【美味いは】味噌煮の残り汁といえば【正義】

『千歩譲って養命酒とかじゃダメだったんですか』

「いやあれ食中酒に向いてないじゃん?そもそも家にないからなぁ……」


 コメントが言うように健康に気を使うという点であれば養命酒が一番なのかもしれない。家にないのも本当だが、実は俺の中で養命酒の優先度はかなり低い。手持ちに養命酒しか無ければ飲まないレベルだ。故に買い物したとしても養命酒は買う可能性はそうそうないだろう。


「さ、そんなことより食べようか。結構腹減ってるんだよね。いただきます」

「イタダキマス!」


 オーロラと共に両手を合わせて挨拶をする。最初に手を付けるのはわかめとしめじの味噌汁。箸でワカメを掴んで口にし、そのまま味噌汁を口の中に流し込む。シャキシャキとしたわかめと出汁の効いた温かい味噌汁がそれだけで口内を幸せいっぱいにする。


「ほぅ……」

「オイシ!」

『インスタント味噌汁あったかな』

「ところでワカメは髪の毛にいい成分が含まれるというが」

『また髪の毛の話してる……』

『俺はまだ大丈夫だから』

『大丈夫と思っている時期が一番ヤバいんやで』


 ワカメと言えば髪、髪と言えばワカメということで話題を振ってみたら案の定一部の視聴者が釣れてしまった。俺の男の時?男の時は……まぁいいじゃないかそんな話。


『ジョージの髪ってめっちゃサラサラだけどどこの使ってるの?』

『案外男性用の使ったままだったりしてw』

「確かに男性用シャンプー使っていたんだけどね。知り合いに話したらものすごい怒られて今ではその知り合いに勧められた女性用シャンプー使ってる」

『知り合いGJ』


 ちなみにその知り合いというのは戸中山ダンジョンの受付嬢である友風さんのことだ。男性用をそのまま使ってコンディショナーとか一切使っていないことを白状すると女性にとってどれほど髪が大切なのか、手入れが必要なのか小一時間ほど説かれた。あの時の友風さんはそれはそれは恐ろしかった。


「今はその人がおススメしてくれたものを使っているよ。ただ、風呂の後の髪の手入れがどうしてもわからなくてねぇ……そしたらオーロラがどこから覚えてきたのか自分がやるだなんて言い出してそれから任せてる」

「ジョージの髪はワタシが守る!」

『頼むオーロラちゃん、守護まもってくれ』


 まぁそんな訳で、今俺の髪の毛はオーロラのお手入れによって生かされている。俺としてはぼさぼさじゃ無ければいいと思うのだが、それでは駄目らしい。

 気を取り直して次は鯖の味噌煮に手を付ける。これは中々の自信作だが……おぉ、箸で身を押すとスッと特に力も入れずに切り分けることが出来た。早速口に運ぶとぶわっと広がる味噌の風味。あぁ、これはたまらん。


『凄い速さで茶碗を手に取ったな』

『その画面巻き戻せるか?』

『ライブ中なんで自分でやってクレメンス』


 口に入れた瞬間、脳が信号を送る前に俺の手は茶碗を掴んで中の玄米ご飯をかっ込んでいた。オーロラはまだ鯖の味噌煮に手を付けていないのかちょっと驚いた顔でこちらを見ているが、すぐに味噌煮を食べると俺同様に玄米に食らいついていた。

 あっという間に空っぽになったお茶碗。俺もまさか味噌煮二口でご飯一杯食いきれるとは思わなかった。


「ジョージ!これ凄い!」

「あぁ、手間暇かけた甲斐があっただけあっていつもより美味い。ありがとうクックルパッド!」

『クックルパッドなんかい!』

「そりゃそうだよ。簡単な物ならまだしも、手順が必要なものに関しては俺はレシピサイトを見るね」


 クックルパッド、あれは素晴らしいサイトだ。あれのお陰で俺の食事事情が成り立っていると言っても過言ではない。なお、俺自身はレシピを投稿とかはしていない。俺発案の物となると下手すりゃ丸焼きとかそういうレベルの物しか書けなさそうだし。


「そうだ、オーロラ。この味噌煮なんだけどな……実はあと一回変身を残している。」

「ナン……ダト……?」

「しかしその変身のお披露目は食べ終わってからね。ほら、冷奴とか納豆も食べなきゃ」

「ウン!」



 食った食った。用意していた健康メニューが鯖の味噌煮の残り汁とご飯残してすっからかんだ。ビールも結構な数開けてしまったなぁ。


『あのジョージさん、暴飲暴食って普通に健康に悪いと思うんですがそれは』

「美味しいのが悪い」

「ジョージ!ミソニの変身早く!」

「ん?おぉそうだったな、それじゃあ準備してくるからご飯よそって待っててな」


 どっこいしょと腰を上げて配信部屋からキッチンへと向かう。準備と言っても特に時間がかかるようなことでもない。ササっと焼くだけなのだから。

 出来上がった物――俺とオーロラ2人分を1枚の皿に載せて部屋に戻る。


「お待ちどおさま」

「マッテマシタ!」

『目玉焼き?』

『なるほど、それかぁ』


 一部視聴者は察してくれたようだ。そう、俺が今しがた焼いてきたのは半熟目玉焼きだ。目玉焼きが出てくるとは思わなかったのだろうオーロラは首を傾げ、普通にご飯と一緒に食べるのかと聞いて来たが、俺がそんな普通なことをするわけがない。いや、するけども。


「これをな……こうするんだ」

「エエッ!?」

『あー、いいですわぞ^~』

『今日一腹減る映像だわw』


 ホカホカと湯気を立ち昇らせる玄米ご飯の上に、鯖の味噌煮の残り汁を回しながらゆっくりと垂らす。やがて、玄米ご飯は残り汁色に染まりキラキラと光を反射する茶色となる。これだけでも垂涎ものだが、まだ終わりじゃない。そのご飯の上に目玉焼きを乗せ、黄身の部分を真っ二つ。すると半熟故にドロッとした黄身が姿を現し、ご飯と絡む。


「オイシイやつデショ!ジョージ、ワタシのも!」

「ハイハイ」


 すぐに俺が作ったそれの美味しさに気付いたのか自分の茶碗を持ち上げて急かすオーロラ。それに俺が苦笑いで答えて同様にオーロラのご飯にも残り汁を注いで目玉焼きを乗せる。この食べ方はテレビで見たものを真似してからずっとやっている。生卵でも美味しいと思うのだが、目玉焼きにすることで白身もまた美味しく食べることが出来るし、ほどほどに火が通った黄身と鯖の旨味が染み込んだ残り汁ご飯が最高に合う。


「スゴイ!オイシイ!ジョージ、これおかわりあるの!?」

「あるけど……一杯だけな」

「ナンデ!?」

「そりゃこの後に食後のおつまみにポテチがあるからな」

「ナラ仕方ないね」

『????????』

『知らないのか?ポテチはじゃがいもから出来ている。じゃがいもは野菜だからカロリーゼロなんだぞ?』

『カロリーゼロ理論やめろ』

『油で揚げとるやろがい!!』

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