そんなもの回収しなくてよろしい!

「ぃよし、こんなもんかな?」

「――?」


 1時間かけて、漸くマンガ肉その他大勢の仕込みが完了した。いやぁ、中々に疲れた。キャンプ配信だなんて企画が無ければ積極的にやりたくないなこれは。まぁその分達成感はあるけれどね。オーロラも興味深そうに俺が仕込んだブツを眺めている。

 ふふふ、期待したまえよ、オーロラさん。こいつぁ火にかければすぐに爆発的にいい匂いを……うん?ちょっと待て?匂い?そういや、この隠しエリアって匂い漏れるの?

 その可能性に至った瞬間、少し残っていた酔いが醒めていくのを感じる。……やばい、検証しなければ。しかしオーロラはファッションショーの順番決めの最中。それを俺が邪魔するわけには行かない。


「オーロラ、ちょっと外出てくるわ」

「――?」

「いや!すぐに戻ってくるから服選びしてて!」


 案の定、大丈夫?ついてこうか?だなんて言ってくれるのでこれを拒否。言うて外出て匂いが漏れていないか確認するだけだからね?そんなことにオーロラさんのお手を煩わせる訳にゃいきませんよ。

 という訳で、こんがりと焼いたにんにくを用意。待ちなさい、オーロラ。これは君のじゃない。やめなさい、近づいたら服に臭いついちゃうでしょ!アカンから!



 食い意地張りすぎじゃないかな、あの妖精。諦めさせたからいいけれども……ファッションショーが終わったら超ニンニク盛の焼肉を所望された。あの子の将来が心配な俺です。

 まぁ今に始まったことじゃないからと自分を納得させながらも実験を開始する。隠しエリアの出入り口である、透明のカーテンの前に立ち、俺的には良い匂いを放つ焼きにんにくを小皿に置いて地面に置く。――今更だけど、何で俺はこの透明なカーテンを認識できているんだ?――そんでもってカーテンを捲り、隠しエリアの外……つまりは山ダンジョンに出る。

 ふむ、にんにくの匂いはまだするな。やはり外に漏れているのかな?であれば配信で焼く量を考え直さなければならない。この山ダンジョンの麓は基本的に草食のモンスターが現れるが、極稀に肉食のモンスターも現れる。そんなモンスターが匂いに集まって外に出た瞬間に襲われるなんて笑い話にもならない。だからこそ、匂いには気を付けねば……あれ?カーテンから手を離し、隠しエリアに繋ぐ穴のような物が透明カーテンによって隠れたら一気ににんにくの匂いがしなくなった。残り香なんてそんなちゃちなもんじゃあねぇ、本当ににんにくが近くにあるの?なんて思えるほどの無臭っぷりだ。


「マージか、光明が見えた」


 諦めた所への逆転サヨナラホームラン。ここで声が出ないわけがない。一先ずは安心だわ……これで夜配信の酒のアテが無くならなくて済む。最悪焼き野菜のフルコースを覚悟していたよ。

 いやぁ、安心した。ならもう懸念事項は無いね。仕込みで疲れたし、夜の部配信開始まで少し仮眠でも取りますか。なんてことを考えながら、透明カーテンに手を伸ばそうとした瞬間。俺の耳に聞き逃せない音が。


「ぎゃあ――!」

「――れか――けてくれぇ!」

「ちぃっ!オーロラ!」


 俺の行動は早かった。カーテンを捲り上げ、あらん限りの声を張り上げ、オーロラを呼んだ。ただならぬ俺の声に何かを察したのか手に持っていた洋服をかなぐり捨て――あ、ちゃんと綺麗に畳んでる、偉い。――颯爽とこちらに飛んでくれた。


「――!?」

「恐らく近くで冒険者が襲われてるっぽい!とりあえず確認に行く!」


 オーロラを肩に乗せ、全力で地面を踏みしめ、駆ける。聞こえた声は遠くに感じたが、俺のこのスピードがあればそれに近づくのも大した労力ではない。その証拠に見つけた!


「誰か!誰かぁ!」

「ヒッ来るなぁ!」


 俺が聞こえた2つの声に合致している。声の正体は2人の男……若いな、20代前半か?及び腰で明らかに何かから逃げている。そしてその2人を追い立てている者の正体。それがすぐに俺の視界に現れた。


「シュルルル……」


 それはしきりに舌を出し、獲物――つまりは逃げる2人の冒険者を捕捉し続けている。その姿はぱっと見蛇。しかし、ただの蛇ではない。まずデカい。世界最大の蛇なんて鼻で笑えるほどの土管とも思えるほどの胴体。体長は10メートルはくだらないだろう。そして極めつけにその鱗は血のように紅い。これはもはや翼も手足もないドラゴンでは?うん、そんな目の前の存在に心当たりがある。どうしてこう、フラグを回収しちゃうかなぁ……?

 アカオオダイショウじゃんかぁ!

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