Q、ほぼほぼ身内から推しと言われた心境を答えよ

 色々と話を聞きたいところだけど、庭先で話を続けるのもあまりよろしくないので改めて玄関から入ってもらってリビングへ。椅子に座ったところで台所からオーロラが湯気が立った湯呑を運んできて翠ちゃんの前に置く。


「――」

「粗茶ですが……とのことです」

「アッハイ」


 翠ちゃん目に見えて分かるほど緊張していらっしゃる。初めて翠ちゃんと対面した時もこんな感じだったなぁ……1年くらいで普通に話してくれるようになったけど。オーロラが俺にも玄米茶を注いでくれたので、とりあえず一服。

 それにしてもさっきから翠ちゃんが目を合わせてくれない。正確に言うと、チラチラとこちらに視線を送っているようなのだが、俺が視線を向けるとあからさまに目を逸らす。恐らく理由は翠ちゃんが言った単語――『推し』。どうやら、俺は彼女の推しになっているようだ。ネッコシーさんは割とグイグイ来る人だったが翠ちゃんはそうでもないらしい。しかし、このままお互いに沈黙という訳には行かない。ここは俺から話し出した方がいいだろう。


「改めて、久しぶり翠ちゃん。今日来たのって俺がエルフになったことを確認するため?」

「あ゛」


 俺の質問に、翠ちゃんは視線をきょろきょろと彷徨わせた後、意を決したかのように俺と目を合わせ――頑張れ!ほら、見た目はあれだけど中身は木原譲二そのままだぞー逸らそうとしない。


「はい、そうです。お久しぶり、ジョージさん」

「えー、はい。見ての通りエルフになっちゃいました。……知ってたんだね?」

「Twitterで流れてきた、よく知ってるジョージさんがエルフになっちゃった動画を観たの。正直顔良かったし、お酒飲んでる姿が楽しそうだから配信も追ってる。寧ろジョージさん、私以外に気付かれてないの?」

「気付かれて……ないね。友人1人以外」

「えぇ……?」

しかも

 冗談を言っている訳ではなく、事実なんだよね。武道さん以外には直凸されていない。悲しい話、友人らしい友人居なかったしなぁ……ずっと潜ってた戸中山ダンジョンはソロで受付の人以外言葉を交わした記憶は朧気だ。あんまり顔覚えられていないだろう。俺自身覚えてないし?翠ちゃん、可哀そうな目で見るのは止めなさい。オーロラは慰めるようにポンポンと肩を叩くんじゃない!いいんだよ、今が充実していれば!


「ちなみに翠ちゃん、大学で俺のことは……?」

「ゔっ……み、身元バレはダメですから話してないよ。ただ、推し友と配信の感想言い合ってるけど」

「あー、うん。ありがとう。ところで翠ちゃん、さっきからあ゛とかゔとか――」

「だって推しから名前呼ばれたらさぁ!変な声も出るもおおん!対応もまんま男の時のジョージさんだし!オーロラちゃんもいるし!」

「本人ですしおすし」

「――♪」

「この事バレたら推し友に殴られかねない……!」


 その御友達大丈夫?凶暴だったりしない?俺のために争わないでとでもいえばいいのかな?


「それにしても……ぐぅ、解釈一致の普段着。だけどジョージさん女性服とか持ってないの?」


 その言葉に改めて今日着ている服を確認する。――朝から家庭菜園していたから動きやすくするために男の時から使っていたジャージ一式だ。ちなみにオーロラもお手伝いを申し出た時からAmazonで買った妖精用の青色のジャージを着てもらっている。

 女性服はこの前買ったが、言わない方がいいだろう。中学のころから知ってる女の子に持ってることを知られるのは宜しくない。持っていて駄目ということはないのだが、なんか嫌だ!


「ハハハ、持ってない持ってない。いくら女性になったとはいえ、心は男だよ?そんな女性服なんて」

「ジョージさん、何か隠す時って『ハハハ』ってあからさまに笑う癖あるよね?」

「ッ!?」


 え、嘘。そんな訳ないじゃないか。ねぇ、オーロラ?俺そんな癖は無いよね?そういう気持ちを込めてオーロラに視線を送ると神妙な顔をして頷かれた。マジなの?俺、そんな出てた?気を付けた方がいい?


「配信もしてるんだからそういうの気を付けた方がいいよ?ただでさえ戸中山ダンジョンは自分でバラしてるんだし」

「アッハイ、気を付けます」

「お願いね?下手したらお爺ちゃんお婆ちゃんにも迷惑かかるかもしれないんだから」


 ぐぅ、それを言われたら弱い。距離が離れているとはいえお隣さんだしなぁ。というか翠ちゃん、慣れてきたみたいだね。ズバズバ言って来るのは相変わらずだ。ようやく調子が戻ってきて嬉しく思う。妹分のような翠ちゃんがずっと他人行儀なのは俺も辛いからね。


「ふふっ」

「ん゛ん゛っ不意打ちやめてっ!」


 なんでや、ただ笑っただけやろがい!む、着信音?俺のスマホじゃないよな。ということは……やっぱり翠ちゃんのか。「お爺ちゃんからか」と呟くと電話に出る。


「もしもしー。あー、ごめんなさい……気になっちゃって。うん、うん。そう、まだジョージさんの所にいるよ。え?マジ?き、聞いてみる」


 そう言うと、片手でマイクを抑え俺に話しかけてきた。


「お爺ちゃんが晩御飯一緒にどうかって。今日配信するの?」

「いや、今日は休みのつもりだけど……いいの?」

「おばあちゃんが私が久しぶりに帰ったからって気合入れちゃったみたいで……私達しかいないし。オーロラちゃんも一緒に!」

「――!」

「それじゃあご相伴にあずからせてもらおうかな」


 そんな訳で夜に巣守さん宅に伺うことになったので、一旦解散。念のため、家まで送ろうか提案したら「夜までに慣れるから勘弁して」だそうだ。今から不安になって来たな。

 さて、再度オーロラと2人になったことだし縁側付近に置いてあったプランターを移動させておかなきゃな。


「ん?」


 腰を下ろし、プランターを持ち上げようとしたところで、プランターの中に違和感に気付いた。茶色か黒しかない土の表面に小さな緑色が顔を出していた。

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