気付かれてました
「えぇ、ハッキリ申しますと何かしでかすと――期待していた自分がいました」
「はい」
「期待通りで何よりでございます」
オーロラを再度カバンに隠した上で海ダンジョンから受付ロビーに戻った俺はすぐさま入場の時に受付をしてくれた男性職員、近江さんの元へ向かって今に至る。
近江さん、来た時と変わらず人の良さそうな爽やかな笑みを浮かべているのだが、その言葉の通りどこか楽しそうな雰囲気が滲み出ている。というか、俺まだ戻ってきた報告しかしていないはずなんだけど?それにしてもなんかロビーが騒がしい。そちらの方へ視線を向けてみると何人もの冒険者が顔を付き合わせて何事か話し込んでいる。
「あちらはですね、この相模浜ダンジョンの名物の1つである"オウシャコガイ"の貝殻の分配を決めている所なのですよ」
「ほう、オウシャコガイ……」
やっべぇ、すげぇ心当たりがあるんだが。大シャコガイだか王シャコガイだかどちらでも構わないけど、シャコガイと言えば俺達で開いたアレでは。よく見れば話し込んでいる冒険者の内何人かは、トラバサミ回収前に見た巨大シャコガイの貝殻運んでた奴等だ。
Aカードに収納せずに受付に持ち込んだ奇行、何であんなことをしたのか近江さんに聞いたところ、複数のパーティが貝殻をほぼ同時に見つけたがために、誰かがAカードに入れたまま持ち逃げされないように、誰のAカードにも入れずにロビーまで全員の力を合わせて持ってきたんだとか。
「木原さんなんですよね?アレを開けたのは」
「……ハイ」
「であれば宝箱も回収されたのでしょうが……今日の所はそのままお持ち帰りください。ここであからさまに別室に案内しては注目を浴びてしまうのは必然。次回来場時もしくは他のダンジョンに行った時にでも鑑定してもらってください。オウシャコガイ由来のアイテムもですよ?」
「そうさせてもらいます」
あぁ、他のダンジョンで鑑定してもらってもいいのね。大分特別措置だと思うけど、ありがたくそうさせていただこう。変な輩に絡まれるのは勘弁してほしいからね。有難くそうさせてもらおう。
巨大シャコガイならぬオウシャコガイの件が一段落した所で今日の戦利品の話だ。
「軍鰯に螺子鮪、扇ワカメに朱ナマコ……これはこれは、大漁ですね」
「クイーンランスサーモンに遭遇しなかったのは残念でしたけど。軍鰯?やワカメは大量にあるんで買取をお願いします」
「喜んで。確認ではございますが、軍鰯の隊長である赤い個体は……」
「どうせ美味いんでしょう?それは引き取ります」
「御明察です。そもそもよく獲れたものです。軍鰯は兵隊が数匹やられると撤退を決め込むので、中々隊長を捉えることは出来ないことで有名なのですが」
オーロラ、ステイ!自分の手柄だと自慢をしたいのは分かるがステイだ!オーロラの雄姿は俺が見届けているから!家に帰った後――いや、車に乗り込んだら滅茶苦茶に褒めるから!それはもう褒め殺しかってくらい褒めるから!……よし、落ち着いたな。
ちなみに、隊長鰯は兵隊鰯の何十倍もの価値があるらしい。さいですか、俺とオーロラは食べたいから持ち帰りますね。
「いいお取引が出来ました。そうだ、お持ち帰りの魚を私共の方で捌くことも可能で御座いますが、いかがいたしましょうか?」
「大丈夫です。捌くくらいは出来ますので」
魚の捌き方に関してはYouTubeの「きまぐれキッチン」でよく勉強させてもらっているからね。実際に普通の魚も捌いたりしているから問題は無いはずだ。
えーっと、買取金額は……まぁこんなもんか。戸中山ダンジョンに比べたら少ない方だ。そりゃ初めてのダンジョンだし、特段珍しい海藻とか魚を買取してもらったわけじゃないもんな。兵隊鰯そのものはそこまで価値が無いみたいだし。常連の戸中山ダンジョンと比べる方がおかしい。
ただ、魚介類を獲れるのはやはりデカいので、距離が一番のネックだが、これからはちょくちょく行ってもいいかも知れない。
「それじゃあ近江さんお世話になりました」
「あ、クーラーボックス買われますか?」
「――買います」
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車内にて
「良~しよしよしよしよしよしよしよしよし!偉いぞ~オーロラぁ!」
「えっへへぇ」
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さて、無事帰宅したところで今日の配信の準備だ。オーロラは少し疲れたのか、ソファーにダイブして寝はしないものの、某たまごのキャラクターのようにぐてーっとしていた。
普段であればダンジョンに潜った日は配信をしないようにしていたが、新鮮な魚は新鮮なうちに食べちゃいたい。となれば刺身だろう。が、それだけじゃあ面白みがない。そこで私ジョージ閃きました。
「海苔よし!ご飯よし!お酢よし!団扇よし!……フフフ、今日はパーティだなぁ!」
今日もパーティの間違いだったかも。
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