤーたちがある日を境に姿を消し、それまで変わることのなかった国境線も徐々に変わっていっておる」

「……マジ、か」


 てっきりサーバーダウンのタイミングからゲームの世界に転生したと思っていたが、時間軸が違うって感じか?


「……そっか、そうだったんだ。みんなはどうしてるの?」

「大変申し訳あらん。『壁に耳あり障子にメアリー』のPMC(プレイヤーメイドキャラクター)たちは現在散り散りになっておる。魔力結晶が尽きかけたころ、この拠点の運営方針で揉めてしもおての。阿修羅マナ、チョコモナカダンボ、ねっておいしいてるてる坊主、ロッテコアラのハイジ、ワラビーはママの味はとなりの豚トロ様を探して外へと出ていってしもおた。わらわとハムスター亜種はここを守ると決め、そのほかの階級の低い者たちもほとんどはここの警備じゃ。とは言っても魔力結晶の在庫がない故、一度倒されてしまった者はもはや復活すらさせられん状況じゃがな」

「魔力結晶かぁ。私もあんま持ってないんだよね。そしたらまずは拠点整備からかなぁ。え、ちょっと待って、宝物殿とかやられた?!」

「大丈夫じゃ。これまで十階層に到達した者はおらん」


 よかったぁ。

 宝物殿の超重要アイテムたちは奪われてないみたいだ。

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