酒飲み同士は惹かれ合う…?

「黒コショウかけてシンプルに焼いたものもいいですけれど、はちみつや生姜、にんにくを揉み込んで一日置いて焼いたのも柔らかくて美味しいんですよね。私としては速く作って早く食べたいからすぐ焼いちゃうんですけど」

「リブ2~3本持って帰る?」

「い、いやそんなつもりじゃ」


 そう言いつつも、須藤さんの目線は俺が解体して切り分けたスペアリブに釘付けだ。気持ちはわかる。少ししか話していないが、須藤さんは間違いなくかなりの酒飲みだ。それも俺と同じ様に酒単体ではなく、美味しい物を食べながら飲むタイプの酒飲み。

 そんな彼女がこんな立派なリブを欲しがらないなんてことはあるだろうか、いやない。一種の布教のためにも受け取ってもらえるように誘導するか。


「いやぁ、こんなに大きい突進猛猪だと私一人じゃ食いきれないんだよね」

(嘘だけど)

「でも買取してもらえば……」

「そんなに金に困ってないからね。買い取ってもらうとしてもリブの2~3本なんて誤差だよ誤差」

(これは本当)


 突進猛猪は猪のモンスターだけあって、戸中山ダンジョンの中では人気のあるお肉だ。しかし、木々鹿よりは狩るのが難しいだけあって比較的高値で買取されている。が、今の俺からしたら本当に誤差もいいところだ。


「……いいんですか?」

「いいよ、遠慮しなさんな――そもそも突進猛猪をここまで連れてきたんだから須藤さんにも貰う権利普通にあるんだけど。リブだけとは言わず半分ほど持ってく?」

「リブで結構です!」


 俺としては貰ってくれても一向に構わないんだけどなぁ。これ以上話したところで、須藤さんの意志は揺るがないだろし、リブまで貰ってくれなくなる可能性もあるからAカードからナイロン袋を取り出しリブを4本詰めて須藤さんに手渡す。


「1本多くないですか?」

「サービスだよサービス」

「ありがとうございます。でも、流石に貰い過ぎです!せめて獲ったキノコとか……」


 そう言うと須藤さんは自身のAカードからどさどさと彼女が獲っただろうキノコを取り出す。その量は増えていき――見上げるほどとまでは行かないでも俺の膝ほどの小さなキノコの山が出来上がった。目を疑ったのがその中にはマジカルマッシュルームが混じっていた。


「あっ、すいません!このマジカルマッシュルームは無しでお願いします。アヒージョにして食べてみたいので……!」

「アヒージョ」

「はい。マジカルマッシュルームは見た目に相反して美味しいって聞いたので、カリッカリにトーストしたバゲットに載せて食べてみたかったんです!」

「〆は?」

「パスタで!」


 くっ……!それは想像するだけでも美味しい奴だ。口ぶりから須藤さんはマジカルマッシュルームを食べたことは無いのだろうが、そのチョイスは推せる。寧ろ俺もキノコのアヒージョを食べたくなってしまった。まぁ?特に手間が増えるような物でも無いし、1品追加しても問題ないだろう。酒が余分に減るだけだ。

 というか、須藤さん。マジカルマッシュルームをスキル云々では無くて珍味として見ているなこれは。まぁいいや、彼女の味の探求を邪魔するつもりは無いし……おっ、これは


「トリュフなんてよく見つけたね」

「あー、これは……その」


 2つのかなりの大きな黒トリュフ。こんな大きさのトリュフは俺も見たことは無い――というか、トリュフ自体見つけたことが無い。地中に埋まっているキノコをどうやって見つけるんだって話だ。いくらエルフになって感覚が強化されたと言っても匂いにそこまで敏感になったわけでも無いし、オーロラも鼻がいいわけではない。

 犬型モンスターを連れた冒険者が稀に見つけて高額で買取してもらうってのは聞いたことがある。まさか個人で見つけるとは。軽い気持ちで言ったのだが、須藤さん何故か言いよどんでいる。


「実はさっきの突進猛猪が何かを掘り起こしているのを見つけて、去ったと思ってその地点を見に行ったらまだ食べられていないトリュフが2つほどあって……」

「まさかそれを採る所を突進猛猪に見られて追いかけられていた?」

「はい……!!」

「気を付けなね?」

「身に沁みました……!」


 まぁ結果逃げ続けて俺のところまで来れたのだから、運も走力も体力もあるんだろうな、この人。

 という訳で、須藤さんからのお礼として黒トリュフを1つ貰うことにした。今度、スライスしてイャナ肉のステーキに振りかけて食べてみるか。



 その後、何事もなく戸中山ダンジョンから脱出することが出来た俺達は各自受付で買取をしてもらい、駐車場にて別れることにした。


「本当に今日はお世話になりました」

「気にしないで。さっきも言ったけど、今度は須藤さんが誰か困ったときにでも助けてくれればいいから」

「分かりました、誰かを助けられるような――木原さんみたいな冒険者を目指します」

「え゛」

「それでは」


 須藤さんは深々と頭を下げ、突進猛猪のリブが入ったナイロン袋を大事そうに抱えて去っていった。俺みたいな冒険者……かなり異質だと思うからやめた方がいいと思うんじゃが。

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