初めての体験!?
「――!!」
「ギギーッ!」
今しがた、オーロラの氷魔法で体に鋭い氷塊が突き刺さりゴブリンナイトは敢え無く命を落とした。
分かっていたことだがオーロラ、中々やる。小部屋に辿り着くたび、交代しながらモンスターを倒すようにしていたが、速いのなんのって。
とは言ったものの、俺の戦い方も捨てたものではない。残念ながら、プラスチック弓はぶっ壊れてしまったが、弓はまだもう1つあるからね。加えて値段相応にプラスチック弓より扱いやすく、射出速度が段違いだ。……ただ、ヤドリギの矢を使う時は俺が投げるようにしてるけど。これ以上壊したくないからね。
「ゴブリン系統ばっかりでるのはきついなー」
「――」
この韮間ダンジョン、調べたところによるとオーク系やミノ系のモンスターも出るそうなのだが、何故かゴブリンしか遭遇しない。腕試しには丁度いいのかもしれないが、大した素材も落とさないし食材にもならない。正直外れなモンスターだ。ただでさえ、野草の類が生えないダンジョンなんだから……俺的には旨味があまりない。
周囲を警戒しながらも歩みを進めているとあるものが視界に入った。今日既に2回ほど通過している下り階段だ。当たり前のことだが、この階段を降りることで新しいフロアに行くことが出来る。フロアを進むことで出現するモンスターは強化されていくようになっている。そして、その下り階段の横には仄かに青く輝く魔方陣。原理は解明されていないが、この魔法陣に乗ることで、ダンジョンの受付まで戻ることが出来る。同時にAカードに到達階数が登録され、次回ダンジョンに潜る時、続きの階層から潜ることが出来る。
「今は11時か。オーロラ、今日はそろそろ上がろうか」
「――!」
「今日は慣らしのつもりだから弁当も持ってきてないからなぁ。そろそろオーロラも腹減って来ただろ?」
なんて聞いてみると、オーロラの口から――ではなく、お腹から可愛らしい音が鳴り俺の質問に答えた。魔法を使うと運動するのと同じようにエネルギーが消費され腹が減るみたいだからな。
オーロラ(お腹)の了承も得たことだし、帰るとするか。ほら、オーロラ帽子に戻りな。俺も伊達メガネかけなおしてっと。
ではでは、魔法陣の上に。うわ視界がグワングワンしてきた。アレだ。某サンドボックスゲームで地獄のようなエリアに行くときのアレ。
やがて視界の歪みが収まった時、俺の視界には韮間ダンジョンの受付が広がっていた。11時ともなれば人は増えているか。早速受付に行って帰還報告をしなきゃな。そう思い一歩踏み出そうとした時――
「初めましてーお姉さん。ちょっといいー?」
「よくないです、失礼します」
明らかにチャラそうな男3人に声かけられたので、問答無用で平坦な声で返答して彼らの間をすり抜けて通り過ぎる。どうせ俺が美人だから声を掛けたんだろうが、悪いが俺はお前らに微塵の興味もない。
「ちょっ、そんな塩対応しないでさぁー」
「触んな」
「痛っ!?」
チャラ男の1人がめげずに俺を引き留めようと肩に手を掛けてきたので、ちょいと力を込めてしっぺをしてやると素直に離してくれた。ハハハ、人間話せばわかってくれるんだね!肉体言語だけど。
さて、反撃されると思っていなかったチャラ男が次にどうするか?こういう手合は舐められたと思い、強引な手に出るんだろう?わー怖い怖い。だから俺は取る次の一手は――
「すいませーん、ちょっと変な人に絡まれましてー」
ダッシュして受付のお姉さんに泣きつきました。いや、実際に泣いてはいないよ?若干声音は泣いてる風にしたけども。幸い逃げ込んだ先は、朝俺の担当をしてくれたお姉さんだった。一瞬目を丸くしたようだが、すぐに俺とチャラ男3人組に視線を移しさっさと対応してくれた。チャラ男3人は別室対応。普段から女性冒険者に声を掛けていたんだとか。
「申し訳ございません、ジョージさん。こちらからも注意していたはずなんですけど馬の耳に念仏だったみたいで……!」
「いやぁ、ちょっと新鮮だったかもです。それに別にお姉さんが悪いわけじゃないし?」
「そう言ってもらえると……あぁ、帰還報告ですね。確認させていただきます。……はい、3層までですね。買取する物はございますか?」
「ないですね」
「はい、大丈夫です。Aカードお返しいたしますね?それでその、今日は配信しますか?」
あー、全く知らない人に配信ことを聞かれるのは少しこっぱずかしいな。
「その予定ですね」
「応援してますね」
「ありがとうございます」
軽く頭を下げて俺は韮間ダンジョンを後にする。
だが、俺は気づいていなかった。そんな俺の背中に視線を送り続けていた人物の存在を――
「誰だ、あの女?恐ろしく速いしっぺ……只者じゃないな」
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