【実は】キャンプ配信・夜の部【死にかけてました】

「はいどーもぉ!昼の配信を見てくれた人はまた会ったな!今日初めて配信見る人はどうもだ、ジョージだ!戸中山ダンジョン常連のジョージだ!」

「――!」

『ハァイ、ジョージィ』

『待って聞き逃せない情報口走ってない?いいの?』

『戸中山ダンジョンってどこやねん』


 なんとか、ギリギリ配信予定時間に間に合った俺は薄汚れた服装の埃を出来るだけ払い、配信を開始させた。始まってからすぐに語った内容にコメントの理解が追いついていないようだが、どうせあんだけ衆人の目に晒された上に何人かはスマホを操作していたんだ。大方、俺が戸中山ダンジョンにいたのはバレているのだろう。ならもう、自分から白状しちゃえばいいよね!という訳だ。

 ちなみに俺を逃がすための犠牲となってくれたトラバサミ君たちは無事回収することが出来た。多少傷ついていたり歪んではいたものの普段使いには問題のない損傷だった。いや、本当に良かった……!!


「事情知っている人がいるかもしれないけど、俺さっきまでアカオオダイショウと闘ったのね?」

『アカオオダイショウとかマジかよw』

『画像とか出回ってたもんな』


 やっぱり既に拡散されていたか。止める隙も気もなかったからしょうがないところではあるが、少しムカつくな。百歩譲って撮るのはいいけれど、ネットにあげるのは俺は許可してないよ?

 念のため、確認してみたら……あーらら、座り込んでる時の写真撮られてるよ。こりゃ恥ずかしいな。おまけに跳んで逃げた時の真下からのショットも上がっている。……気持ちこっちのほうがいいねRT多くないですか?


「カーッ!この写真俺あげていいなんて言ってないからね?そも写真撮っていいなんて言って無いし!」

『撮りたくなる気持ち分かるけどアカンわな』

『言うてワイも抑えられる気がしないんご』

「そこは抑えてね、人として」


 こればっかりは信用するしかないね。

 さて、話は終わったとばかりに俺はクーラーボックスからあるものを2つ取り出す。まず1つは鹿のバラ肉とロースを薄切りにしてタレにじっくり付け込んだもの。そしてもう1つをドカンと大きな音を立ててテーブルに載せる。


「じゃん!銀色の奴!」

「――!」

『銀色の奴は奴だけど瓶やんけぇ!』

『そこは焼くの魚じゃないんかい!』

『捌いていくぅ!』


 そう、かの有名なスーパーでドライな瓶ビール様だ。普段は瓶ビールなんて買わないんだけど折角のキャンプ配信なんだから有りだろう。ほら、取り出した先からオーロラがグラスを頭の上に支える様に乗せて今か今かと待ち遠しにしている。慌てなさんなお嬢さん、今注いであげますからね。

 瓶から注ぐビールは缶とはまた違った良さがある。トポポと音を立て黄金色の液体が気泡と共にグラスの中で踊り狂う。ささっとオーロラの分を注ぎ、次に俺の分!なみなみと注いで――グイっと口にの中に迎え入れる。

 嗚呼、この一杯のために俺はアカオオダイショウから生き延びたんだなぁと実感する。炭酸のせいで涙が出そうになるところを乱暴に拭うことでこれを阻止。よし、のどを潤したら次は焼くぞ!


『あの無言で飲んで無言で焼くのやめてもろて』

『ASMRにはマイクが遠いんじゃないか?』

「おやこれは失敬。ただ、ビールが美味いのが悪いんだ、俺は悪くねぇ」

『親善大使!?』

『気づいたらオーロラちゃんも黙々と飲んどるやんけぇ!肉焼いてるのに柿ピーも食ってるしw』

「え?あ、ほんとだ!」

「――♪」


 いつ取り出したのか、本当に柿ピー貪ってるよこの子。それ、ファッションショー中に俺が食べるつもりだったんだけど、見つかっていたのか。独り占めにするつもりは無かったからいいけども。

 うーん、鹿肉も美味い!普段焼肉は味付けは塩が基本なんだけどたまにはタレも悪くない。家で握ってきた塩おにぎりとも抜群に合う。うん、これぞバーベキュー!


「さて、皆さんこれからファッションショー!と行きたいところですが、ここで前座が入ります」

『前座?』

『ストリップショー?』

「はい、おひとり様ブロック入りまーす」

『MATTE!』

「ほら、アカオオダイショウ倒したじゃん?したらほら、こんなに立派な宝箱!」


 カメラの前に持って行って見せるアカオオダイショウからドロップした宝箱。出した瞬間、コメントが沸くわ沸くわ。やっぱりみんなこういうの好きなんだなぁって。

 俺があの場で宝箱を開けずに持って帰ったのは、配信のネタとするためさ!案の定大盛り上がりで、俺ぁ満足だ。


「ちなみに他のダンジョンでアカオオダイショウからドロップした宝箱って知られてるの?」

『蛇腹剣とか聞いたことあるよ』

『ポーションとかも出るらしいね』

「蛇腹剣かー……あの鞭みたいな剣はロマンがあるよね。使い切れそうにはないけど」


 漫画では赤い髪の死神が。ゲームでは中性的な戦国武将が使っているのを知っている。あれ、創作物だから簡単そうに扱っている様に見えるけど実際は相当修練しないと使いこなせないよね。

 もし、この宝箱から蛇腹剣が出たとしても――記念品として配信部屋にでも飾っておこうか。


「折角命からがら生き延びたんだ、せめて形に残るようなものがいいけど……では!開封の儀!」

『爆死こい』

『凶と出るか大凶と出るか』


 宝箱の蓋に手をかける。オーロラも中身が気になるようで、グラス片手に俺の肩に乗る。乗るのはいいけど、服に水滴垂らさないでね?ビックリしちゃうから。

 改めてオープン!ん?あの矢が出た宝箱みたいに発光するとか演出ないの?そういえば、トラバサミセットの時も特に発光とかしなかったか。じゃああの矢は何なんだ?今はAカードに収納してるけど……おおっと、そうだ。今はこの宝箱の中身だった。えーっと、中には2つ?


「赤い蛇革の長財布と……同じく蛇革のベルト?」

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