吽形縛り攻略RTA

「ブモォッ……」

「あ」

「ア?」


 韮間ダンジョンのボス階層の付近で4体同時出現したミノタウロスの全てを切り伏せた後、ある事を思い出した。海ダンジョンである、相模浜ダンジョンで見つけた宝箱に入っていた貝殻の盾やら黒真珠のイヤリングとか鑑定してもらうんだったわ。いっけなーい、俺としたことがうっかり!まぁダンジョン内で気付けたのならリカバリーは利くな。


「オーロラ、急ぐ用が出来たからちゃちゃっと行くぞ。ただし、お肉は最低限だが、斃したら絶対確保だ!」

「マカセテ!」


 そういう訳でこの先の道中にいるミノタウロスとオークよ。俺達に遭遇しないことを祈るんだな。積極的に狩りにはいかないが遭ったが最後。肉塊となると知れ――!

 急ぐとはいえ、依然として吽形縛りは続行。サーチ&キル斬るだ。



「今日はドンモノ食べたい!」

「おー、じゃあ他人丼にするかぁ」


 難なく辿り着いたボス部屋。他の冒険者と鉢合わせしそうなこともしばしばあったが、吽形でしめやかにモンスターをキルしたら気付かれることもなかった。そしてオーロラの希望で今日の夕飯も決まった。帰りにスーパー寄らなきゃ卵無いなぁ……


 さて、ここのダンジョンのボスと言えばゴブリンキング率いるゴブリンの軍勢。一度クリアしたことのある身からすれば、そちらよりも今日の夕飯の方を気にしてしまう。丼物ということでほぼ反射的に他人丼にしてしまったが、あれは牛肉と豚肉どちらで作っても他人丼と呼ばれる。どちらにすればいいか、悩ましいな。そうだ、オーロラに聞いてみればいいじゃん。


「オーロラ。他人丼というのは、親子丼の鶏肉が豚肉もしくは牛肉になったものを言うんだが……どっちで食べたい?」

「ドッチも食べたい」

「アッハイ」


 えぇ、こうなる気はしてましたよ。俺自身、どっちでも食べたいなと思ったから苦じゃない……と思う。卵は多めに買っておこう。

 よし、頭に渦巻く悩みが解消されたことで、ゴブリンキングに専念が出来るな。オーロラにはとりあえず俺が1人で突っ込むのでフレンドリーファイアしない程度に魔法を撃つように頼んでおく。


「それじゃあ、行くか」

「オー!」


 意気込んだところで早速扉を……待てよ?この扉、一々手で開ける必要ないよな。むしろ、徐々に開けていくことで中にいるモンスター共に準備を与える隙も生まれないのでは?思い立ったが吉日ということで早速行動に移す。

 渾身の力を込めて回し蹴りをボス部屋の扉に向けて繰り出す。重いはずの扉は無遠慮に開かれ、大きな音もボス部屋内部に響き渡る。中には思った通り、冒険者が来るまで油断をしていたのか、地面に腰を下ろしているゴブリン達が呆気にとられた顔でこちらを見ている。やがて、頭が回り始めたのか、各々武器を手に取り始めるが――


「遅い」


 まずは1つ。ゴブリンの頭が首から離れ宙を舞った。俺が切り飛ばしたものだが、これで終わりではない。そのままの勢いで吽形を振り回し、さらに周りのゴブリンの首や腕、腹や足を斬り飛ばす。決して足を止めず、さりとて吽形を振るう手も止めず。向かう先はゴブリンキング。


「はい。ほい。そい。とい。」


 奥に進むにつれてゴブリン達も待ち構える個体が増えてきたが、それでも俺を害するほどの存在ではない。奴らも武器を向けてくるから俺がそれに吽形をぶつけるのだが……その一切を吽形が壊しちゃうのだ。なんでこいつ刃こぼれもしてないの?

 背後からどことなく冷気を感じるのはオーロラが魔法を使っているんだろう。あっちは心配しなくてもよさそうだね。そろそろゴブリンキングが見えてきてもいいはずなんだが……お、いたいた。


「グギァ!」


 おや?このゴブリンキング、俺が前見た個体よりもマッスルだな。心なしかマッスルポーズをとっている様に見える。へぇ、そういう違いもあったりするんだね。だけどマッスルキングよ……お前のその筋肉、吽形を止め切れるのか?試してみようじゃないか。

 まずは、近衛兵の首を落としてっと。


「よし。それじゃあ……って」


 次はキング。そう向かいなおした俺の視線の先には、既にキングが大剣を振り下ろす体勢に入っていた。オイオイ、部下が斃されること織り込み済みかよ。流石にこのまま反撃は難しそうなので躱す。

 眼前に振り下ろされた大剣を踏みつけて跳び上がり――キングの首を飛ばした。……ごめん、斬るの体の方じゃなくてごめん……首斬ったほうが効率良いから……

 ちなみに宝箱はドロップしなかった。2度目だからかな?



「あの木原さん、これは……」

「相模浜ダンジョンの宝箱アイテムとオウシャコガイのドロップアイテム?です」

「鑑定ですか?」

「鑑定ですね」

「……ベッシツデオマチクダサイ」

「ごめんなさい……」

「イインデス、シゴトナンデ……」


 ごめん、本当にごめんなさい。

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