【巻けば巻くほど】hand-rolled sushi【美味しくなーる】

「ハァイ、皆の衆。ジョージの酒飲みチャンネルの時間だ。メインパーソナリティはこの俺、ジョージだ。そして相方の――」

「オーロラダヨ!」

『全裸待機してて風邪ひくところだったゾ』

『わこつー』

『おっ手巻き寿司か?』

「フッフッ、御明察。今日のメニューは手巻き寿司だぁ!」


 机の上に並べられたのは、さっきまで俺が必死こいて捌いて捌いて出来上がった数々の刺身。が、刺身だけでもいいのだが、刺身だけでは収まらないのが手巻き寿司。厚焼き玉子にきゅうり、ツナマヨやアボカド。サンチュや生ハム、ミノタウロスの炒めなんかも用意した。あと永久欠番の大葉。


『この刺身ってもしかしてダンジョン産のやつ?』

「そだよ。これが軍鰯の兵隊鰯でこっちが隊長。これは螺子鮪でこれは普通のシャコガイ。オオアジに暖ブリ。毬栗蟹に荒縄蛸。そして手巻き用じゃないけど朱ナマコの酢の物」

『わぁお』

『合宿免許がおるな』

『シャコガイが普通なのかw』

『ジョージのことだから力業で開けてそうw』

「……」

『オイ、何とか言えよ』

『無表情になるんじゃあない』


 そういう訳で、オウシャコガイはただのシャコガイとして紹介することにした。馬鹿正直に言う必要は無いしね。貝殻を出すわけじゃないんだし。

 さて、ネタの紹介はこれくらいでいいだろう。いい加減にしておかないとオーロラが……ほら、もう海苔の準備してるよ。海苔をタオルの様にパタパタとさせて今か今かと待ち遠しそうだ。


「まま、それじゃ作ろうか。オーロラ、自分で作る?」

「ツクル!」

「そうかそうか。あんまり具を欲張らないようにな。あまりに盛ると巻けなくなるからな?」

「ワカッタ!」

『良い返事だ』

『絶対子供の時1回は失敗するよな』


 その失敗、すごい心当たりがあります。子供の頃は一度に色んな味を楽しもうと欲張ったものだ。しかし、今この身は大人。落ち着きと言うものを学んでいるのだよ。

 先頭打者として俺が選んだネタは、酢飯の上に大葉を敷いて螺子鮪の中トロと赤身を載せて巻いたものだ。俺は配信を始める前からこの組み合わせで作ろうと思っていたからすぐに出来たが、オーロラはまだ決めあぐねているようだ。


「ンーンー?」

『これだけあると目移りしちゃうよなぁ』

『ジョージと同じものにしてみたら?』

「ネタ被りはチョット……」

「二重の意味で??」


 まさかオーロラがそこまで考えているとは思ってもいなかった。俺としてはネタ被りとか気にせず美味しく食べてもらえれば十分なんだが。

 云々と唸り続けようやく決まったようでウキウキしながら巻き巻きしていく。選んだ具はオウシャコガイと荒縄蛸の刺身のようだ。ちなみに荒縄蛸はボイルしたものだ。

 それぞれ巻き寿司が出来たところで待ちに待った実食のお時間。


「いただきます」

「イタダキマス!」


 大口を開けて巻き寿司を齧る。パリッとした海苔の小気味のいい食感に赤身の味に中トロの脂。それらを受け止める酢飯が最高……!忘れちゃいけない大葉もいい味を出している。ラストに鼻を突き抜けるワサビの風味。

 くぅっ!酒!飲まずにはいられないッ!


「今回ご用意しましたのは、日高見超辛口純米酒。いつかこんな日が来ると思って買っておいてよかった!」

『絶対ネットで調べただろ』

『間違いないチョイス』

「何故バレたし」


 確かに刺身に合う日本酒で調べて一番上に出たものを注文したけどさぁ!

 たとえド定番の物だったとしても美味けりゃいいんだよ!特に俺、お酒のうんちく話すようなタイプでも無いしね!

 冷やされた日高見を徳利に注いでキュッと飲む。おおっ、分かってはいたが辛口でスッキリとした飲みごたえ。これは確かに魚介類に合うな。


「オイシイ!オイシイ!お酒もオイシイ!」

「そうだろ?――っていつの間に2本目!?」


 そう、まさかの2本目にかかっていたオーロラがそこにいた。2本目はツナマヨときゅうりなのね。それも美味しいよね。空になっていたオーロラの御猪口に日高見を足して俺も2本目を作ろうか。

 次は毬栗蟹の身と蟹味噌を入れてっと……!


『それをこっちに寄越したまへ』

『うーん、冒険者の特権』

『これ一巻きでいくらするんやろか……』

『それは考えちゃダメだ』


 冒険者からしたら狩ることが出来れば無料で食べることは出来るが、一般の人が食べるには分けてもらうか購入するしかないからなぁ……俺はもう自分で狩ったものの値段に関しては考えないものとしている。


『そういやなんで手巻き寿司なの?寿司でよくない?』

「手巻き寿司の方が配信向きだと思ったからね。それに……俺が寿司握ったとしたら何と言うか……職人様が湧きそうで」

『否定できん』

『指示厨はいらんなぁ』

「あとはほら、下手したら力込めすぎてカッチカチの舎利が出来そうで」

『なんやその色んな意味で悲しきモンスターは』

『これだからゴリラエルフは』

「誰だゴリラって言った奴!――おっとそうだ、そろそろ近日中に質問コーナーやるからね。何か考えといて!」


 前回やってから日にちも経ったことだし、また開催してもいい時期だろう。俺は新たに暖ブリとアボカドの巻きずしを作りながらそう宣言した。

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