ぎゅうぎゅう詰めスライム

 さて、オーロラの氷魔法で通常のスライムより厚めに凍結されたファイヤースライム。既に俺が核を傷つけることで絶命したが、その熱はまだ残っており自身の体を覆っていた氷を時間を掛けながらもしっかりと溶かした。露わとなったファイヤースライムの体をオーロラは恐る恐るつつく。核が青の反対色である橙色へと変化しているので生き返っているなんてことはない。突かれたファイヤースライムはまるでプリンのようにぷるぷると揺れる。


「ファイヤースライムなのに温かいね……?」

「進化種であるマグマスライムにでもなれば触れる物を燃やすほどを熱量があるらしいが、ファイヤーだと精々がカイロくらいだな。それもマグマカイロではない普通のカイロだな」


 ファイヤースライムは食材として用いない場合、その温もりを利用して保温クリームの材料など、色々な用途で使われる結構便利な素材なのだ。そのため、冒険者組合では他の下位種のスライムに比べて買取価格が高い。強いて言うなら対照的な存在のアイススライムがちょっと低いくらいか。


コレファイヤースライムも食べられるんだよね?」

「食えるぞー」


 フフフ、調理方法についてはもちろんリサーチ済みだ。今でもどういう料理にしようか思考を巡らせているが、いくらスライムしか出ないとはいえここはダンジョン。何が起こるか分からないからダンジョンから出るまで気を抜かずに行こうか。なんて気合を入れ直したところで、横からクゥと可愛らしい音が。


「……オーロラ?」

「オナカ減った……」


 今日は氷魔法が必要なだけあってずっと使ってもらっていたからな……戸中山ダンジョンであれば隠しエリアで昼食をとる所だが、ベーシックダンジョン故、弁当を広げる場所が取りづらいから昼食もとれない。が、無策の俺では無いのだよ。Aカードをあるものを取り出してオーロラの前にちらつかせる。最初は胡乱気だったオーロラはそれを認識するとすぐに目で追いだし始めた。


「ジャーキー!」

「そうだ、イャナジャーキーだ」

「バカな……あの時食べつくしたはず……っ!」

「ふっふっふっ、そう思って隠していたのだよ。ってか食いつくそうとするなよ。ジャーキーってこういうダンジョン内で腰降ろせない時に食べるものとして便利なんだから。ほらお食べ」

「ワーイ」


 配信の時に出したジャーキーはオーロラたっての希望で普通の人間が食べるサイズだったが、今日のはオーロラが片手で持つことが出来るくらいのサイズだ。これならばオーロラでも探索しながらジャーキーを食べることが出来るだろう。欠点は食べやすいから俺が管理しなければすぐにでも食べつくしてしまうことだろう。ほら、今でさえおかわり要求してる。


「もう帰るだけだからあと1つな?」

「ハーイ」


 なんて言ってはいるが食べ終わったらしっかり要求するんだろうな……しかし俺も甘いだけではないのだ。今日はもうジャーキーは品切れだからな!


 結局もう1つジャーキーをあげたところで俺達は少し面倒な場面に直面していた。


「通ったときにはいなかったはずなんだが……」

「ミッチリだね」


 そう、1体の巨大なスライムが通路いっぱいに所狭しとその体を詰まらせ動けないでいた。その体のまんまな名前、ビッグスライムなのだが、何とも間抜けな姿だ。本来もう少し広い場所で出現するはずなのだが、どうしてこんな悲しいことに。


「コレも凍らせる?」

「いや、こいつはいいや。流石にここまでデカいと鍋にも入らんだろうしな。ただ、核は使い道があるから――"絶命させるのに十分なだけ核に刺され"」


 ここまでの体積だとナイフは勿論、吽形でも届かないのでヤドリギの矢を投擲する。それなりに力を持って行かれたが、後は帰るだけだから許容範囲内だ。俺のオーダー通りにゼリー状の体を突き進み、核に刺さり……核を残し、その体は液状と化す。

 いやぁ、ビッグスライムだけあって核もバスケットボール並だ。全部は使い切れないだろうから、半分は冒険者組合に卸そうか。



「いい具合に売れちゃったな。これもオーロラのおかげか」

「エヘン!」


 そう、次の配信で使わない分のスライムは全て買い取ってもらったのだが、処理が良かったそうで通常の買取よりも色を付けてもらえた。これは間違いなくオーロラの手柄だろう。運転中のため見れないが助手席で鼻高々としていることだろう。


「それじゃ今日の遅めの昼食はオーロラが好きなものを……あっでも何でもいいのか」

「ナンデモよくない!ワック食べたい!」

「ワック?」

「ソウ!店内がダメならドライブスルーってあるんでしょ?近くにあるよ!」


 ……盲点だった。そうだわ、オーロラの言う通りドライブスルーであれば客は勿論店員とも顔を合わせるのも最小限だ。まぁ監視カメラとかはあるだろうが、帽子とサングラスで十分隠れるだろう。

 ヤバいな。そう考えたら俺の口もワックの口になってきた。オーロラにスマホの地図アプリを任せてナビしてもらいワックに直行だ。


「俺はダブチにしようかな……オーロラはどうする?」

「サムライワックの炙り醤油風 ダブル肉厚ビーフ!あとナゲット!マスタードで!」

「決めるの早くない?もしかしてリサーチしてた?まぁ俺もシャカチキレッドペッパー買うかな。ドリンクどうする?」

「コーラのゼロ!」


 帰ったらスライムの下ごしらえもしなきゃな。天日干しは明日でいいとして……あれも作っておかなきゃな

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