遂に来てしまった問題

「うん、もうダメだなこれ!」

「何がダメなのー?」


 キッチンで仁王立ちをして叫ぶ俺の声に反応してオーロラがやってくる。以前から懸念していたことがことが遂に現実のものとなった。俺の目線の先にあるものは冷蔵庫。そう、スーパーで買ったものやダンジョンで狩ったありとあらゆる食材が詰め込まれた冷蔵庫だ。

 エルフになってからモンスターを狩ることが増えてきたが、特に先日討伐した"戦艦"と呼ばれる追跡ガツオの残りの分を引き取りに行ってきたのだが……うん、冷凍庫を含めて全部入りきらない。勿論、入れる前に俺とオーロラで幾分か消費させたつもりなんだが、いくら俺達が大食いでも胃の限界と飽きと――料理疲れと言うものがある。完全敗北である。


「新しい冷蔵庫、買わなきゃダメだなこりゃ。オーロラ、とりま追跡ガツオは凍らせておいてくれるか?」

「オーケー!」


 入りきらなかった分は冷凍しておいて発泡スチロールに入れて追加でオーロラに氷を出してもらって一旦はこれでOK。しかしずっとこのままではいられないので、かねてから考えていた冷蔵庫を買いに行こうか。一応ネットでも買うことは出来るのだが、大型家電となると俺も現物しっかり見てから買いたいから。

 残念なことに田舎故に小さい電器屋しかないから少し遠くの街の家電量販店に出向かなければならない。外出しなければならないということは……


「着替えるか」

「ワーイ!」


 オーロラさん、あなたやっぱり俺が女性服着ることに楽しみを見出していませんか?まぁ少なくとも俺よりも女性服に関するセンスは間違いなくあるから参考にさせて貰う。だからその、あまり時間を掛けない方向でお願いしますね?なるたけ早めに行きたいから。




「いらっしゃいませー」


 店員の挨拶に軽い会釈で返す。おい、背中に視線を感じるんだが、店員こちらを見てきていないか?自分の仕事をしてください。

 はい、そういう訳でやって来ました家電量販店。スカートは断固阻止できたよ。しっかりパンツスタイルだ。俺がスカートを履く日はまだまだ遠そうだね、それでいい!

 まぁ俺のファッションなんてさて置いてパッと店内を見渡す。うーむ、やはり家電量販店はいい。なんだろう、底知れぬワクワク感があるよね。買う目的が無くてもフラーっと立ち寄って時間を潰すのにピッタリなスポットだったりする。


 無論今日は目的があるからこそ来ている。えーっと冷蔵庫冷蔵庫……


「おっ、ルンバあんじゃん。へぇ、結構値段に差が合ったりするもんなんだな」

「へぇ、中々オシャレな空気清浄機」

「低温調理器かぁ……うーん、悪くはないな。でもそこまでして拘るつもりもないなぁ」

「へぇ、入れておくだけで野菜炒めが……野菜炒め!?」


 ヤバい、家電量販店色んな所に目移りしちゃうなぁ、予算なんてあってないようなものだし、ここは思い切って――ム、カバンが滅茶苦茶に揺れ始めた。これはオーロラからの合図!そうだ、オーロラには事前に俺がもたついていたらカバンの中で控えめに暴れて俺の正気を取り戻させるように頼んでいたんだった。

 そうだそうだ、当初の目的の冷蔵庫を見なきゃだ。冷蔵庫のコーナーに行き着くまでにあらゆる誘惑があるのが悪いよ。どうしても目移りしそうだが、何とか堪えて冷蔵庫コーナーに到着した。到着したのはいいんだが……こうしてみると結構種類あるもんなんだな!?一番高い物を買えばいいなんてことでもないだろうし、はてさてどうしたものか。そう、悩んでいた俺だが、すぐに救世主がやって来た。


「いらっしゃいませー、冷蔵庫をお探しですか?」

「アッハイ」


 来ました、服屋並みに客にグイグイ来て接客する家電量販店の店員。ただただボーッと商品を眺めているときであれば、愛想笑いをしながらそっとフェードアウトしたものだが、今の状況だと渡りに船だ。相手は俺のことを鴨かも知れないと思っているだろうが、俺からしてもお前は鴨なのだ!あぁっ、鴨肉食べたくなってきた。


「失礼ですが、お客様ご家族様は……?」

「1人です」

「かしこまりました。では、お一人暮らし様冷蔵後ですと100Lから300Lの物をお勧めしますが」

「あー、いや。おr……じゃない私200Lの物を使っているんですけど、冒険者でちょっと狩ったものが入りきらなくなって……」

「ほう、冒険者!」


 あ、あれ?店員さん、目の色が変わった?明らかに声の勢いも強くなったね?


「お客様、ちなみにご予算の方は……」

「糸目をつけないくらいにはあります」

「精一杯!ご案内させていただきます!!」


 お手柔らかにお願いしますね?

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