いいから帰して!配信できない!

 この声、間違いなく武道さんだわ。あの人、職員になるまではバチバチの冒険者だったからこういう事態には真っ先に動くんだよな。知らない仲じゃないし俺を心配してあんな大きな声を出して探してくれているんだろうけど……故に俺は隠れてやり過ごすという選択肢が消え失せてしまった。ここで隠れたら良心が痛みすぎる……っ!!

 まぁ受付に電話した時点でね、身バレする覚悟はしていたわけだからまぁ……良くはないけどいいんだけどさ。それでもやっぱりちょっと抵抗が――


「おったああああああああああああああ!!」


 見つかっちゃったぁ……慌てて目に残った涙を乱暴に拭い、声のした方に視線を移す。

 実は別れて俺を捜索してて俺を見つけたのは武道さんだけ、なんて最後の希望を抱いていたんだけれどな。脆くも砕け散ってしまったよ。いるわいるわ、大股開いて俺を指さして叫ぶ武道さんの後ろに見知った顔と見知ってない顔がちらほら。友風さんが応援要請してくれた結果なんだろうけど、ざっと20人はいるな。

 しかも、俺の姿を認めるや否や互いに顔を見合わせて何か話し出すし。大方、「あれエルフ?」みたいな話だろう。えぇ、そうです。私がエルフです。……ん?


「譲二さああああああああああああん!」

「ちょっ!武道さん!?」


 涙と鼻水で顔を汚しまくった武道さんが向かってきた!?心配してくれたのはありがたいけれど、流石にそれを受け止めるのは汚すぎる!男の友情関係なく躊躇しちゃうから!そう思いつつも、ここで拒否してしまえば、2人の間にしこりが残りそうなので俺は黙って受け入れ――あ、止まった。


「アカン、このままやとセクハラになってまう!」

「そこら辺の理性は残ってたんですね?」


 別に武道さんならハグしたところで訴えたりしないのに。もし邪な考えを持っていたとしてもその時は奥さんの冬子さんにチクるだけだけど。ってか俺がしゃべっただけで冒険者たち「おぉっ」ってなるのなんなの?俺、有名人か何かなの?


「失礼、武道さん」


 そんな中、冒険者集団の中から一人の男が前に出てきた。ふむ、中々のイケ顔だが見たことの無い奴だな。おっと、オーロラ。すまないが、このポーションを背中に振りかけてくれ。いい加減アドレナリンが切れて痛み出してきた。追加で泣きそうなのを堪えているのを褒めて欲しいくらいだ。


「俺達は1人の冒険者がアカオオダイショウに襲われていると聞いて参加したのだが……そちらの女性、いやエルフがそうなのかな?」

「……あぁ、そうや」


 妙にキザったらしい口調の冒険者の問いかけに武道さんは涙も鼻水も引っ込め、少し低い声で答える。


「何故、エルフが襲われていると教えてくれなかったのかな?」

「言うたところで自分、信じるんか?」

「信じないね」


 うん、俺もキザ男の立場でも信じないね。そりゃ襲われているのがただの冒険者って言った方が信憑性はあるよね。実際これだけの冒険者が来てくれたんだから。

 あー、そこそこオーロラ。久しぶりに大怪我にポーションかけたけど、どうしても治療の間はむず痒いな。


「まぁそこはいいんだよ。俺が言いたいのは報酬はどうするのかって話。アカオオダイショウの素材が手に入ると思ってきたんだ。それで来てみたら倒されているじゃないか。これではとんだ無駄足だ」

「報酬は前払いで払ろうたやろがい」

「それじゃあ足りないって事さ。そこのアカオオダイショウの素材、少しくらい分けてくれてもバチは当たらないんじゃないかい?」


 いや当たるのでは?お前らが来た経緯は知らんけど、このアカオオダイショウは俺一人――いや、俺とオーロラで狩ったものだからキザ男に分けるもクソも無いんだけどな?と言いたいところだけれど、それを口にしても面倒なことにしかならない気がする。

 今でさえ、キザ男の発言に武道さんの瞳孔が僅かに開き、青筋が立ってきている。


「いいよ、武道さん。前払いした報酬分、アカオオダイショウの素材分けてあげて」

「はぁ!?何言うとるんジョージさん!」

「おや、エルフさんは話が分かるようだ」

「曲がりなりにも助けに来てくれたんだ。俺自身が礼をしなくちゃな」


 なーんて殊勝なことを言ってるけれど、一刻も早くこの場を離れて隠しエリアに戻って配信したいだけだ。そのためなら、巨大なアカオオダイショウから取れるほんの一部の素材なんて幾らでもくれてやる。流石に全部は困るけどね。


「だから武道さん、一旦アカオオダイショウ持って帰って分配してもらえる?俺はしなくちゃいけないことあるから」

「そらええけど……しなくちゃいけないこと?体は大丈夫なんか?」

「怪我も治ったし、支障は無いよ。そんじゃ、俺急ぐから!オーロラ!」

「――!」


 傷と共に抜かしていた腰も回復したようで、ドロップした宝箱を抱え込みしっかりと立ち上がった後、地面を蹴り高く跳躍。アカオオダイショウからの逃走劇で自分の体の動かし方を把握できた俺は軽々と冒険者集団の上を素通りする。ムッ、スマホを構えて撮影してる輩がいるな?だが、構っている暇はない。日は沈み始めている。急いで戻って準備して配信開始せねば――!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る