アサリでも2キロくらいの力はあるんだってさ

「宝箱だなぁ」

「ウワァ!大きな貝!」


 距離はあるはずなのにそれでも巨大に見えるシャコガイ。一軒家ほどのサイズはあるのではないのだろうか。その大きさにも目を見張るものはあるが、やはり注目すべきはシャコガイの貝殻の中だ。宝箱。冒険者であれば誰しもが求める宝箱が堂々と置かれている。隠す気一切ないほどだ。


 半眼になるのを感じながらもとりあえず巨大シャコガイに近づいてみる。んー、やはりどう見ても宝箱だ。ちらほら人はいるのだから巨大さも相まって俺たち以外にも見つけている人はいるはずだ。だのに、巨大シャコガイの周りには人っ子一人いない。

 そして、さらに足を踏み出した時。巨大シャコガイに異変が起きた。


「閉ジタ!」

「あぁ……閉じたな」


 言葉の通り、巨大シャコガイの二枚貝が一気に閉じられた。こう、一歩近づくと徐々に閉まっていくとかではなく、凄い速さで最後まで閉まった。そんな閉店後のシャッターじゃないんだからさ。

 ちなみに閉じられた地点から一歩後退してみるとすぐに開いた。近づく。閉まる。遠ざかる。開く。飛んでいるオーロラなら?単独で近づいてみてもらったが、やはり閉じた。よし、開いた状態で普通の矢を射ってみよう。下手にヤドリギの矢に願って思った以上の力を使われても困るからね。


「ぃよいしょ!」

「ナイスショット!……あ、ザンネン」


 うん、矢が巨大シャコガイの中に到達するよりも先に閉じられちゃ宝箱に当たるわけもない。見た目相応に固いようだし。鉄と鉄がぶつかり合ったような音が出たぞ?

 では次の検証をしてみようか。いっそのこと力業で開けてみようということで巨大シャコガイに近づいたが、自分の馬鹿さ加減に気付いた。そもそもの話閉じた殻まで手が届かなかったのだ。まぁ強い味方オーロラのおかげで氷の足場が作られたけどな。

 軽く息を吐いて、大股開いて腰を落として殻の境目に手をかける。よし、準備完了!さぁ持ち上げようとしたらオーロラがプリプリと怒っているではないか。え、どしたし。


「ジョージ、はしたない!」

「別にスカートじゃないしよくない……?」

「男はみんなオオカミなんだよ!」

「元男なのだが?そしてどこでそんな台詞覚えた?」


 時折煎餅バリボリ食べながら見てた昼ドラからか?もしくはピンクなレディーの歌でも聞いたか?

 まぁまぁとオーロラを宥めて改めて挑戦。


「フン゛!ヌ゛ァッ……!」

「アンマリ女の子があげちゃいけない声出してる……」


 流石に俺自身無いなとは思っているけどスルーしてくれると助かるな!いや、それにしても固いぞ。エルフになってから筋力が上がったと自負しているが、なかなかどうして持ち上がらない。――いや、少しほんの少しの隙間は開いている!ふは、フハハハ!どうだ巨大シャコガイ!貴様の挟む力などこのエルフの力を持ってすれば駄目だあああああああんん


「ぜぇ……はぁ……疲れたぁ」

「オツカレー。開けれそう?」

「完全に開けるのは無理だけど……オーロラ、お前の力が必要だ」

「?」


 作戦って程でもないが、俺が再び全力全開で殻をこじ開ける。少しの隙間が出来ればそこからオーロラが鋭利な氷でもなんでも斬れそうな魔法を放って巨大シャコガイのどこかにある貝柱を斬る。開く!何とも頭の悪い作戦だが、これくらいしか思いつかなかったんだよ。オーロラの氷魔法で支え棒みたく出来るかと思ったが、オーロラ自身がそれは無理だと宣言。これが失敗したならば今度こそヤドリギの矢を使うか。

 念のため、周囲を確認して――よし、誰もいないな。


「行くぞオーロラ!構えてろよー?」

「ウン!任せて!」

「それでは……ウオオオオオオオオッ!」


 渾身の力を込めて殻を持ち上げる。血管が浮き上がるのがよく分かる。きっと今の俺は配信には載せられないほど酷い顔をしているのだろう。モザイクものですよ、こいつは。だが、それほど気合を入れたからか。殻は錆びたドアを開けた時の様な鈍い音を立てながら開いていき、オーロラが魔法を放つのに十分な空間が広がった。


「オ゛ーロ゛ラ゛ァ゛!」

「ヤァ!」


 こじ開けるのに必死で見ることは叶わなかったが、足元に漂う冷気から、オーロラが魔法を使用したのが分かった。同時に、巨大シャコガイの中からカンカンと何かが跳ね返るような音が聞こえる。状況から察するに、オーロラの放った魔法が中で暴れ散らかしているのだろう。宝箱……壊れてないよね?

 音が聞こえ始めてから何秒経っただろうか。未だに俺は全力で殻を持ち上げ続けていた。永遠とも思えるその時間に、遂に終わりが訪れた。


「どわぁ!?」


 今までの重さが嘘のように巨大シャコガイの蓋が持ち上がった。それどころか、勢い余って中に侵入できるほど開けるどころか――酒蒸しされたアサリの様に完全に開き切ってしまった。おまけにデカい音を立てちゃって。あっこりゃ、すぐに宝箱回収してドロンしなけりゃ注目浴びるな?

 そのことに感づいたのはオーロラも同様のようだ。示し合わせたかのようにアイコンタクトをすると、巨大シャコガイの殻の中に飛び込み、目的の物を目の当たりにする。


「やっぱり身もでけぇよな……!」

「何人分?」


 そこにあったのは敷布団の様な大きさの身だった。もう見ただけで笑いがこみあげてしまうよ。宝箱も結構大きいしさぁ!心が躍るなぁ!あ、あとバスケットボールくらいの真珠も2つあるわ、へぇ。

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