思ってた反応と違う
「ふぅ……中々手間取ったなぁ」
「――♪」
俺は縁側から大分様変わりした庭を見下ろす。
視聴者から家庭菜園におすすめの種を聞いてから数日後、注文した野菜の種――大葉・ミニトマト・シシトウ・唐辛子。そしてなんとなく目に留まったパクチーの種が届いたので、家の倉庫に眠っていたプランターを引っ張り出しその日のうちに土をセットして肥料を混ぜて支柱をぶっ刺して種を埋めた。
最初こそ1人で作業していたが、暇になったのか途中からオーロラも手伝ってくれた。
「よし、それじゃあ最後に水をあげるかね」
「――!」
「ん?オーロラする?」
「――!」
という訳でオーロラに任せてみたら指先から水をシャワー状に放出し始めたではないか。大方魔法なんだろうけど、そんなことまで出来るん?魔法、割と万能だな?これを見たら俺も使えるのなら覚えてもいいのではないかと思ってしまう。わざわざじょうろに水入れなくてもいいってことだもんね?
とまぁ、オーロラの協力もあって作業は昼までに終わることが出来た。いい天気ということもあり折角なので昼食は縁側でおにぎりとインスタント味噌汁を食べることに。外気を感じながら食べるおにぎり、中々に風情があるな。しかしオーロラ、俺と同じサイズのおにぎりは流石に大き過ぎじゃない?満足感が違うからOK?そんなものなの?
玄米茶を飲み、一服ついたところでポケットの中でスマホが振動していることに気付いた。この妙に長い振動は……電話か?取り出して確認してみると『巣守昭文』の文字が。昭文さん?どうしたんだろうか。少しだけ嫌な予感を感じながらも電話に出る。
「もしもし?」
『おぉ、ジョー坊。お前さん、今家におるんか?』
昭文さんの落ち着いた声の感じからするに緊急という訳ではなさそうだ。家にいるかどうかの確認ということはこの前の筍の刺身のように何かくれるとか?でも、そういう時って大概アポなしで家に来るよな?
「家にいるよ?今家庭菜園の種を植えた所なんだけど――」
『翠が遊びに来たと同時にうちに荷物置いてお前ンとこ行ったぞ?』
「……え?」
翠ちゃん、巣守
ここのところ見ていなかったのは大学が忙しかったからだろうか?連絡先を交換しているわけでも無いし、聞くことでも無かったので特にアクションを起こしていなかったが、そうか帰って来たのか。それでこちらに向かってきて……?ん、うちに来る?
「え!?ウチくる!?」
『おぉ、そりゃあもう凄い速さだったぞ?ワシの孫だけはあるなぁ』
「昭文さん、俺がエルフになったことって翠ちゃんには?」
『内緒にしとれ言ってたからいっとらんわい』
そうですよね!頼んだことしっかり覚えてますからね!おまけに巣守老夫婦はそういう約束はしっかり守ってくれる人たちだからね!とりあえず昭文さんに礼を告げ、電話を切る。まずいな、今のこの俺の姿を翠ちゃんに見せていいものか。だからと言って男に戻れるわけじゃないからな、やり様がない。縁側で考えを纏めるためにうろちょろ歩き回っていると、インターホンが鳴る音が耳に届いた。自然と早まる鼓動――まさか、もう!?
「譲二さーん!翠でーす。いますかー?」
確定じゃねぇか!マズイマズイどうするか、居留守を使うか?いや、親しき仲にも礼儀あり。それは失礼に値する。そうだ、見た目が変わったとはいえ、俺は俺。木原譲二なんだ。きっと翠ちゃんもこんな俺を受け入れてくれるはず!
意を決し、玄関に向かわんと足を進めようとしたその瞬間。ふと、庭に視線を移すと――いた。
最後に見た2か月ほど前とそんなに変わっていない翠ちゃんの姿が。あ、玄関から庭まで回ってきたのね?そっかぁ……!い、いや!狼狽えるな木原譲二!ここは自然体でそう!男の時と変わらない感じで気さくに!
「おぉ、翠ちゃん!遊びに来てたんだね!」
「――?」
こ、こらオーロラ!「誰ー?」って感じで翠ちゃんの方に飛んでいくんじゃあない!情報の爆弾をこれ以上提供するんじゃない!え、えっと翠ちゃんの方は……?あれ?震えてる?
「やっぱり、譲二さんがジョージちゃんだったんだ……!?」
「ん?」
「兄のように思ってた人が……推しに、なってた……」
「おっとぉ?」
流れが変な方向に向かったぞぉ?
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