【ごちそう】キャンプ配信・夜の部6【ごっつあんです】
『初めてマンガ肉を食うと一回叫んだら無言になってしまうとは本当じゃったか』
『ティラノサウルスは蟹だった……?』
『ワイも食ったことあるから分かるけどマジで食うのに集中しちゃう』
ハッ!おれはしょうきにもどった!気が付いた視界の先には既に骨が見えるほどまで食べ進められたマンガ肉の変わり果てた姿。裏側を確認してみると、オーロラが未だに一心不乱に食べ進めていた。このオーロラの食べ方、某有名パーティゲームのピザ食べ進めるミニゲームを彷彿とさせるなぁ。
「オーロラ、戻ってこーい」
「――!?」
俺の声でようやく正気に戻ったのか今まで私は何を!?と言わんばかりに顔を上げる。そして今の状況を理解すると、真っ先に酒――事前に用意していた赤ワインの注がれたグラスに飛びつき喉を潤した。俺も一度落ち着いて一服しよう。……ふぅ、割とお手頃な価格だったが、美味しいなぁ。マンガ肉とも合う。
『おかえり』
『よーやっと戻って来たか』
『味の感想教えて』
「味……何か思ったより鶏肉っぽかった。焼いた見た目は鶏肉って気がしないのにね。でもなんだろう、こう……旨味の暴力というか。語彙力を殺す味してる」
『やっぱり鶏肉よりなのか』
『鳥は恐竜から進化したなんて言われてるから近い味なんでしょ』
『分かるわー、旨味という名の棍棒で殴ってくるよな』
その後のコメントによると、大体の人はどんなに声を掛けられても食べる手を止められず、肉片1つこびり付いていない綺麗な骨になった状態でようやく我に返って口の中に残ったマンガ肉の風味に酔いしれるのだとか。何それ、中毒作用でもあるの?……マジ?そういうのは確認されてないの?寧ろ健康にいい?マジ?
「はぇ……こんなん狩れる人、私達が狩りましたのパーティの人毎日マンガ肉食ってんの?うらやま」
『それがあんまり食べてないらしいやで?』
『そら金にした方がいいやろ』
『違います。それずっと食べてると他の肉を食べる気が無くなるんです<千葉毅@ラウンダーズ>』
『は?本物?』
『うわ、千葉毅じゃん』
冗談交じり……いや、割と本気でそうぼやいていたら既視感のある名前の人がコメントをした。視聴者たちもそのコメントの人の名前にざわついている。ん、んー?どこで見たっけ?ラウンダーズ?……あぁ!俺が買ったマンガ肉のページに書いてあった"私達が狩りました"のパーティ名だ!
「このマンガ肉狩った人ですか?美味しいお肉をありがとうございます、買った人のジョージです」
『ややこしいなw』
『こちらこそお買い上げありがとうございます。またお気に召していただけたようでなによりです。<千葉毅@ラウンダーズ>』
この人も動画投稿をしているようなので、検索してみたら凄いな。サジェストに"ラウンダーズ"の後ろに"ティラノ 料理"や"最速攻略"みたいな候補が次々出てくる。動画投稿者としてだけでなく、冒険者としても有名な人というのが良く分かるね。後で料理動画の方はチェックしておこう。
でだ。その千葉毅さんがコメントするには、最初は喜んで毎日食べていたみたいだ。しかし、先のコメントでもあったように他の肉を食べる気を失せてしまい、高く売れるはずのマンガ肉を食べ続け、売る分まで食べてしまうことがあり、折角決死の思いで狩ったのに、収入も減ってしまったらしい。という訳で今は月に一度のご褒美として俺が食べているくらいのサイズのマンガ肉を食べているらしい。
『狩ることでただで食べられる人でもこうなのか……』
『だから私たちは購入ページで注意書きを残してます。お2人は途中で意識を取り戻したし、その心配は無さそうで安心しましたw<千葉毅@ラウンダーズ>』
「こ、こえぇ……ってオーロラ、いつの間に食べるの再開してんの!」
「――!」
『大丈夫……なんすか?』
『程々にしてくださいね!?<千葉毅@ラウンダーズ>』
その後もワインを嗜みながら食べていったけど全然中毒にはなっていません。本当です。至って正常です。
お皿に残ったのは綺麗に肉片が取り除かれ、真っ白さが露わになった骨の姿が。……どこか物悲しさを感じるな。
「――」
「オーロラ、そんなに悲しい顔をするな。まぁまたいつか食える日があるさ」
『なお、ファッションショーのスパチャで買える模様』
『買えますねぇ』
「――!?」
「馬鹿コメント!触れないでおいたのに!駄目だよオーロラ!買い続けたら破産しちゃうから!」
『すまねぇ』
『あーあー』
『あのオーロラちゃんをここまで虜にするとは』
『ちなみに骨ですが、じっくり煮込むとすごい濃厚なスープになります。私はこれで雑炊を作るのが堪らなく好きです<千葉毅@ラウンダーズ>』
「……千葉さん、ちなみに何時間ぐらい煮込みます?」
『最低でも6時間はいります<千葉毅@ラウンダーズ>』
はい、可能であればこのまま配信で……だなんて打算してみたけれど、流石に6時間は無理だ。ならばいっその事、6時間を超える時間煮込んだものをいつかの配信で使った方がよさげだな。
ということなので、骨は捨てないように再びクーラーボックスに入れておいた。ちょっとそこのオーロラさん!食べられないからってやけ酒しないで!さらっとネタ用に買っておいたスピリタスを飲まない!
こうしてひと騒動あったが、何とか俺とオーロラ初の野外配信は終えることが出来た。配信画面を切り、すこしやり切った気分になった俺は腰に手を当て、呟いた。
「片付けしねぇとなぁ……」
やり切った気分がすぐに落ち込んだ。
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