【邪道寿司も】巻き寿司はちょんまげになり得ません【寿司の内】
「うんうん……自分で作っておいてなんだが、案外酢飯と焼肉って合うもんだなぁ」
『そら肉寿司がありますしおすし』
『ワイは普通にご飯の方が美味いと思うゾ』
『それは禁止カードじゃねぇか』
ピリ辛のたれで焼いたミノタウロス肉が酢飯によく合う。ふむ、これはマヨネーズをかけてみても美味しいやもしれんな。ちょびっとかけて食べてみるが、当たりのようだ。ジャンク感は増したが、ビールとか酎ハイに合う味だ。日高見ではなく、別に開けておいたストゼロレモンを流し込む。
『ジョージってマヨラー?』
「マヨネーズは好きだけど……マヨラーって言うほどじゃないな。サラダにかけるものとしてはトップにあがるかもしれんけど、何でもかけるって訳じゃないな」
「ジョージ!この前アニメでマヨネーズ丼ってやってた!」
マヨネーズ丼……?あの、オーロラさん。それ間違いなくあの色んな業界に喧嘩売ることで有名なあのアニメ見ましたよね?まさかマヨネーズ丼を作れと仰っているのではあるまいな?
『アカン』
『オーロラちゃん、あれを美味しそうと思っちゃダメなんだよ?』
「オーロラ、マヨネーズ丼は駄目だ。食べたが最後大変なことになるからやめなさい」
「タイヘンなの?」
「そうだ。今度ツナマヨ丼作ってあげるからそれで勘弁してね?多分そっちのが美味しいし」
「ワカッタ!」
『危機は去った』
『あれはアニメで見るからいいけどリアルで見るとオエッてなる自信あるわ』
オーロラが素直で良かった……しみじみとそう思いながら、俺は朱ナマコの酢の物を口に運んだ。……ムッ!普通の赤ナマコと比べて柔らかいな。それでいて歯ごたえもいい。これは……酒泥棒だな。1匹しか取れなかったのが悔やまれる。今度はもう少し獲るようにしよう。――そういや、オーロラこれにまだ手を付けてなかったな
「オーロラこれ食べてみ?美味しいよ」
「ホントー?……あ、ホントだ。美味しい!」
ぱっと見グロテスクな見た目だから一瞬忌避するのは分からなくもないけれど、そこは酒飲みオーロラ。特に嫌がることなく口に入れて数回咀嚼すると、すぐに虜になってしまった。待ちなさい待ちなさい、1匹しか獲れなかったんだからちょっとしかないんだって!
『オーロラちゃんまっしぐら』
『美味しい故致し方なし』
「シカタナシ!」
「うん……美味しいと思えるものが増えるというのはいいことだ」
『ジョージ涙拭けよ』
その後、お詫びの気持ちかオーロラお手製の手巻き寿司をいただいた。画面の向こうのオーロラファンが血涙を流していることだろうが、諦めて欲しい。こいつは俺のだ。
ちなみに中身は螺子鮪の赤身とアボカドの組み合わせだった。……納豆買っておけば良かったなぁと少し後悔。
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配信を始めて2時間ほど経った頃。そろそろお開きの時間だが、ちらほら刺身が残っていた。これは……やるしかないな。
「〆のお時間だな」
「シメ?」
『手巻き寿司で〆?』
『お茶漬けか?』
「フフフ、まぁ待っていなさいよ。それでオーロラにはやってもらいたいことがあるんだ」
「ワカッタ!」
俺は含み笑いをしてキッチンに戻ってすでに用意してあった小鍋に火をつけて中の物を温める。やがて白い湯気と香りが立ち上ってきたので火を止めて小鍋ごと配信部屋に戻る。
既にオーロラの準備は完了しているようで、今か今かと待ち遠しそうだ。依頼したのは、少し大きめのお茶碗に酢飯をよそい、色とりどりの刺身を放射状に綺麗に並べてくれている。そして天辺にはちょこんとわさび。
「……散りばめるだけで良かったんだぞ?」
「見た目ダイジ!」
『職人の目をしてた』
『茶化す雰囲気じゃなかったぞ』
「そ、そうか……」
困ったな。出汁茶漬けにすると直接には言ってないが、これ出汁ぶっかけたら形変わっちゃうんだが……?視聴者のコメントの通り真剣に並べてくれたみたいだし、崩すのはいささか気が引ける。
整えられた酢飯on刺身の前に小鍋片手に唖然として固まる俺の肩にオーロラが止まって告げた。
「イイヨ?形あるもの全て壊れるし?」
「いいの?」
「寧ろハヤクシテ?」
「アッハイ」
『お預け状態のオーロラちゃんは怖いぞ!』
『変な思想に目覚めたりしないよね?』
お姫様の御指示がありましたので、茶碗に出汁を掛けさせていただきます。出汁は至って簡単。本だし・醤油・塩・水をぶち込んで煮たせただけの簡単出汁だ。狩ってきた魚の骨で作れ?ハッハハ、もう料理する気力ないんだよ察しろ!
「いいニオイ……!」
「じゃいただきますか……!」
温かい出汁を入れたことで少し火の通った刺身は、また違った食感で美味しい。少しばかりわさびでツーンとするがそれもまた一興。オーロラは……おお、掻きこんでる掻きこんでる。お茶漬け自体は朝飯で何回か食べているけど、出汁茶漬けはまた別格だよな。
こうして巻き寿司パーティは大盛り上がりの末、幕を下ろした。さ、次の配信の質問コーナーは何が来るかな?
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