あたらしい ぶきを にゅうしゅ したぞ!▼

「改めてお待ちしてました、木原さん。ご足労いただきありがとうございます」

「いえいえ、こちらこそ預かっていただいて、ありがとうございます」


 机を挟んで、顔を突き合わせて頭を下げ合うのは俺と俺がここに来るときによく受付してくれる女性職員さんだ。

 俺が今訪れているのは、クラシックダンジョンである韮間ダンジョンの応接室。武道さんに依頼していた剣歯虎の牙を素材に作られた武器を受け取るために来た。本来だったら戸中山ダンジョンで受け取れたところを、周りの騒がしさもあって、韮間ダンジョンで受け取れるようにしてもらっていた。

 そして俺いるところオーロラ有ということで、オーロラは応接室を飛び回っている。ここなら他の人の目に晒されることは無いからね。


 さて、今俺の目の前には机に載って布でぐるぐる巻きにされた細長い何か。これが例のブツとのことなので、許可をもらって持ち上げ――お、割と重い。おや、俺の頭上にも重みが。オーロラも気になってやってきたみたいだな。

 少しずつ布を捲り上げ、やがて白銀に煌めくそれが姿を現した。


「これは太刀?」

「オッキイ!」

「えぇ、そちらを手掛けた職人から名付けられました銘を――吽形と言うそうです」

「うんぎょう?」

「アレです。阿吽の呼吸の"吽"に"形"で吽形」


 あー、あの吽か。確か狛犬にもつけられる名前なんだっけ。へぇー、吽って言うのかこの太刀。よく見ると、刀身の端っこの所に「吽」と刻まれている。なんであんなぶっとい牙からこんな太刀が出来るのかは不思議だが、そこは職人技というものなのだろうか。あまり刀の良し悪しが分からない俺だが美しいと思える。思えるのだが、なんか引っ掛かる。


「あの、これもしかして阿形って太刀あるんじゃ?」

「はい、もう片方の剣歯虎の牙。そちらが阿形ですね。そしてそちらは買い手はもうついております」

「何で違う人に渡す太刀を対になるものにしたの……っ!?」

「牙を見た瞬間、降りてきたそうです。これは対で打たねばと」


 そんな職人みたいなことを。いや、職人か。色々とモヤリはするが、素晴らしい武器なのは間違いない。そう言えば加工費はどうなっているのか聞いたところ、もう片方の阿形を売ったお金と剣歯虎の毛皮などで相殺となったらしい。

 女性職員から別に用意されていた鞘を受け取り吽形を納める。……ちょっとカッコつけて納めきる時に金属音出しちゃった。まぁすぐにAカードの中に入れるんだけども。


「この後はどうされます?今なら他の冒険者も少ない時間ですけど」

「もちろん、試し切りさせてもらいますよ」



「ギギーッ!」

「ほい」


 そんな気軽い声と共に吽形でゴブリンの腹を横一閃。振り抜くのに一切の抵抗も感じなかったな。体が真っ二つに分かれてしまったゴブリンは当然のように絶命したが、その顔は死んだことに気付いていないようで俺を襲って来た時と同じ顔だ。

 血振りをして吽形を鞘に納める。ここまで道中何十体もののゴブリンやミノタウロスを屠ってきたが、良い調子だ。


「ジョージすごい!ジダイゲキみたい!」

「へへっ、よせやい」


 そういや、時代劇も嗜んでましたね、オーロラさん。褒められて悪い気はしないが、あれに比べちゃ俺なんてまだまだ……ただエルフパワーに任せて振ってるようなものだからね。本職に比べたら児戯にも等しいだろう。


「でもヤドリギの方がよくない?」

「そうなんだよなぁ……」


 うん、作ってもらっておいてなんだが、オーロラの言っている様にヤドリギの矢が全てを解決してしまうのだ。ヤドリギの矢なら安全圏から雑にぶん投げていれば勝ててしまうからな……聞いたことないけれど遠距離攻撃禁止のダンジョンが有ったら出番があるのだろうか。


「ブモオオオオ!」


 あぁっ、次の犠牲者のオークくん!オークくんじゃないか!なんだい鉄の鎧なんか着ちゃってオシャレのつもりかい!?んもー、立派な兜までかぶっちゃってファッションリーダーってか?凄い似合ってるところ悪いんだけど


「チェストオオオオオオ!」

「ブヒィッ!?」


 脳天に吽形叩きつけちゃいました。鉄の兜でもなんのその。お構いなしに頭蓋骨まで砕いちゃったみたい。やはり力。エルフの力は全てを解決するのだ。ますますもってゴリラに磨きがかかった気もするが気にしないでおこう。俺はエルフだ、見た目華奢でスマートなエルフなんだ……

 あ、そうだ。ヤドリギの矢には難しくて吽形には容易なことあったな――デカい肉塊切り分けることとか。打った人に聞かれたらぶん殴られそうだな。

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