バカデカカツオのリザルト
「はぁ……まさか"戦艦"を討伐してくるとは思いませんでした」
追跡ガツオを討伐して勇んで受付ロビーに帰ってきた俺を迎えたのは馴染みの男性職員の溜息だった。目頭を押さえて天を仰いでいる。なに、感動しているの?それとも呆れているの?俺の予想では呆れている方だと思うのだが。
というか、追跡ガツオとは言わずに戦艦と言ったな、この人。もしかしてあの追跡ガツオ、異名でもあったのか?
「本来であれば、追跡ガツオというのは木原さんの狩ってきたサイズの半分以下が一般的なんです」
「じゃあ2倍のサイズのあれは?」
「同胞や他のモンスターを斃して喰らって立派に成長した姿……でしょうか。ボスに匹敵する個体だったでしょうね」
あいつ、同胞喰らいだったのか、結構業の深いモンスターだったんだな。加えてボスクラスのモンスターだったと。まぁそれに違わぬ火力と知性の持ち主だったよね。あんな方法でヤドリギの矢の対策をされるとは思わなかった。
しかし、倒せたから結果オーライと言うものだ。それにボスクラスと言うならば、味にも期待できると言うものだ。ただ、懸念点があるとするならば――
「これ、解体してもらえます?」
場所を移して相模浜ダンジョンのバックヤードにある解体所。ここでは冒険者から有料で依頼されたり買い取ったモンスターを解体する場所だ。解体費用がそれなりにかかるため、基本俺は自分で解体して節約しているのだが、今回は話が別だ。
机には載り切れないから仕方なく床に置くことになったが……それでもデカいな。これが本当にカツオのモンスターかよ。どんだけ他のモンスターを食べたんだよ、末恐ろしいわ。
とまぁ、これだけのサイズだと流石の俺も下手に解体するわけにもいかないので、ここはプロの皆様方にお任せしようと、ね?
解体班の責任者のおやっさんとでも言いたくなりそうな風貌をした男が無精ひげを撫でながら真剣な眼差しで追跡ガツオを見上げる。
「まぁ解体自体は問題は無いがね、こりゃすぐには無理だなぁ。全部となると、夜までかからぁ」
「あー、とりあえず普通のカツオの短冊位のサイズをくれれば俺としては大丈夫です。今日食べたいのはそっちなんで」
「あン?嬢ちゃんたたきでも作んのか。そりゃいいな。分かった、ちぃと待ってな」
そう言うと、解体のおやっさんは腕まくりをして解体用の包丁を片手にズンズンと重みのある足音を立てながら追跡ガツオへと向かった。見るからに凄腕そうだから期待できそうだな。
さらっと流したけど、今嬢ちゃん言われたな。俺の事知らなかったり?その方が気楽と言えばそうかも知れないが。おや、男性職員さん。
「木原さん、確認ではあるんですけど、追跡ガツオは買取をさせていただけるということでよろしいんですか?」
「いいですよ。あんなサイズ、俺の冷蔵庫の中身が全部カツオになってもお釣りがくるくらいですから。短冊サイズを何冊かと……あれ、カツオにもトロ的な部位あるんですっけ?」
「ありますよ。"ハランボ"という部位ですね。恐らくこの大きさですからハランボも比例してかなり大きいですが」
「じゃそれと……胃袋と心臓もください」
ダメ元で聞いてみたけど、本当に鮪で言うトロに当たる部分あるんだな。それならば味わわない手はない。こちらもいくらか貰おう。珍味と呼ばれる胃袋と心臓も貰っておこう。あとは……そうだ。
「目ん玉も貰えます?」
「食べるにしてもコアな部位ですねぇ……2つあるうちの1つはいただけないでしょうか。研究用に欲しがるところがあるんですよ」
「目玉を?」
「なんでもモンスターの視界を研究するのにサンプルが欲しいとかなんとか」
「いいですよ、1つ食べられるならそれで。――ま、引き取るとしたらこんなところですね」
「ありがとうございます。買取値については勉強させていただきます。まずは、解体終えてからになりますけど」
そこはまぁお任せということで。10分後くらいに解体のおやっさんが解体したての追跡ガツオの皮つきの切り身を持ってきてくれた。あぁ、保存用に氷まで付けてくれて……いや、オーロラ対抗しようとしないで。ここは厚意を素直に受け取っておこう。いえ、何でもありませんアハハ……
赤々とした追跡ガツオの身は前の螺子鮪に負けず劣らず赤々として宝石を連想させる輝きを放っている。フフフ、こいつを持ち帰って表面を灼熱で炙ってやるからよぉ、楽しみにしてナァ!
さて、こうして満足いく結果に終わった今日の狩りだったんだけれど、追跡ガツオのデカさのインパクトにやられてひとつだけ忘れていたことがあった。それは、あんなに強敵だったのにもかかわらず、宝箱がドロップしていなかったことだ。ガッデム!!
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