冒険者組合からの依頼?

 夏の陽気が丁度いい具合の温度になる早朝。今日は武道さんに月に一度のマンドラゴラを渡す日なので、事前に連絡が合った通り武道さんが玄関に立っていた。朝もはよから大変なことで。


「ハイ、今月のマンドラゴラ」

「おおきに。……やっぱり繁殖に成功しとるんやな」

「見とく?」

「仕事増えそうやからやめとく」

「それが賢明かも?」


 俺のマンドラゴラ畑を見たところで、混乱するに決まっているし、彼の言う通り余計な仕事が増える可能性だってある。今現在も俺と仲が良いからってこんなことさせられてるんだから。


 労いの気持ちも込めて朝食にと握っていた濃縮つゆと天かすと青のりを混ぜ込んでにぎったおにぎり――世間で言うところの悪魔のおにぎりを銀紙に包んで渡したところ、非常に感謝された。冬子さんを起こすのは忍びなくて朝食を食べずに出てきたんだとか。食いねぇ食いねぇ、何ならカップみそ汁もあげるから戸中山ダンジョンの休憩室で食べな?


「せや、譲二さん。冒険者組合から譲二さんに依頼があってなぁ」

「……厄介ごとじゃないの?」

「ハッキリ言うて厄介ごとや。冒険者が出演するテレビ番組に出て欲しいっちゅうやつや」

「テレビィ?」


 テレビ番組に出演してほしいという依頼は、結構あったりした。TwitterやYouTubeでメッセージ……時には直接俺のツイートにリプして依頼してくるものがあったのだが、俺はそれを悉く無視していた。最近はめっきり少なくなったと思ったのだが、武道さん曰くそれが冒険者組合に来るようになったのだとか。その問い合わせの数が多くて多くて業務に支障をきたしているのだとか。なので1つだけでも出演してくれないか、と。


「仮に1つ出演して収まるんですかねぇ……?」

「選ばれんかった他の番組が押し寄せる可能性はあるよなぁ。上は絶対に文句は言わせんって言っとるらしいけどな」

「ちなみにどの番組?」

「"冒険人"らしいで」

「あーあの……」


 毎週火曜日の21時~22時に放送されている有名冒険者や芸能人が出演するトークバラエティ番組だったか。俺はその時間帯、配信やっていない日なら「知らない世界」見てるからよく見ていないんだよね。「知らない世界」が無い場合は「鑑定団」見てるし

 

「まぁ、下手に深夜番組でディープなことはさせられそうにないってのは分かったけどさ。家の様子とかそういうの見せるの嫌だよ?」

「そらそうや。スタジオに来てトークしてもらうだけ――らしいけど、あんまり信じられんよなぁ」


 ばつが悪そうに苦笑いを浮かべながら後頭部を掻く武道さん。武道さんは所謂メッセンジャーな訳だし、彼自身もテレビ出演に関してはよくは思っていないだろう。悲しいかな、役所勤め。

 んー、どうしたものか悩ましいところだが、そう言えば武道さんは出勤前だ。ここで引き留めているのも悪いな。


「考えておきますってことにしといてもらえます?今すぐに答えを出せって訳でもないんでしょ?」

「せやな、そう伝えとくわ。ほな、さいなら」

「はーい、お疲れさんでーす」


 そう言って武道さんは戸中山ダンジョンへ出勤していった。俺と知り合いだったばっかりに、あの人も大変だなぁ

 おっと、オーロラが起きてきたか。


「オハヨウジョージぃ……誰か来てたのォ?」

「おはよう、オーロラ。武道さんがマンドラゴラ受け取りに来てたんだよ」

「ソッカ、ふぁあ~あ」


 寝ぼけ眼を擦りながら飛んできたオーロラの飛び方はどこか覚束ない。まだまだ寝足りないようだが、二度寝するなら朝食を食べてからにしてくれ。



「テレビ?」

「そう、テレビ番組」


 朝食を食べて二度寝してようやく頭が覚醒したオーロラに今朝の話をしてみた。オーロラの事だからテレビ番組に出演したい!とか言い出すかと思いきや、考えていた以上に反応が薄い。


「興味ない?」

「アンマリ。ジョージの料理食べられないし?」


 思わず苦笑してしまうが、絶対に出演したくないって程ではなさそうだ。ってか判断基準俺の料理なのかよ。


「興味はないけど、ジョージが出るならワタシはイイヨ?」

「俺も出たい訳じゃあな……出るメリットは少し周りが大人しくなるかもしれないってくらいだし」

「フーン、分かった!」


 こんなところかな。それじゃ、今日はオフの日だしのんびり過ごしますかね。

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