普段食べるものの高級版買うのちょっと抵抗あるよね

「いやー、仕方ないけど大量に届いたな。配達の兄ちゃんにはすまないことしたかな」


 届いた。届いてしまった。ミシュラン店も御用達の最高級魚沼産コシヒカリ――20キロで約23,000円也。正直家電いっぱい買った時より緊張したし手も震えたよね。手の震えはアルコール依存症のものではないので悪しからず。

 とりあえず届いた米を確認するために早速開封して手のひらに何粒か載せて観察する。


「見た目は……米だな」

「オコメだもん」

「ごもっともで」


 これで小豆みたいな見た目だったらクレーム物だもんな。しかし、残念ながら俺の感覚は男の時と何ら変わっていないから、当然パッと見ただけではこれが良い米なのかはよく分からない。ただ、良い袋に入っているからいい米なんだろうな~くらいである。


「さて、こっちがごはんのお供詰め合わせか」

「いっぱいあるね!」

「だな、ご飯いくらでも食べちゃえそうだわ。仮に余ってもおつまみとして食べれるだろうしな」


 別の箱に入っていたのは、視聴者たちから提供された次回の配信のテーマである、ごはんのお供の情報から選ばれたお供たちだ。大体が瓶詰や缶詰だったりするが、パウチタイプのものもあったりより取り見取りである。無論、その中には俺の定番でもある鮭のルイベもある。配信前につまみ食いをしたいところだが、そこは我慢である。


「後は酒……これはいつも通りとして。おーい、親分!」

「ピギー?」


 何ー?とでも言っているかのように扉の陰から顔を出す親分マンドラゴラ。てっきり庭の植木鉢にいるかと思ったら家の中にいたのかよ。


「この前頼んだ奴届いたぞ」

「ピギッ!?ピギーッ!」


 Amazonで酒を物色していた時にそれを目にした親分がそれはもう必死におねだりしてきたのだ。親分にはマンドラゴラのお世話や庭の手入れなど頑張ってくれているからな。お礼の意味も込めて買っていたのだ。様々な種類が入ったクライナー20本セット。ブレねぇなこいつ。

 追加で何かおつまみのような物もいるかと確認したところ、タブレット型の肥料を所望された。……いや、植物らしいなとは思うけどおつまみになるのか?食い合わせいいのか?


「ほら、計画的に飲み食いしろよ」

「ピギッ!」


 親分マンドラゴラは至極大事そうにクライナーが入った箱を両手で持ち、このずっしりと重い肥料は――


「ピッ」

「うん?なんだって?」

「箱に載せてって」

「これ20キロあるんだけど、大丈夫か?俺が持って行くぞ?」

「ピギギッ!」

「平気ダッテ」

「本当か?無理ならちゃんと言えよ?」


 俺の膝ほどの大きさしかない親分に持てるとは思えないが、本人がここまで主張しているのだから大丈夫なのだろう。……大丈夫だよね?そっと、クライナーの箱の上に肥料が詰まった袋を降ろし、手を離す。あの、親分完全に視界隠れてませんか?あ、でもちゃんと持ててるな?お前、オーロラよりは力あるんだな。オーロラなら絶対無理だぞ。


「ジョージ、失礼なコト考えてない?」

「ナイナイ」


 おっと危ない。察しのいいオーロラだこと。さて、親分だが視界が隠れたにもかかわらず、一切の迷いなく庭に向かって歩みを進めていた。まるで別の視点を持っているかのようにスムーズだ。もしかしてあの目は目じゃないとかそんなオチ?オーロラもオーロラだが、親分も親分で中々不思議な存在だよな……?



「よし、こんなもんか」


 昼頃、届いたコシヒカリを研ぎ土鍋の中で浸水させる。理想を言えば、全部土鍋で炊いたものを食べたいのだけれど、流石に配信中に別の土鍋の様子を見ながらご飯を食べるというのは現実的ではないので、6合は土鍋でそれ以外は炊飯器でということになった。炊飯器もいいものなので、土鍋にも負けていないだろう。


 浸水は30分させればいいらしいので、それまでの暇つぶしとしてTwitterを確認。えーっと、何々?


「へぇ?韮間ダンジョンにねぇ」


 適当にタイムラインを眺めていたら馴染みのある「韮間ダンジョン」の文字が。韮間ダンジョンも田舎寄りのダンジョンなのでTwitterでは話題になりにくいのだが、珍しく韮間ダンジョンに関しての記事があがっていた。それもリツイートが結構ついていた。


 内容を確認してみると、ダンジョンの攻略にアメリカの人気ダンジョンアタック系配信者のラバーとソニックが名乗りを上げたんだとか。意外な奴らの名前が挙がったことに思わず顔をしかめてしまったが、俺とは関係のない事か。


 なんでも、ダンジョン攻略の様子を配信することを条件に、韮間ダンジョン攻略パーティに参加をすることになったらしい。――それで済めば「ふーん、頑張ってね」くらいで終わったのだろうが、記事の最後に「かの有名な配信者、ジョージも韮間ダンジョンに潜っていると配信内で語っていた。これはもしかして夢のパーティ結成か?」なんて書かれていた。いや、行かんが!?寧ろそいつらがいるなら猶更行かんが!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る