テンション上がるなぁ~

 初めての海ダンジョン。少しでもオーロラと感動を共有したい俺は伏し目がちに歩き、出入り口から離れて周囲に誰もいないことを確認して、カバンの中に隠れていたオーロラを解放する。颯爽と飛び出たオーロラは、窮屈だったと言わんばかりに伸びをして、辺りを見渡す。そこでようやく俺もこの海ダンジョンの光景を目にすることになった。


「ウワァ!」

「これはまた……アクアリウムにでも来た気分だなぁ……」


 見上げれば、海底を歩いているはずなのに明るい空……空?海面?まぁいいや。色とりどりの魚が飛んでいるかのように、悠々と泳いでいる。足元には小さな蟹が横切る。いささかハサミが物騒な程ギザギザしているが、俺がその蟹の方に一歩踏み出そうとすると、横歩きのまま脱兎のごとく逃げ出した。


「カニ!」

「待てオーロラ。よく知らないダンジョンで無暗に追うのは厳禁だ。くそう、あの蟹、身は少ないだろうけど出汁にすりゃ美味い味噌汁作れるだろうなぁ……!」

「エ!カニ入れたら美味しくなるの!?」

「なるなる。そりゃもう絶品よ」


 そう聞くと、オーロラはさらに目を輝かせて蟹を狩らんと飛び出そうとするが、君俺がさっき言ったこと忘れてないですか?一旦は歩きながら探索だよ。それに、まだ出入り口からそう離れてもいないから、モンスターも沸いてこないだろうしね。


「じゃ、行くか。とりあえずの目的は美味い海産物!以上!」

「オー!」


 Aカードからヤドリギの矢を取り出しておいてっと……海の中でヤドリギの矢を持つともはや矢じゃなくて銛だなこれ。まぁ大して変わらないか。



「ジョージ!なんか来てる!」

「うわ、でっか!……ん?いや、ちっちゃい?」


 辺りを観察しながら歩いていると、こちらに近づいてくる黒く大きな魚影。その目は獰猛さを表している様に赤い。思わずヤドリギの矢を強く握りしめてしまうが、よくよく凝視してみるとその魚影、1つの大きな魚ではなく小さな魚がいくつも集まって出来たもののようだ。リアルスイミーか。

 あの作品は自分たちを強く見せて威嚇することで巨大魚を脅かしたが、目の前の魚群はギラついた歯を剥きだしこちらに向かってきている。俺達を喰うつもりだろうが、大人しく食われるつもりはない。ヤドリギの矢を構え投擲を――しようとしたところでオーロラに手で制されてしまう。


「マカセテ!」

「おっじゃあ任せるわ」


 両手を突き出したオーロラが何かを唱えると、そこから1つの小さな氷の結晶が発生した。肉眼で見えるほどだから通常の氷の結晶よりかは巨大だがこの結晶で何を――?あ、結晶飛んでった。任せて言われたから任せるけど本当に大丈夫?

 そんな俺の考えは即座に杞憂だと改められた。

 氷の結晶が魚群と衝突する瞬間、結晶がまるで生きているかのように蠢き広がり、四方八方から魚群を包み込み閉じ込めてしまった。しかし、魚群も黙ってはいない。氷の牢獄から脱獄せんと、息を合わせて氷にぶつかり、その衝撃と共に鋭い牙を立て削ろうとしている。

 奮闘しているようだが、次第に魚群は動きを鈍くさせていく。少しずつ仮死状態となり脱落していく魚たち。そうして最後に黒い魚達の中で唯一、一匹の血の様に真っ赤な鱗を纏った魚が氷の牢獄に頭をぶつけ、意識を失った。オーロラ……海の中で氷締めしちゃったよ……

 

「ドウ!?」

「凄いな、流石はオーロラ。俺には真似できんわ」

「フフ、でしょーっ!?」


 腰に手を当てふんぞり返るオーロラ。いや、本当に真似できんできん。進化したオーロラの魔法がここまで強力だとは思わなんだ。正直、今までの魔法の傾向から氷の礫の大きいバージョン飛ばすだけかと思ってたが。

 ちなみに、氷の牢獄だがオーロラが指を振るっただけで氷一欠けらも残さず解除された。そこに残ったのは仮死状態となった魚達だけ。しかも面白いことにちゃんと海底に落ちてきた。もし、浮かび上がるんだったらどうしようかとおもっていたが、そんなことは無くて助かった。勿論、魚群を象った魚たちは全回収。これだけあると殆どは売ることになりそうだな。


 さて、オーロラだけではなく俺もちゃんと働かなくてはね。ここで取り出したるはめっきり出番のなくなったかつての相棒トラバサミ。宝箱産だけあって海水につけても錆びることは一切ない。ヤドリギの矢に出番を取られがちですっかり忘れていたが、トラバサミはこういうダンジョンで真価を発揮する。

 展開させて餌として、オーロラが狩った魚をぶつ切りにしてトラバサミの中央に取り付ける。魚群を餌とする魚がいればきっとかかるでしょ。そんな期待を込めて全てのトラバサミを設置して回った。おっと、他の冒険者に分かりやすいように目印をつけるのも忘れてないぞ。


「よしっ、これでオッケーっと!」

「オツカレー!」


 最後のトラバサミをセットして手を軽く叩く。

 一仕事終えたところで、ここいらで昼ご飯をとろうか。そうオーロラに声を掛けようとした瞬間、遠くの奇妙なものが視界に入った。え?シャコガイ?にしてはデカくない?しかもあの中、光ってない?……エルフ化したことで強化された視力を頼りに目を凝らすと巨大なシャコガイの中にあるものが判明した。


「宝箱ぉ!?」

「マジ!?」

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