我慢できるわけもなく――
「とりあえず、身を切り取るか――オーロラは貝柱回収頼む!」
「ワカッタ!」
貝柱をオーロラに任せて俺は身の切り取りにかかる。その大きさから切り取るのは骨が折れるだろうし急いでいるから雑になるかもしれないがある程度は仕方ないだろう。そう自分に言い聞かせながら解体用のナイフを巨大シャコガイの身に通……柔らかっ!?
うっそだろ、豆腐まではいかないでも想像以上の柔らかさだ。寧ろ力を籠めすぎてしまいそうなほどだ。それでも切りにくいよりかはずっといい。身を貝殻より切り離して急いでAカードにぶち込む。オラッ入れっ!よし、次は宝箱を開けずに回収しておいて、2つの大真珠も回収してっと
「オーロラ、そっちはどうだ?」
「丁度オワッタ!でも、ちょっとズタズタ……」
「あー、そりゃ仕方ない!」
少し落ち込んだ様子のオーロラの声。確かに彼女に抱えられている貝柱であろう物体は所々千切れていたりお世辞にも綺麗な状態とは言いにくい有様だった。ただ、これに関してはオーロラに一切の過失は無いから気にしないで欲しい。そもそもオーロラが貝柱を切断しなきゃ取れなかったわけだし――ってこんなことしている場合じゃないな。
「じゃあさっさと離れるぞ!」
「ウン!でも、このカラはいいの?」
「さーすがに回収する暇ない!食えたもんじゃないしいいでしょ!」
「タシカニ!」
貝殻って確かチョークとか肥料になるんだっけか。こんなサイズならばさぞ大量の資源になるだろう。肥料になるということで一瞬親分マンドラゴラがよぎったが……まぁいいか。オーロラにも言ったけど回収している暇なんて無いし。
回収できるすべての物を回収した俺達は、全速力でその場を後にした。後方から聞こえる喧騒を置き去りにしながら。
・
・
・
「ふぅ、ここまでくれば大丈夫だな」
「ジョージ、大漁ダネ!」
「大漁って意味合いならオーロラが獲ったのが大漁なんだが……まぁいいや。それよりもだ、オーロラ。少しばかり味見をしないか?」
「アジミ!?」
その単語に目を輝かせたオーロラに俺も笑みをこぼしながらAカードからいい具合に一口サイズに千切れた巨大シャコガイの貝柱を取り出して1つオーロラに差し出す。勿論、俺も食べるぞ。
流石に今日は醤油を持ってきてはいないが、十分だろう。白く輝くそれを俺達は合図したつもりもないのに同時に口に入れた。
「……おぉ」
「ン~♪」
シャキッとした小気味のいい食感と共に磯の香りが鼻を突き抜ける。こりゃ旨い。俺は声を漏らし、オーロラは満足そうに頬に両手を当ててもにゅもにゅと貝柱を楽しんでいる。巨大シャコガイに挑んだのは当初は宝箱が目的ではあったが、この貝柱を食べただけで、あれだけ頑張った価値があったものだ。もし、巨大シャコガイが復活しようものなら宝箱が無くても狩ろうかと思えてくる。
「ジョージ、お酒……」
「無いよ?」
当たり前でしょうが。そんな目をしてもダメです。俺だって酒飲みたいけど我慢してるんだから、夜まで待ってください。
少し惜しみながらも口に残った貝柱を飲み込みそこら辺の小岩に腰を下ろす。一応警戒はしているものの、この付近に積極的に襲おうとするモンスターはいないようだ。身を潜めて監視しているようなモンスターがいるみたいだが。
「じゃあ宝箱、確認してみようか」
「宝箱って、ゴハン入ってることあるの?」
「聞いたことないなぁ……?」
オーロラ的には花より団子なのだろうが、冒険者からしたら必死に手に入れたものが食品だったらそれなりにショックだろう。俺も美味いものは好きだが、宝箱からはお宝がちゃんと出て欲しい感はある。
さて、改めて宝箱を取り出す。最初見た時は回収するのに急いでいて注目していなかったが、大きな宝箱だな。……しかし、ここ最近宝箱によく遭うなぁ。エルフって幸運の象徴だったりするの?いや、もしかして俺じゃなくてオーロラの方?
「ナニ?」
「んや、何でもない」
まさかね?
まぁ運なんて目に見えない物より、目の前の宝箱だ。願わくば有用なアイテムが出てくれれば良し。癖のあるものはちょっとご勘弁。もしくは宝箱だと思ったら蛸さんのお家とかな!
少しだけ気合と祈りを込めて、宝箱の蓋に手をかけて一気に開ける。その中にあったものとは――
「これは――黒い真珠?のイヤリングか?それと……貝殻の形の盾か?」
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