ちょっとした打診

「大して調味料を入れていないのにこの旨味か。恐竜、侮りがたし」

「だしつゆとはまた違ったオイシサ!」


 朝、配信内で飲んだマグイャナの卵スープに冷凍うどんをぶち込んで小口ネギをパラパラッと振りかけただけの簡単おうどんをオーロラと一緒に啜っているが、一度口に入れるとすぐにもう一口と箸が進んでしまう。いやぁ、これは二日酔いの朝に持って来いですわ。俺もオーロラも二日酔いなんてしてないけど。


 今日の予定は無い。強いて言うなら休むのが予定だな。昨日の韮間ダンジョンは想像以上に疲れたからね、もはや何もしないくらい休んでも誰からも文句は言われないだろう。どこぞに所属しているわけでも無いし。

 今日が休みと聞いたオーロラは家電量販店に行った時に合わせて買ったゲームをするつもりらしい。


「そういや、マグイャナ結構苦戦した割には宝箱ドロップしなかったなぁ」

「ソダネー」

「もしかして、あいつもちょっと強いだけの雑兵クラスだったのなら、あの階層相当だな」

「でも、頑張れば行けるんじゃないの?」

「頑張ればね。でもま、マグイャナの肉もイャナの肉も十分あるから頑張っていく必要ないんだよな。オーロラは行きたい?」

「ジョージが行かないならベツニー?」


 ちゅるんとうどんを一本啜り切ると、無関心そうに首を振るオーロラ。オーロラが行きたいって言うのならやぶさかでは無かったが、本当に興味無さそうだな。それならしばらくは行かなくていいか。


「ジョージ、そんなことよりもうどんおかわり!」

「もうないが?」

「何でッ!?」


 そんな絶望的な顔をされましても。


「残ってた冷凍うどん6玉の内、3玉ずつ食べたからでしょうが」

「……そんなに食べてたっけ?」

「食べてたよ?俺もするする食べちゃったから人の事は言えないけど」


 ちなみに俺は「これが最後の1玉だからね?」と念押しはしたのだが、オーロラは届くや否や啜りに入ったので聞いてなかったのかもしれない。まぁ聞いていようと聞いていまいが、最後は最後なのでおかわりが降って湧くわけではない。

 それでもまだ食べるつもりだったのだろう、オーロラは涙目で机に突っ伏した。流石に見ていられないので助け舟を出すことに。


「ご飯は炊けてるから、お茶漬けっぽくかけて食べるか?」

「っ!食べる!」


 絶望が一転、希望へと姿を変えた瞬間を俺は目撃した。そんなオーロラの姿がどこか可笑しくて、俺は軽く笑いながら、オーロラの器と俺の器を一旦回収して席を立った。



 ム、皿を洗っている最中に電話か。発信者は……武道さんか。何か久しぶりな気がするな。待ちなされ待ちなされ、今手を拭いている所なんだ、切ってくれるなよ……?よし、間に合った。


「もしもし」

『おはようさん。譲二さんパーティ組む気ある?』

「無いけど」

『せやろな、ほなまた』

「いや、何でパーティか聞いてもいい?」


 聞いてみると話はこうだ。昨日、俺が配信で韮間ダンジョンを潜ってマグイャナを斃したことを知った誰かしらさんが、韮間ダンジョン新階層の攻略のために俺の力を借りたいとかで冒険者組合に俺にパーティを組んでもらう様取り次いでほしいという申し出が何件かあったらしい。


 韮間ダンジョン側も最初は断っていたのだが、ダンジョンの攻略が難航しているのは事実らしく、その攻略パーティの熱意に押され、打診だけしてみるということで、普段戸中山ダンジョンをベースとしていることから武道さんにその相談役のお鉢が回ってきたのだとか。


『聞かんでも分かるって断ったんやけどなぁ、一度でいいから一度でいいからうるそーてな』

「パーティ組むのも論外だけど、さっきオーロラと話してしばらくは韮間行かないつもりだしなぁ」

『あぁ、えぇねんえぇねんそこは。緊急という訳でも無いし、強制力なんて無いしな』

「てっきり無理やりにでも行かせるのかと」

『ハハハッ!強制させて譲二さんがそれを配信で愚痴零したらそれだけで炎上待ったなしやからな。そんな見え見えの危ない橋は渡らんわ』

「それもそうか」


 今のところ、冒険者組合に悪感情は無いから俺自身特に何かをするつもりは無いけど。あー、でも俺はよくてもオーロラの逆鱗に触れたらオーロラ何かしちゃうかも。喋れるようになったしパソコンの操作も出来るし。


『しっかし、今度は韮間ダンジョンの方に人が行ってウチが暇になってもうたわ。譲二さん来るなら今やな。……代わり映えせぇへんとこやけど』

「いやいや、それが気に入ってるんだし」


 韮間ダンジョン及び、申し出た冒険者パーティには上手く伝えておくと告げ武道さんは電話を切った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る