謎の地震と夢

 朝食にこんがり焼いたトーストの上に溶けるチーズをふんだんに混ぜたスクランブルエッグを載せてオーロラと一緒にもしゃりながら、テレビのチャンネルを切り替える。


「どこもかしこも昨日の地震の話題でいっぱいだな」

「ネー」


 昨日の配信中に日本全国を揺らした謎の震度3程の地震。地震大国日本だけあって揺れそのものには特に慌てる様子はなく、怪我人も数人転んで擦り傷を負った程度だったらしい。が、今回の地震には不可解な点が存在する。

 日本だけが"同時に"揺れたことだ。今も地震学なるものを研究している偉い人っぽいおじさんがニュース番組で熱弁しているが、広範囲の地震ならまだ起こり得るが、その場合震源地から距離が離れるに連れて震度も下がるし、揺れるまでタイムラグがある。しかし今回は日本全体が"同時"に"同じ震度"で揺れたのだ。しかも震源地が確認されてすらいない。学のない俺でも分かるが明らかに異常だよなぁ


「と言っても一市民である俺に何かわかるわけでも無いしな。あ、でもオーロラなら何か知ってたり?」

「ンー?寝坊助が起きた、とか?」

「HAHAHA、そういやインドでは亀やら象が世界を支えるなんて話があったな。別の神話ではそいつが目覚めたらこの世界がその存在と夢となり消え果るだなんて言うけど流石に規模がデカすぎるわな」

「……ヘェ、そういう話あるんだ」


 謎に微笑むオーロラにいつもとは違うものを感じながら温かいココアを口にしてホッと息を吐く。

 む、この局だけ相変わらず朝ドラ流してるな。まぁ朝ドラ見るくらいならニュース番組垂れ流しにするけども。


「あ、オーロラ。デザートにヨーグルトあるけど食べるか?」

「タベル!」

「お、おう。ジャム一杯あるから好きなの使いな」

「ワカッタ!でも瓶は開けて!」


 うん、オーロラのサイズ感で瓶の中でもジャムの瓶は特に硬くて無理だよな。一度無謀にもチャレンジしていたが30分ほど苦戦の末痺れを切らして氷魔法で壊そうとしたのには肝が冷えた。ちょっとこの妖精脳筋過ぎません?以降、瓶を開けるのは俺の仕事となった。まぁ、俺のエルフパワーを持ってすれば難なく開けられるからね。

 さて、キッチンに飛んでいったオーロラを見送っているとスマホのバイブレーションが鳴っている。この振動のパターンは電話か?画面上に表示される発信者はドラゴニュートとなってしまった須藤さんではないか。特に出れないわけでも無いし電話に出る。


「はい、もしもし」

『木原さん、おはようございます。朝早くにすみません』

「いえいえ、特に用事があるわけでも無いし大丈夫だよ」

『ありがとうございます。それで、昨日の地震なんですけどそちらは大丈夫でした?配信は見てましたけど』

「こっちは特に。皿が割れるとかも無かったし。須藤さんの方は?」

『私の方はこの体に馴れるための訓練として建てたトランプタワーが崩れただけですね……』

「そ、そうか」


 なんだろう、リアクションが取りにくい物が崩れたんだな。まぁトランプタワーは流石に地震の前では無力に等しいもんな。また建てられると思って頑張って欲しい。


『トランプタワーは置いておいて。すばり聞きますけど、木原さん昨晩夢見ましたか?』

「夢?」


 なんでこのタイミングで夢を見たか聞いてくるのかは謎だが……あまり覚えてはいないがオーロラが筋肉モリモリマッチョの肉襦袢を着てマッスルポーズ取る夢を見たような。なんか俺を指差して何か言っていたような気がするが憶えていない。まぁ夢ってそんなもんでしょ。そして俺が見たものは間違いなく悪夢に分類されるものだ。疲れてはいないはずなんだけど。


「――ってものを見たけど」

『ブッ!……ユニークな夢ですね』

「ジョージ?ナニ話してるの?」

「ん?あぁ須藤さんと夢の話をな」

「フーン?あ、ぶどうジャム開けて」

「ハイハイ」

「アリガトー」


 一ひねりで瓶を開けオーロラに渡すと素直に受け取って自分の席に戻る。その様子から俺が話した夢の内容は聞こえていなかったみたいだな。


『ン゛ン゛ッ!失礼しました』

「大丈夫大丈夫。でも、須藤さん。この話の流れからして、変な夢でも見た?」

『はい、もしかして同じ亜人である木原さんも似たような夢を見たのではないかと思ったんですけど』

「どんな夢?」


 須藤さんが言うには、急に夢の中で意識が鮮明となって周りを見渡すと、森だったそうな。しかも沿見上げると日光すら遮るほどの枝と葉。だというのに真っ昼間のように明るい、かと言って光源らしいものも見当たらない、謎の空間だそうだ。

 夢と察しながらも嫌な予感がした須藤さんは、その場から動かないようにしていたが急に自分の意思とは関係なく足が動き出し森の中を進んでいった。そして、行き着いた先にあったものは、大木に寄り添うように建てられた古びた祠とその祠の屋根を貫いたこれまた古びた剣のような物。


「"剣のような物"って何よ」

『だって、剣っぽいけど私の知ってる剣じゃないんですもん。端っこに杖の持ち手みたいなのありましたし』


 まぁ、そんな珍妙な剣らしきものが刺さった祠に行き着いた夢の中の須藤さん。その祠の前で立っていると、その祠の扉がゆっくり開いたのだとか。そしてその中には――人型の何かがいた。


「曖昧な表現すぎない?本当に覚えてる?」

『覚えてるんですよ。その人型、シルエットのように真っ黒だったんです、某犯人のように。あ、でも顔面のパーツは無かったですね』

「はぁ」


 そしてその人型の何かは須藤さんに向かってこう言ったのだとか。


『"おはよう"って』

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