【Wowowo】キャンプ配信・夜の部5【肉を食え!】

「続いてはタランチュラさんが贈ってきてくれたセーラー服だぁ!」

「――!」

『うおおおおおおおおおおお』

『うちブレザー制服だったから憧れはあったなぁ』


「続いてはナース服だぁ!オーロラ?なんかコスプレに寄ってない?」

「――♪」

『可愛ければよかろうなのだ』

『看病されてぇなぁ』

『オーロラちゃんは熱い御粥をフーフーせずに食わせてきそう』

『やりそう』

「やりそう」

「――!?」


「お次は夏をイメージした爽やかなワンピース!」

「――!」

『麦わら帽子がいいね』

『大丈夫?その麦わら帽子、片腕失った人から貰ってない?』

『泣くなジョージ!俺が無事でよかった!』

「俺は欠損してねぇわ」

『部位欠損エルフとか興奮する』

「待ってヤバいやつおる!」


 ファッションショーはそれはそれは盛り上がった。オーロラが着替えれば着替える程コメントが伸び、スパチャもどんどん伸びていった。途中から数えるのを止めたし、それに合わせて決意した。スパチャは今回みたいなイベントの時のみにしよう――と。ファッションショーを終えた後、早速スパチャは切っておいた。案の定、コメントからブーイングが飛んだが聞こえない聞こえない。

 そう言えばオーロラだが、あのドレスの後は割といつも通りの元気なオーロラだった。いやに堂々としていたオーロラの姿にブラックボックスに触れる気分で本人に聞いてみるとただの女王様風の演技とのことだった。正直、どこか納得はいかなかったが今は配信中ということもあったしそれ以上追及しないで置いた。

 さて、大盛況のファッションショーを終えたオーロラさんはと言うと――


「――!」

「あー、はいはい。お代わりね」

『よく飲む』

『下品な話なんですけどね?妖精っておトイレとかって』

『妖精は出さないらしいぞ』


 片手でマンガ肉を回しながら焼く俺がグラスにビールを注ぎ、ファッションショーに出ていた分を取り返す勢いで酒を掻っ込んでいた。俺は基本的におつまみを食べながら酒を飲むのだが、オーロラは酒単体をグビグビといくからペースが早い。ちなみにオーロラは今1人で瓶ビール2本開けました。そして俺は配信中に席を2回外しました。ちなみにその間はオーロラが魔法で回転させてくれました。魔法なんでもありすぎでは?

 む、オーロラが2本目を飲み終わって……そろそろこちらもいい具合か。いい加減この食欲をそそる匂いを嗅ぎながらひたすらに回転させるのは苦行と呼べるレベルだった。


「よし」

「――!」

「反応速いな、オイ」


 そろそろいいかな、なんて言おうとしたところでグラスに口を付け一気飲みの体勢だったオーロラが磁石でも向けられたんかと思うくらいの勢いでこちらを向いてその視線の標準を俺ではなくマンガ肉に合わせている。オーロラ自身、楽しみにしていたから分からんでもないが。

 という訳で、マンガ肉焼けたわけだけど。ここで皿に置く前にやるべき作業が一つある。実際はやらなくてもいいんだけれど、どういう訳かマンガ肉を焼いた人物の大半はやりたくなる衝動に駆られる。俺もその類に漏れなかったようで、マンガ肉から飛び出た骨を掴み天に向け叫んだ。


「上手に焼けましたああああああああああああ!!」

「――!!」

『~こんがり肉が出来た~』

『やるやる』

『くれえええええええええ』

『なお焼けるのに1時間かかる模様』

『ゲームでは30秒もかからんのにな……』

『現実だともはや生肉だからな?』


 ククク、我ながら良い出来だ。肉から滴る脂が夜空の星々や月の明かりを受けて光り輝いておるわ。

 おぉおぉ、自然と口から涎が溢れてきやがる。止めようとしても止められない。抗いがたしマンガ肉の魅力に体が待ち望んでいるかのようだ。どこぞのアドベンチャーグルメ漫画かよ。


『涎たすかる』

『その涎売るつもりない?』

『言い値で買おう』

「当店では取り扱いのない商品ですね」


 コメントもそんなことを言っているが、冗談だろう。本当に涎を買う変態が俺の配信にいてたまるもんか。よし、いない変態のことを考えることよりも目の前のマンガ肉だ。

 高齢の人や噛む力……咬合力って言うのか?それに自信がない人は切り分けて少しずつ食べるらしい。

 俺は問題ない。自慢じゃないが顎の力はそれなりにあるつもりだ。手羽先の持ち手も絶対食べるしスペアリブの軟骨の所もキチンと食べる。男の時に武道さんと飲みに行った時に食べたチキンバーの骨の端っこの所を食べたときは引かれたな。

 では、オーロラは?もしかしたらその小さな体だし、マンガ肉を正面から齧るのはオーロラでも難しいのでは……


「――♪」


 問題なさそうですね、餌を前に『待て』を命じられている犬か己は。しかし、ここまで期待されちゃ待たせるのも可哀想だな。


「オーロラ、食べよう!」

「――!」


 輝く瞳を向け、激しく頷くオーロラに俺も相好を崩し、一度マンガ肉を皿に置いて手を合わせる。そして声高らかに叫ぶ!


「いただきます!」

「――!」


 同時にマンガ肉に噛り付き、俺達は声にならない声を上げた。それは、星瞬く夜空に吸い込まれていった。

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